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地主、居住者、行政の“三方良し”を実現する、これからの農園付き住宅

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当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

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地主、居住者、行政の“三方良し”を実現する、これからの農園付き住宅

都市近郊の農業生産者が抱える大きな悩みは後継者不足。農地が耕作放棄地になることに加え、これまで「生産緑地」として税が優遇されてきた土地の多くが、2022年にその期限が切れ、宅地並みに課税されます。

その一方、自然、健康、食などに高い関心を持つ人たちは増え続け、市民農園が根強い人気を集めています。こうした動向をとらえて増木工業(埼玉県新座市)が送り出した農園付き分譲住宅が今、注目を集めています。現場を訪ね、その発想や魅力をレポートします。

農地という資産を守りつつ、住宅の魅力を創造する

JR新座駅から歩いて10分ほど、広い農地が残るエリアに、農園付き住宅「新農住コミュニティ野火止台」はあります。

ここを開発・販売する増木工業は、創業140年を越える長い歴史を持ち、地元の新座市を中心とする地域に密着して信頼を築いてきました。地元の地主から土地に関する相談を受けることも珍しくありません。

農園付き住宅の発想もそうした相談がきっかけで生まれました。同社の住宅事業部の大塚嘉孝(おおつか・よしたか)さんはこう振り返ります。
 
「先祖伝来の農地を持ち、お母さんが農業を続けているものの自分は公務員、後継者はいないという地主様から、農地を残す方法はないかと相談を受けました。社長(増田敏政氏)と私が対応する中で、定期借地権付きの一戸建ての賃貸住宅を建てる案が出てきました」。

定期借地権付き賃貸住宅なら、地主は土地の所有権を持ったまま、家賃に加えて地代も得ることができ、しかも固定資産税を大幅に減らすことができます(例えば東京都であれば課税標準は更地の6分の1)。この案は、土地売却より利益が少ないこと、定期借地権の期間が50年と長いことから、最終的には実現できませんでした。しかしこれを機に増田社長と大塚さんは構想を膨らませていきました。

「後継者がいなくても、先祖伝来の土地を失いたくないという農家さんは多いのです。そこで、定期借地権利用に限らず、住宅に農地を組み合わせることを考えました。これなら部分的に農地も残すことができます」。

増田社長はドイツのクラインガルテンを意識していたようです。 また大塚さん自身も、「単に不動産を細切れにして販売するだけではなく、地域に合った価値を付加した、わくわくするような街を作りたいという思いをずっと持っていました」。

埼玉県新座市は調整区域が多く、駅周辺には住宅と広い農地が混在した風景が広がっている(写真撮影/織田孝一)

埼玉県新座市は調整区域が多く、駅周辺には住宅と広い農地が混在した風景が広がっている(写真撮影/織田孝一)

そんなとき、800坪の農地を売却したいという農家からの依頼がありました。そこで、かねてから考えてきた農・住近接のアイデアを取り入れて開発したのが、「新農住コミュニティ野火止台」です。ここでは定期借地権ではなく、分譲住宅としました。

「地主様である農家さんが先祖伝来の土地を失うことを嫌うのは、土地と共に、手塩にかけて作ってきた肥沃な“土”を失うことも大きいと思います。農地付きの住宅なら、この土を活かせるのが、農家さんにとって大きな魅力なのだと思います」。

また、多くの都市近郊の農地が、「生産緑地」として受けてきた優遇税制が2022年には期限が切れることも、懸念材料となっているようです。「当社の農地付き住宅についての説明会には、多くの地主様が参加されています。土地を守り、活かす方法を模索されている背景には、この“2022年問題”もあるようです」。

敷地中央を通る散歩道が美しさと人間関係を生み出す

実際に「新農住コミュニティ野火止台」を歩いてみました。

志木街道に面した、細長い敷地に立つ住宅は15棟。敷地面積は一棟平均約35坪で、各棟に1坪サイズの家庭菜園が設置されています。

敷地の中央を、縁道(えんどう)と呼ばれるゆるやかに蛇行する散歩道が貫いているのが大きな特徴です。これは分譲地の景観を美しく演出するとともに、住まいと住まいの人間関係をつなぐ道でもあります。

「通常だと、中央に車の通れる広い道を通し、両側に住宅を配置するやりかたになりますが、それをせず、もっと自然と親しむ住宅地にしたいと思いました」。

中央部には共用畑を設けました。これは各棟の家庭菜園とは別に、入居者全員が共同利用できる畑です。畑の所有は増木工業。「もう一棟建てられるくらいの敷地(30坪強)をあえて共有の畑にしました。元地主の農家が農業アドバイザーとして農業のサポートをし、相談に乗ってくれるのも新しい試みです」。共用畑の向かいにある防災広場は、災害に備え煮炊きのできるカマドを設置する予定です。また、イベントスペースとして居住者同士のコミュニケーションを図る場として活用していきます。

地主にとってもただ土地を売っておしまいというのではなく、農を通じた土地との関係が続き、そこに住む人たちとの人間関係もできるという点が従来とは異なる魅力になっています。

植栽や畑と一体となったランドスケープデザインは、東京・世田谷区にある建築事務所ボスケデザインによるものです。約80種類もの植栽が、暮らしを彩ります。

整備中の共有畑の前で、住宅事業部の大塚嘉孝さん(営業)と、このプロジェクトの現場監督を務めた福田千尋さん(工事) (写真撮影/織田孝一)

整備中の共有畑の前で、住宅事業部の大塚嘉孝さん(営業)と、このプロジェクトの現場監督を務めた福田千尋さん(工事) (写真撮影/織田孝一)

もう一つ、「新農住コミュニティ野火止台」の大きな特徴は、果樹が数多く植えられていることです。

「果樹を植えた理由には、この『新農住プロジェクト』が、映画『人生フルーツ』に大きな影響を受けたためです。映画に出てきた津端御夫妻のような、“実りある暮らし”を実現する舞台にしたいと考えました」。

『人生フルーツ』(伏原健之監督)は、愛知県春日井市に住む建築家の津端修一・英子夫妻の日常を追ったドキュメンタリー。その自給自足的な生活や思想が多くの人の共感を呼び、隠れたヒット作となりました。「一般に広く上映していない映画なので、当社では何度も自主上映会を開催しました。この映画に共感されるお客様は、農住接近した生活に親和性が高いと考えたからです」。

果樹が数多く植えられていることを語る、住宅事業部営業リーダーの山口愛莉沙さん。そばにあるのはザクロがなっている木(写真撮影/織田孝一)

果樹が数多く植えられていることを語る、住宅事業部営業リーダーの山口愛莉沙さん。そばにあるのはザクロがなっている木(写真撮影/織田孝一)

雨水を利用した給水システムも用意されている(写真撮影/織田孝一)

雨水を利用した給水システムも用意されている(写真撮影/織田孝一)

15棟の内、10棟にはウッドデッキを設置した(写真撮影/織田孝一)

15棟の内、10棟にはウッドデッキを設置した(写真撮影/織田孝一)

住宅には無垢材を多用するなど、自然との調和を図っています。室内の温度ムラが少ない全館空調パッシブエアコンを採用したほか、家庭用燃料電池を使った給湯システム、太陽光発電システム、電気自動車用コンセントなど、環境保全型のしくみが数多く取り入れられています。

屋内は無垢の木を多用。年月が経過し、使い込むほどに美しくなる(写真撮影/織田孝一)

屋内は無垢の木を多用。年月が経過し、使い込むほどに美しくなる(写真撮影/織田孝一)

全棟に屋根裏収納スペースがあり、可動式梯子で上がれるようになっている(写真撮影/織田孝一)

全棟に屋根裏収納スペースがあり、可動式梯子で上がれるようになっている(写真撮影/織田孝一)

「新座でも貸し農園は人気がありますし、食育や自給自足への関心も今まで以上に高まっていると感じます。「新農住コミュニティ野火止台」はそんな時代にも合った分譲住宅でもあると思います」と大塚さんは自信を見せます。昨年の11月3日、4日に開催された町開きでは、大勢の見学者を集め、盛況となりました。

農地を維持したい地主、健康的な生活を求める住民、人口流出をくい止め、景観を守りたい行政、三者いずれもが利益を得る、新しい住宅地の可能性が見えてくるようです。

●取材協力
増木工業株式会社 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル

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SUUMO

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