更新日:2022年11月11日 / 公開日:2022年11月11日
注射と聞くと、それだけで身構えてしまう子も少なくないことでしょう。大半の子どもにとって怖い注射ですが、病気の予防や治療のためには必要なものです。どうせ打たなくてはならないなら、子どもも大人も少しでも楽に済ませたいですよね。そのためにはどうすればよいか、効果的な乗り切り方をお伝えします。
(解説:臨床心理士・公認心理師 たかだちかこ/うららか相談室)
注射を怖がる理由は子どもによって様々で、同じ子どもでもその時々によって違う可能性もあります。激しく怖がる場合、もしかしたら大人が想像するのとは別の理由があるのかもしれません。
まずは、なぜ注射を怖がるのか、考えられる理由から見ていきましょう。
一番想像しやすい理由は、やはり痛いからですが、注射というものを知らなければ痛いことも予測できないので、注射を打つまでは痛みを怖がることはありません。
痛みを恐がるということは、過去に痛い思いをした経験があるからであり、経験から予測を立てられるようになったという意味では、精神的な成長の表れとも言えます。
注射そのものよりも、注射にまつわる特別な状況を恐れるケースもよくあります。
身体を抑えつけられることやその時の苦しさが怖いという子もいます。
また、病院や子どもの年齢等によっては子どもだけで注射を受けることもあるので、保護者と引き離されて心理的に味わった恐怖が注射の恐怖と重なることもあります。
さらに、白衣、病院独特のにおい、注射器の視覚的な怖さ、慣れない場所など、注射をするところの雰囲気が大きな恐怖を引き起こすのは珍しいことではありません。
注射にまつわる一連の経験も、その後の注射嫌いに繋がることがあります。
注射の前後に泣いたり、暴れて注射が打てなかったりすることも稀ではありませんが、そうなったときに医師や保護者から叱られてしまうと、注射がとても辛い体験になってしまいかねません。
注射を嫌がるという行動の背景には、注射ではなく周囲からの対応がつらいという経験があることも考えられます。
注射とは言わずに連れていきたいと考える親御さんもいるかもしれませんが、子どもからの信頼感をなくさないためにも、注射に行くことは事前に伝えた方が良いです(特に配慮の必要な子はそうとは限りません)。
いつ、どう伝えればいいのかは、子どもの性格や年齢によっても異なりますが、大まかな傾向を見ていきましょう。
子どもの注射はワクチンが中心になります。一般的なケースでは、生後2か月から定期接種の推奨期間が始まりますが、0歳の赤ちゃんには注射の効能や「注射に行くよ」という声かけの意味を理解するのは難しいですよね。
赤ちゃんは周囲の人々の言葉かけによって、声のトーンや表情などから様々な情報を受け取り、それが言葉の発達や人への信頼感を育みます。ですから、日頃からお出かけの前などあらゆる場面で声かけをすると良いのですが、注射の場合も例外ではありません。いつも通りの声かけの一環で「今日はお注射に行こうね」などと話しかけてあげると良いでしょう。
赤ちゃんを注射に連れて行く時、保護者の方が緊張していることもあるでしょう。声をかけることで大人側の緊張がほぐれる効果も期待できます。
1歳を過ぎると徐々に大人の話す内容を理解できるようになっていきます。病院という場所やワクチン接種も既に体験していることだからこそ、内緒で連れていかれた時のショックは大きくなってしまいますので、隠さずに話すことが大切です。
当日の朝からお家を出る前までに、子どもの理解度に応じて簡単に話しましょう。
3歳~6歳くらいになると、注射をするメリットを大まかに理解できるようになってきます。 ・ワクチンで予防できる病気があること ・たった数秒の注射を我慢するだけで怖い病気に対抗できること などを日頃からお話しておくと良いでしょう。
そして、遅くとも当日の朝までに伝えます。子どもの反応によっては、病院についてから帰宅するまでの流れを説明してあげると、見通しが立つので安心に繋がります。
小学生は、なぜワクチンを打つかを充分理解できる子が多くなるので、学年や理解度、性格や子どもの要望などに応じて、必要性を説明してあげましょう。
小学生の場合、数日前から伝えておくと、子どもの中で心の準備や予定の調整がしやすいかと思います。
年齢ごとにいつ・どのように伝えるかの目安をお伝えしましたが、伝える上では「タイミングがいい時」と「悪い時」もあります。
何歳であっても、親子ともに穏やかで落ち着いて話を聞けそうな時に伝えることが大切です。子どもから疑問や不安が出てもしっかり答えられるよう、時間に余裕があるタイミングを選ぶと良いでしょう。
昨今はコロナの関係でワクチン関連のニュースにも触れやすいですから、そのような機会に「大切なことだね。今度あなたも○○(ワクチン名)の予防接種をしに行くよ」と伝えるのもいいですね。
逆に、子どもの機嫌が悪い時や眠い時、別のことで不安を感じているようなタイミングでは、注射のお話は避けた方が無難です。
伝える側がイライラしているときや子どもを叱った後などは、注射が罰のように捉えられてしまうといけないので、やはり避けた方が良いです。
ここからは、注射に行くことを伝える際、子どもの恐怖や不安をできるだけ軽減できるような言葉かけについてお話します。
注射がワクチンの場合は、病気を予防するためのものであるという説明は欠かせません。 「注射で予防できる病気はたくさんあるから、何度も注射に行かなきゃいけないけど、打てば打つほど病気に負けない強い身体になれるよ」 などと伝えられると良いですね。
子どもの興味や年齢に応じて、病気や免疫のことをより詳しく話して理解を深めるのもいいですね。注射をテーマにした絵本を一緒に読むのもおすすめです。 「ワクチンって大切なんだね」 「この◯◯も注射がこわかったけど、がんばったね」 などと、ゆっくり子どもの心に馴染んでいくように諭せるといいですね。
注射の大切さを説明したとしても、病気になるとどうなるのかまで考えがおよばないこともあるでしょう。そんな場合は、 「今日する注射は、重い病気にならず、毎日元気に遊んだり美味しいものを食べたりできる身体でいるためだよ」 など、子どもが好きな遊びや食べ物を具体的に挙げてお話すると、小さい子にもイメージしやすいです。
子供の中には、まるでずっと痛みがあるように思ってしまう子もいるでしょう。 「ちょっとチクッとするけど、3つ数える間に終わるよ」 などと、どのぐらい我慢したら終わるのかを伝えてあげると、不要な不安から解放されやすくなります。
不安や緊張が強い子には、安心できるぬいぐるみやおもちゃがあれば、 「それを持っていっていいよ」 「○○も応援してくれてるよ」 と盛り上げるのもいいですね。
注射の重要性を説明して、子どもなりに理解して受けられれば一番ですが、それでもやはり「ご褒美」があるとがんばりやすくなるのも事実です。 「これが終わったら、◯◯ちゃんの好きなお菓子を用意してあるからね」 「今日の夕飯は◯◯くんの大好きなものを作るよ、がんばろう!」 などとささやかでいいので、楽しみにできるものを予告してあげられるといいですね。
注射への恐怖を取り除こうとするあまり、別の不安を煽るような声掛けになってしまうのは避けたいところです。 「注射しないと、もっと怖い病気になっちゃうよ」 「これくらい、みんな我慢してるよ」 「もう〇歳でしょ!」 これらの言葉は、子どもに素直な気持ちを言いづらくさせ、より不安を強めかねません。
泣くことは悪いことではないので、泣いたことを否定するような声掛けはしない方がよいです。 泣いてしまうくらい嫌だったのに、注射という目的を達成できたことを褒めてあげましょう。
注射は怖いけれど、健康を保つための大切なものです。だからこそ、子どもなりにその必要性を理解して、「自分の身体のためにがんばるぞ」と前向きに臨めるといいですね。 そのためには周囲の大人のサポートが必要です。だまし討ちのようなことはせず、本当のことを分かりやすくお話して連れていき、注射の後は思いきり褒めてあげましょう。 注射を「頑張ったら嬉しいことがあるイベント」にすることができたら、子どもも連れていく大人の方もきっと楽になります。
————————— そのほか、注射を嫌がる子供へのアフターフォローのOK/NG例や、大人の注射嫌いの克服方などは以下の記事で詳しく解説しています。 ▶︎大人にも多い「注射が怖い」に効果ありの対処法!子供の予防接種はいつ・どう伝える?【心理カウンセラー解説】 (文:うららか相談室 たかだちかこ/構成:マイナビ子育て編集部)
※本記事は上記の記事を一部抜粋したものです ※画像はイメージです
心理カウンセラーが解説「親子の心理学」シリーズの記事はこちら>>>
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この記事の執筆者 臨床心理士・公認心理師 たかだちかこ 先生
臨床心理士・公認心理師。心療内科や児童相談センター、学校、被害者支援施設など、多くの現場で相談や心理検査を経験。親子・夫婦関係・子育て・発達障害・ハラスメントやDV被害など様々な相談を得意としている。 現在、うららか相談室にてビデオ・電話によるオンラインカウンセリングを受付中。 ■たかだちかこ先生への相談
参考文献 DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル アメリカ精神医学会
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、専門家の監修を経た上で掲載しました
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