東京の住宅街に馬!? 自宅ガレージを馬小屋にし、馬にまたがり河原を散歩するその理由とは?

更新日:2017年6月9日 / 公開日:2017年6月9日

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ある日、筆者が川の土手を散歩中、馬にまたがったテンガロンハット姿の女性が河川敷を悠然とトレッキングして行くのが目に飛び込んできました。場所は東京郊外・日野市の住宅街近くの浅川。「住宅街で馬!?」という状況が気になり、飼い主である女性のお宅を訪問して、住宅街でどうやって馬を飼っているのか、どうして馬と暮らすことになったのかをお聞きしました。
「馬との暮らしが実現したのは、2つの立地条件と友人に恵まれたから」

馬と散歩をしていたのは山崎立暎(りえ)さん。「馬Cafe マリヤの風」のオーナーで、京王線・高幡不動駅から歩いて13分ほどの場所にある自宅で馬のマリヤ(7歳・牝馬)と暮らしています。
カフェを起点に、河川敷ホーストレッキング、出張ホースセラピー、撮影など、馬と触れ合えるサービスを提供しています。

【画像1】河川敷で散歩中の山崎さんとマリヤ(画像提供/馬Cafe マリヤの風)

高幡不動駅といえば高幡不動尊が有名ですが、駅周辺から住宅が立ち並ぶベッドタウン。山崎邸はそうした住宅街の路地奥に立つ一戸建てという、どこにでもある普通の家。馬が走れるような広さの庭はありません。馬小屋は車1台分のガレージを改装したもので、手前のカーポートに馬のお世話用品を置いています。

「当初はまさか自宅で馬を飼うとは思ってはいなかったんですよ」と山崎さんは振り返ります。
「でも、マリヤを自宅に連れて来ることができたのは、すぐ近くに浅川があったことと、ガレージが北向きだったおかげ。この立地でなければ、マリヤと暮らせませんでした」

馬は1日1~2時間ほど一緒に散歩をしたり走ったりしないとならないため、河川敷のような土の上を歩ける場所がすぐ近くにあるのは必須条件です。また、馬は暑さに弱い生き物なので、馬小屋が日当たりの少ない場所であるなど涼しい環境を用意することが必要。マリヤの馬小屋では夏になると、倉庫や工場等で使われる工業扇風機3台を回しっ放しにして暑気を払っているそうです。

【画像2】「マリヤの風」では馬とコミュニケーションしながら一緒に自然を楽しむウエスタンという乗馬術を取り入れています。豊かな自然の風景の中だから癒やされます(画像提供/馬Cafe マリヤの風)

「ある事情で、急きょマリヤを家に連れて来たのですが、当初は途方に暮れました。手探り状態で泣きたい心境でしたが、友人やご近所さん、マリヤと散歩中に出会った人など、『マリヤを何とか助けてあげたい』『マリヤが好き』と手伝ってくださる人がいたおかげで今があります。散歩中に知り合った女性の義理の弟さんが偶然にも大型動物の獣医師。紹介していただき、お世話の仕方や健康面の注意点を教えていただくということもありました」

「毎日のように来てくれる友人が2人、ほかにイベント時にお手伝いしてくださるボランティアスタッフさんは10人にもなります。皆さんで一緒に『馬Cafe マリヤの風』を育てていただいています。今ではお客様がボランティアさんとして手伝ってくださることも多く、マリヤと過ごす時間を楽しんでいただいています。近所の子どもたちもマリヤに会いに来てくれるんですよ」

「日々のお世話とご近所への配慮は欠かせません」

しかし、住宅街で馬を飼うとなると、日々のお世話とご近所への配慮、そしてコストが気になるところです。

「一番驚いたのはボロ(糞)の量。牧場に預けていたときは、お世話のほとんどをおまかせしていたので、自宅に連れ帰って、はじめてボロがとんでもなく多いことにびっくりしました。肥料として引き取っていただけないか近くの畑の主にあわてて交渉しました。初対面でしたが快く引き受けてくださって、ありがたいです」

「ボロ掃除は1日10回くらいしています。1日分の量は大きなポリ容器2杯分。そのボロを毎日、畑にヨロヨロと運搬していましたが、最近ではその様子を見ていた近所の方が持って行って下さって、とても助かっています」

【画像3】建築業の知人が、2日という急ごしらえで自宅ガレージを馬小屋に改装してくれました。マリヤはサラブレッドより小柄なクオーターホースという種類で、ガレージがちょうどいいサイズ。逃げたりすることはありません(写真撮影/金井直子)

「馬は牛などに比べるとにおいは少なめですが、やはり住宅街なので気を使います。ヒノキチップ(おがくず)を使ってにおいを消しています。チップは日の出町(日野市から約15km北西)の材木屋さんのご厚意で、無償で提供していただいています。外国産だと薬剤を使用した材が多いのですが、頂いているものは薬剤不使用なので、マリヤが口に入れても安心。本当にありがたいです。尿はなるべくバケツでとり、庭の排水溝に流します。バケツを用意して行くと、それに合わせてマリヤは用を足してくれるので、馬小屋が尿で汚れることはほとんどありません」

「エサ代は月におよそ1.5万円。それ以外に馬運車の維持費や駐車場代、馬場代、爪切り代、保険代、2年に1度の予防接種費用など、合わせると月4万円程度のコストが掛かります」

【画像4】出掛ける際に使う馬運車は軽トラを改造したもので、知人から安く譲り受けたものだそう(画像提供/馬Cafe マリヤの風)

「牧場で暮らしていた馬を、まさか自宅で飼うことになるとは!」

山崎さんがマリヤと出合ったきっかけは、16年前に夫を突然の病で亡くしたことでした。大きな喪失感を抱えた山崎さんは生きる目的について改めて考えるようになり、10年ほど前にカウンセリング講座を受講。その授業の一環としてアニマルセラピー体験で乗馬をしたことが、馬との出合いとなりました。

「もともと大の動物好きですが、そのとき、馬ってとても癒やしてくれる特別な存在だなと感じて大好きになったんです。その後およそ2年間、1~2週に1度の間隔で乗馬クラブに通いました」

それでも、当初、馬を所有することは考えていなかった山崎さんですが、勤務先を退職して独立開業を考えていた6年ほど前、自治体主催の起業塾で学び、その際に参加した政府・自治体主催のビジネスプランコンペに「馬を使って地域の問題解決をはかる」というテーマで入賞。起業支援金を得たことから現在の「マリヤの風」が始まりました。

「その起業支援金が馬主になることを決断させてくれました。当時2歳のマリヤに出合い、パートナーとなったんです。娘2人をはじめ周囲の皆に反対されましたし、自分でも後から『バカじゃないの?』って思うような決断でしたけれど(笑)。牧場に預託料を支払って預けて、調教のために2年ほど通い詰めました。そのときも、自宅で馬をということは全く考えていませんでしたね」

「その後、2度預け先を変えたのですが、そこの環境が合わなかったためマリヤの様子がおかしくなり、体調を崩してしまいました。マリヤをどうにか守りたい一心で、後先考えず夢中で連れて来たのが自宅でした。それからもう3年。マリヤとの散歩中に知り合った女性が『手伝ってあげるから、ここで馬カフェを開こう』と言ってくれたのがきっかけで今に至ります」

【画像5】自宅に連れ帰り、懸命に世話をした結果、元気になったマリヤ。緑の野で野草に触れたり、馬場で思いっきり駆け回ったりするのが楽しそうです(画像提供/馬Cafe マリヤの風)

「苦労はありますが、馬と暮らす喜びは格別です」

山崎さん自身、マリヤと一緒にいて癒やされる日々を過ごしていますが、実際に馬と暮らす苦労は、日々のお世話だけでも体が大きい分大変です。「体調が悪くてもマリヤのお世話に休みはありませんし、旅行もできません。どうしても出掛けなければならないときは友人の皆さんに頼んでいますが、離れるのは心配。それと、マリヤはもうすぐ8歳になりますが、あと20年以上は生きる動物です。ホーストレッキングではお客様を乗せて伴走するのですが、できるだけ長くマリヤの隣を一緒に走りたいと思います」

【画像6】左:多摩地区各所で行われる、さまざまな出張イベントで大人気のマリヤ。右:出張ホースセラピーの様子。マリヤとの触れ合いで心がほぐれます(画像提供/馬Cafe マリヤの風)

そうした苦労がある半面、喜びが格別に大きいのも事実。
「マリヤと暮らすことで、人生が変わりました。さまざまな人に出会い、偶然出会った人にも助けていただき、こんな住宅街の立地でもお客様が来てくださる。十数年前の落ち込んでいたころから一転して、今は毎日が前向きです。マリヤと走って、風を感じる瞬間が心地よいですね」

【画像7】こんな風に公園や街中を歩くイベントも。馬が人の近くにいるって、何だかいいですね(画像提供/馬Cafe マリヤの風)

動物と暮らして、癒やしを求めることは自然なことです。でもそれが馬だったら……? 自宅で馬を飼うという高いハードルを周囲の人々と苦労を重ねながら乗り越えて、「大好きな馬と一緒に人生を過ごしたい」という熱い思いをかなえた山崎さん。「いつも一緒だから心が通じ合うのを感じます。この上なく大切な存在ですね」と語ってくれました。

●取材協力
・馬Cafeマリヤの風 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル

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