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古い建物を活かし、街並みの魅力を残す「小樽」の人々の取り組み

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当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

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古い建物を活かし、街並みの魅力を残す「小樽」の人々の取り組み

北海道小樽市は、明治・大正時代の建物が数多く残るノスタルジックな風景が魅力の街。市では、街並み保存のための指針となる「小樽市景観計画」を施行するなど、さまざまな取り組みを行っているが、実は小樽市にかかわる一般の人々も、街並みの保存や活用に大きな役割を果たしている。地元企業や人々の取り組みを紹介しよう。
貿易港として栄え、北海道経済の中心だったころの雰囲気が残る

歴史を感じる古い建物や街並みは、効果的に活用することで街の顔となり観光資源にもなる。地元の古い建物や街並みを守るために、さまざまな活用や支援を行っている自治体は多い。例えば、北海道小樽市。ここは、明治から大正のころ、貿易港として栄えた北海道の経済・文化・商業の中心地で、「北のウォール街」と呼ばれるほど繁栄した歴史を持つ街だ。小樽市では明治時代から昭和初期に建てられた、当時の最先端の技術やデザインが見られる建物を文化遺産として評価し、2017年5月現在で85棟もの建物を歴史的建造物として指定。保存と活用に力を入れることで、古き良き時代の面影が残る、観光客に人気の街となった。

実は、小樽市で街並み保存に力を入れているのは行政だけではない。街の歴史に誇りをもつ民間の人々が、古い建物の中に価値を見いだし大切に使い続けていることも、この街の趣のある景観を保つ力になっている。ここでは、地元の企業や人々の取り組みを3ケース紹介しよう。

【画像1】旧安田銀行小樽支店は現在、飲食店として活用されている。昭和初期の銀行建築に多いギリシャの建築様式を取り入れた外観だ(写真撮影/田方みき)

【画像1】旧安田銀行小樽支店は現在、飲食店として活用されている。昭和初期の銀行建築に多いギリシャの建築様式を取り入れた外観だ(写真撮影/田方みき)

【画像2】小樽運河沿いに並ぶ石造倉庫のひとつ旧浪華(なにわ)倉庫。木造の建物の外観に小樽軟石(おたるなんせき)を張り付ける工法は、当時の小樽ではよく用いられていた(写真撮影/田方みき)

【画像2】小樽運河沿いに並ぶ石造倉庫のひとつ旧浪華(なにわ)倉庫。木造の建物の外観に小樽軟石(おたるなんせき)を張り付ける工法は、当時の小樽ではよく用いられていた(写真撮影/田方みき)

ケース1.地元企業が明治時代の倉庫を活用。街並みと人の流れが変わった

小樽観光の定番スポットは小樽運河と、石造倉庫など古い建物を改装した店が建ち並ぶ、堺町通り。今では国内外から多くの観光客が集まる場所だが、にぎわうようになったのは1980年代以降のことだ。小樽運河は1986年にガス灯の灯る散策路が設けられたことで観光スポットになった。そして、さびれたエリアだった堺町通りを変えたのは、地元の企業だった。

明治時代から小樽で石油ランプの製造を行っていた北一硝子(きたいちがらす)が、古い倉庫をショップや喫茶店に転用した「北一硝子三号館」をオープンさせたのは1983年。
「この倉庫は1891年に建てられたもので、水産加工品が納められていました。所有していた会社の移転のため取り壊されることになったのですが、歴史ある貴重な建物をなんとか活用できないかと、当社が譲り受け、ガラス製品のショップと喫茶店にしたのです。北一硝子は小樽に生まれ、小樽に育てられた企業。この街のために、街並みの魅力を伝えていくことも私たちの使命だという思いからです」と、同社広報課の岡田乙志さん。これが古い建築物を再生し、成功させた小樽で最初の例となった。

ガラス製品と、吹抜けのホールにランプが灯る喫茶店が人気を呼び、北一硝子を訪れる観光客が増えたのをきっかけに、使われなくなっていた周辺の古い建物が次々と活用されはじめた。閑散としていた堺町通りは小樽を訪れた観光客が必ず足を運ぶ場所となり、小樽市内で最もにぎわうエリアに生まれ変わったのだ。

【画像3】築120年を超える倉庫を活用した北一硝子三号館。石が積み上げられているように見える外観だが、実は木造に小樽軟石の板を張ったもの。断熱性に優れた軟石は、北国の倉庫の壁材に適している(写真撮影/田方みき)

【画像3】築120年を超える倉庫を活用した北一硝子三号館。石が積み上げられているように見える外観だが、実は木造に小樽軟石の板を張ったもの。断熱性に優れた軟石は、北国の倉庫の壁材に適している(写真撮影/田方みき)

【画像4】ピアノの生演奏も楽しめる喫茶店「北一ホール」。昔は身欠きニシンなどが貯蔵されていた倉庫だった。通常、店内の照明は灯油ランプのみのためかなり暗く、中に入って目が慣れるまで時間がかかる(画像提供/北一硝子)

【画像4】ピアノの生演奏も楽しめる喫茶店「北一ホール」。昔は身欠きニシンなどが貯蔵されていた倉庫だった。通常、店内の照明は灯油ランプのみのためかなり暗く、中に入って目が慣れるまで時間がかかる(画像提供/北一硝子)

【画像5】古いものに宿る価値や質の高さを残しながら、新しいものの良さにもアンテナを張る。ショップで販売されるガラス製品には、昔からの定番品だけでなく、現在のライフスタイルや最新のインテリアに似合うようデザインされたものも(画像提供/北一硝子)

【画像5】古いものに宿る価値や質の高さを残しながら、新しいものの良さにもアンテナを張る。ショップで販売されるガラス製品には、昔からの定番品だけでなく、現在のライフスタイルや最新のインテリアに似合うようデザインされたものも(画像提供/北一硝子)

【画像6】JR小樽駅から徒歩10~15分の堺町通り。「北一硝子三号館」がある通りだ。今は、古い石造倉庫や商家を改装した店が建ち並び、週末や観光シーズンは歩道が観光客で渋滞するほどにぎわう(写真撮影/田方みき)

【画像6】JR小樽駅から徒歩10~15分の堺町通り。「北一硝子三号館」がある通りだ。今は、古い石造倉庫や商家を改装した店が建ち並び、週末や観光シーズンは歩道が観光客で渋滞するほどにぎわう(写真撮影/田方みき)

ケース2.かつての郵便局がカフェに。愛着ある建物の再生を地元が歓迎

カフェを始めたいという夫婦の夢が建物の保存につながった例もある。

大自然の写真を撮りたくて関東から北海道に移住した松本望さんは、小樽出身の愛子さんと出会い、結婚。愛子さんの夢だったカフェを始めることに。
「場所を探していたころ、市の中心部にある商店街で偶然、『貸』と張り紙がある建物を見つけて、すぐに中を見せてもらいました。1966年に建てられて、その後しばらく郵便局として使われていたかなり古い建物でしたが、中の雰囲気が良く、広さも立地も希望にぴったり。クリーム色の壁と青い扉のかわいらしさも気に入りました」(望さん)

二人は、知り合いの大工さんの力を借りながら、できるだけ自分たちの手でリノベーションを行った。
「外観も中も、もともとの色や素材がすてきだったので、残せるところはそのまま残しました。飲食店なので清潔感を出すため、壁や天井、窓枠などは塗り替えたのですが、塗料は元の色に限りなく近い色のものを探したんですよ」(愛子さん)
その結果、郵便局だったころの面影がよみがえったかのようなカフェになった。

「オープン後、近所の方たちが来店されて『懐かしい』『そうそう、こんな感じだったね』と懐かしんでくださいました。そのなかの一人に『この建物が残ってくれてよかった』と言われたんです。郵便局として使われなくなってから、賃貸住宅になったり、音楽教室として貸し出されたりしたそうなのですが、築50年を超える建物ですから借り手がいなくなれば取り壊される可能性もあり、気がかりだったようです」(望さん)

街並みから愛着のある建物が消えるのはさびしいもの。街の雰囲気に合わない建物に建て替えられる心配もある。松本さん夫妻は、建物の良さを活かしたリノベーションが、結果として街の人に喜んでもらえたことがうれしいそうだ。

【画像7】「cafe chobicha」は郵便局として建てられた築50年の建物をリノベーションし、2014年にオープンした(画像提供/松本望)

【画像7】「cafe chobicha」は郵便局として建てられた築50年の建物をリノベーションし、2014年にオープンした(画像提供/松本望)

【画像8】リノベーション前の外観。エントランスの目隠しになっている壁と赤いひさしの形が、丸型ポストのようにも見える。全体の雰囲気は今とあまり変わらない(画像提供/松本望さん)

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【画像9】「cafe chobicha」オーナーの松本望さん・愛子さん(写真撮影/田方みき)

【画像9】「cafe chobicha」オーナーの松本望さん・愛子さん(写真撮影/田方みき)

【画像10】ソファや椅子は1960年代をテーマにした家具ブランド「カリモク60」のものが中心。1966年竣工の建物にしっくりなじむ(画像提供/松本望さん)

【画像10】ソファや椅子は1960年代をテーマにした家具ブランド「カリモク60」のものが中心。1966年竣工の建物にしっくりなじむ(画像提供/松本望さん)

【画像11】窓枠は薄い緑色。窓額縁は薄く紫が入ったグレー。「自分たちでは選ばない配色で、それがすてきだと感じたのでそのままの色で塗り替えました」と愛子さん(写真撮影/田方みき)

【画像11】窓枠は薄い緑色。窓額縁は薄く紫が入ったグレー。「自分たちでは選ばない配色で、それがすてきだと感じたのでそのままの色で塗り替えました」と愛子さん(写真撮影/田方みき)

ケース3.ショートフィルム制作を通して日常の風景から魅力を掘り起こす

最後は観光スポット以外の街の魅力を探す、チームでの活動を紹介。

映像や音楽作品の制作を趣味として活動している札幌市在住の渡部さんは、仕事で小樽市へ通勤するようになったことで、観光地以外の街並みにも魅力があることに気がついた。
「小樽は海と山が近く、よい具合に湾曲しコンパクトにまとまっていて画になる街です。全体の景観が美しいだけではなく、歴史的な建物も多く、街角に独特の空気感があります。札幌から近いのに小旅行気分を味わえる街です」(渡部さん、以下同)

小樽市主催のショートフィルムのコンペティションに、小樽の街をテーマにしたミュージックビデオを出品したことがきっかけで、さまざまな人とのつながりができ、小樽の魅力を伝えるショートフィルム制作の「美女*小樽」プロジェクトを立ち上げた。
「小樽を舞台にストーリーを感じさせる2分間程度のベリーショート映像を制作中です。現在、メンバーは5名ほど。小樽の魅力をテーマに作品を撮りためています」

これまでに取り上げたのは、階段、丸型ポスト、無人駅、夕日など。いずれも、観光パンフレットには載らないような場所やモノだ。
「この街には、観光スポットではない日常の風景のなかにも世界に伝えたくなるような魅力があると感じています。誰に頼まれたわけでもないのですが、20本くらいまとまったらWEBサイトをたちあげて公開し、小樽の観光振興に役立てられればいいなと思っています」

撮影では地元の方たちにさまざまな形で協力をしてもらう。渡部さんの活動を知ったことで「自分の街にこんなに魅力があることに改めて気づいたよ」という地元の人もいるそうだ。

【画像12】「美女*小樽『増田美羽*丸型ポスト』」。市内に多く残る昔懐かしい丸型ポストが郷愁を誘う。小樽の風景の重要な一部だ。「美女*小樽」のオムニバス作品は2016年の小樽ショートフィルムセッションで審査員特別賞を受賞(画像提供/Studio ONION)

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建物は使わずに放置していると、みるみる朽ちていく。しかし、古い建物でも手入れをし活用すればその寿命は長くなり、やがて街の歴史を映した趣のある景観が育っていく。ノスタルジックな風景は、年間約400万人の観光客が訪れる小樽の重要な観光資源。自治体主導ではなく、地元の企業や街に愛着をもつ人々がそれぞれの立場で景観や建物を活かしていることが、街全体の魅力を支えているのだろう。

●取材協力
・北一硝子
・cafe chobicha
・Studio ONION 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル

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SUUMO

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