3Dプリンターの家、日本国内で今夏より発売開始! 2023年には一般向けも。気になる値段は?

更新日:2022年5月13日 / 公開日:2022年5月13日

当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

2022年3月、愛知県小牧市に完成した3Dプリンターの家が話題になっている。広さは10平米で、完成までの所要時間が合計23時間12分、300万円で販売予定とのこと。手掛けた兵庫県西宮市にある企業、セレンディクスCOOの飯田国大さんに、詳細や今後の展望について話を聞いた。

まずはグランピングでの利用として展開予定

10平米のスフィアは、グランピングを想定して設計された建物(C)CLOUDS Architecture Office

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完成したのは「Sphere(スフィア)」と名付けられたプロトタイプ。広さ10平米の球体状で、今後はこれをもとに改良されていく。最初に量産向けにつくられる10棟の用途はグランピング。10平米を超えない場合、現行の建築基準法外の建物と扱われ、水回りはない。今回は10棟が建設される予定だ。さらに2022年8月には、一般向けの販売もスタートさせるという。

スフィアは直感的に「未来」を感じさせるデザインで、スマートロックやヒューマンセンサーといったIoT、オフグリッドのシステム(電力を自給自足できるシステム)、ホームオーナーの要望に対応する個人ロボットなどといった最先端の技術も多数取り入れられている。

スフィアは未来を感じさせるデザイン。機能面でも、IoTなどの最新技術が投入される予定だという(C)CLOUDS Architecture Office

日本人の4割がマイホームを持つことができない

「ゴールは、3Dプリンターで家をつくることではない。未来の家、世界最先端の家をつくり、人類を豊かにすることが目的なんです」と飯田さん。そのために、最終的には「100平米で300万円の家を実現すること」を目指している。

「現在、日本人の住宅ローンの平均完済年齢は73歳といわれていることをご存知ですか?」

投げ掛けられた飯田さんの言葉にハッとした。

「2020年度の住宅金融支援機構の住宅ローン利用者の平均値から見ると、借入時の平均年齢は40.3歳、借入期間の平均は33.1年で、単純計算で、完済時の年齢は73歳となる。また、総務省『平成30年住宅・土地統計調査』によると、持ち家率は61.2%となっており、約4割の人は家を持ってはいないということになります」(飯田さん)

こうした大きな負債を長期にわたって抱える住宅ローンという問題を、既存の「家づくり」の常識にとらわれない手法で解決することにしたのだという。

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この「3Dプリンターの家」完成のニュースは、世界26カ国59媒体に翻訳され掲載された。それだけ、住宅に関する万国共通の問題は深刻で、多くの人の関心の的だと言えるだろう。

車を買い替えるように家を買い替えられるようにしたい

3Dプリンターの家は海外ではすでに提供され始めているが、それらとスフィアとはいくつかの違いがある。

1つ目は、「鉄筋などの構造体が必要ない」こと(べた基礎には躯体を接続するために鉄筋を使用してつないでいる)。そのため、自然災害に対して物理的な耐久性があるという“球体”のフォルムも実現できた。球体の安定性は、壁厚30cm以上、10平米で重さ22トンになるコンクリート構造により、頑丈さを確保している。

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2つ目は、「家づくりに対する考え方」。「海外の3Dプリンター住宅のメーカーは、既存の家づくりの延長線上でしか考えていないと感じます。既存の家づくりにおけるパーツを3Dプリンターでつくる目的で利用していることが多いのです。そのため、『資材のコスト・人件費・施工時間』において抜本的な改革ができていなかったんです」と飯田さんは話す。

スフィアでは、3Dプリンターで出力した場合に最適な形を導入することで、施工時間計24時間以内を実現。単一素材(コンクリート)を利用することで資材のコストが低くすみ、3Dプリンターが自動ですべての作業を行うため人件費もかからない。こうした従来の家づくりとは違ったアプローチで既存の平均住宅価格の10分の1を目指している。

今回完成させたスフィアは、コロナ禍でプリンターの準備が遅延したため、最終的に海外で書き出し(印刷)・施工した。しかし今後は、建設予定地にプリンターを持ち込んで直接印刷していくことで、さらに時間や労力の面での負担を減らしていくという。

海外で書き出した家が、日本に届いた様子(C)CLOUDS Architecture Office

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「今回の住宅の壁の書き出しには12時間ほどかかっていますが、現在、私が最も信頼を置いている住宅用の3DプリンターメーカーのApis Cor(アピスコ社/米国)に改善ポイントを求めたところ、最終的には4時間でできるようになると言っていました」と飯田さん。

時間が短縮されれば、生産が効率化でき、人件費も下がり、その分販売価格も下げられる。
「将来的には、車を乗り換えるように、家を買い替えられるようにしたいと思っているんです」(飯田さん)

飯田さんは、住宅の価格を安くするだけでなく、都市部から離れた土地の価格が安い場所に建てることで、さらにコストダウンができないかと考えているという。未来には空飛ぶ車が一般的になっているかもしれない。そうすれば、今より移動も格段に便利になる。飯田さんは現在、政令指定都市である福岡市から車で90分かかる場所に住み、そのプロジェクトの実現を目指している。

データを共有することで世界中で同じスペックの家を建てることができる

愛知県小牧市に建てられたスフィアの建設現場。壁の厚さがよくわかる(C)CLOUDS Architecture Office

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スフィアの住宅性能面はどうだろう。写真の壁の厚さからわかるように、断熱性能は日本より厳しいヨーロッパの住宅基準をクリアし、耐震面では日本の最先端の耐震技術を採用している。

「壁厚が30cm以上、10平米で20トン以上の重さがあるコンクリート製の家です。ビルのような頑丈さで、住んでいても安心感をもってもらえるはずです」と飯田さん。

こうした高品質の住宅を、既存の住宅価格の10分の1で提供できれば、住宅価格が10年で2倍になっているカナダをはじめ、住宅価格の高騰といった先進国で進行しつつある住宅問題に対する課題解決につながると考えている。

世界中でデータを共有できるという点も3Dプリンターならではの大きな強みだ。データを共有すれば、同じスペックの家を世界中のどこでもつくることができる。

スフィアのデータ(C)CLOUDS Architecture Office

世界中の企業90社が開発に参加

日本では長年、建築基準法の関係や、技術的な点から「3Dプリンターの家づくりは不可能だ」といわれてきた。スフィアが構想から3年と驚異的なスピードで完成したことに対して、飯田さんは「コンソーシアム(共同事業体)による、オープンイノベーション(課題を共有し、意見やアイデアを取り込んで進める手法)だから実現できました」と話す。

コンソーシアムとは、同じ目的のもとに、異なる事業や専門をもった人・企業が集まった組織のこと。今回のプロジェクトには世界中の企業90社が参加。今後、参加を検討している企業を含めると150社を超えるという。

「セレンディクス1社で3Dプリンターの家をつくろうとしていたら、課題だらけだったでしょう」と飯田さん。スフィアのデザインをした、ニューヨークの曽野正之とオスタップ・ルダケヴィッチのデザインを、実際の図面に落とし込んだのは、ヨーロッパにいるチームで、さらに日本の耐震基準を通せる形に修正したのは、コンソーシアムに所属する日本の専門家たち、そして海外で書き出し(印刷)を行ったのは中国とカナダだったという。その上で、今回の施工時には、日本でコンクリート住宅を長年扱い、ノウハウをもった企業「百年住宅」が参画することで、1パーツ6トンにもなる壁を難なく取り扱えるようになった。

「コンソーシアムに参加してくださったのは、30年ローンで住宅が販売されている時代の限界を感じている人たちの集まり」とのこと。中には大手住宅メーカーなどの人もいて、未来の住宅にまつわる環境づくりに協力したいと考えているのだという。

スフィアを2つつないだ様子(C)CLOUDS Architecture Office

「今回のスフィア開発に対して、実はセレンディクスは1円も出していないんです。コンソーシアムに関連する企業が、手弁当で協力してくれています」(飯田さん)。もちろんそれぞれの参加者や参加企業には、「技術を提供したい」「販売にかかわりたい」といった理由がある。

だがそれ以上に、同じ「課題を解決したい」という目的をもつことが、プロジェクトを一緒に動かす原動力になっていると話す。飯田さんは、オープンイノベーションの力強さを目の当たりにし、それぞれの力を結集させて新しいものをつくり出すことへの熱意と可能性を見出したと語った。

セレンディクスCOO飯田国大さん(写真提供/セレンディクス)

2023年春に3Dプリンターの家(49平米)を一般販売予定

「いきなり3Dプリンターハウスに住め、というと抵抗がある人も多いと思うので、まずは別荘やグランピング施設としてなじんでもらい、その次に一般の住宅にも導入していこうと考えています」と飯田さん。

一方で「プロジェクトを立ち上げて以来、300件以上の購入希望の問い合わせがある」という。特に、60歳以上のシニア層からの問い合わせが多いことに驚いたという。

シニアからの問い合わせの理由には、「家のリフォームが必要になったが、見積もりで1000万円以上だった」や「一生賃貸でいいと思っていたが、60歳を過ぎたら家が借りにくくなった」といったことなど。手ごろに手に入る終の住処を購入したいというニーズが改めて浮き彫りになっているという。

こうした背景から、建築基準法に準拠し、鉄筋構造を含めた49平米の平屋の建設へ舵を切った。慶應義塾大学の研究機関と一緒に開発を進めている通称「フジツボハウス」は、2023年春には500万円以下の価格で販売開始予定だ。

慶應義塾大学の研究機関と共同研究で進められている49平米の平屋住宅は、来年から販売開始予定(C)CLOUDS Architecture Office

「2025年以降、すべての人から住宅ローンを無くしたいと思っている」と話す飯田さん。今、さまざまな企業が着目し、開発を進めている3Dプリンターの家。3Dプリンターの家によって世界中の住宅問題を解決できる日がくるのか、待ち遠しい。

●取材協力
セレンディクス

※関連資料
総務省『平成30年住宅・土地統計調査』

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