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この春、大阪府堺市の大規模賃貸住宅団地「茶山台団地」の一角がDIY工房「DIYのいえ」として生まれ変わった。賃貸住戸をあえて工房に転換させた狙いとは?
団地の空き住戸がDIY工房に変身した!
大阪府堺市・泉北ニュータウンにある総戸数930戸の賃貸住宅団地「茶山台団地」、その一角の空き住戸を使い、「賃貸住宅でも行えるDIY」の普及拠点として2019年2月に誕生したのがDIY工房「DIYのいえ」だ。工房スペースがあり、工具の貸し出し、ワークショップや相談室が随時行われるほか、関連書籍やDIY作品見本の展示、団地サイズに合わせたDIYパーツの販売も行われている。
大阪府住宅供給公社の小原旭登氏も「公社ではDIYを施した部分の原状回復義務を緩和する『団地カスタマイズ』制度があり、入居者にはDIYをある程度残したままでも退去可能なので気兼ねなくチャレンジいただけます。2017年1月の開始から約2年間で225件の申し込みがありました」と注目度の高さを語る。
「DIYのいえ」は周辺住民や入居検討中の人など、団地住民以外の利用も可能なので、地域コミュニティを活性化させる拠点になることも期待されているようだ。
実際に2月16日のオープニングには電動ノコ体験や子ども向けのワークショップも行われ、多くの人でにぎわった。
3月16日には「内窓フレームづくり体験」のワークショップが開催された。内窓フレームとは、既存窓の内側に簡易的な窓を追加することによって空気層をつくり、結露対策や断熱性のアップ、防音効果を高めようというもの。
戸車付きの内窓フレームキット「I・W・F」を使い、ワーク用に用意されたミニサイズの窓枠に合わせて製作を進める。手順は
1)メジャーでサイズを測り、プラスチックとアルミ製のフレームを金ノコなどで切断していく。
2)バリ(切断面の出っ張り)をやすりで削って組み立て、フレームの枠をつくる。
3)プラ板(中空ポリカーボネート)をカットし、両面テープでフレームに貼り付けていく。
4)戸車を付けて内窓フレームに設置…という流れだ。
子ども連れで参加された団地の住人Aさんに感想をお聞きした。
「DIYはほとんど経験がなく、アルミを切るのは大変だったけど、もっとやってみたいと思いました。子どもが小さくても遊べるスペースがあるので助かります! 団地の友人たちも参加したいって言っていますし、次回もテーマと時間が合えばぜひ参加したいです!」とのこと。
もうひと組の参加者、団地外から参加されたというBさんご夫妻は十数年間のアメリカ在住経験があるそう。「アメリカでは DIY が当たり前でした。現在は近くの一戸建て住宅に住んでいるのですが、賃貸なのであまり大きくDIYができません。ワークショップがあることを Facebook で知って参加したのですが、こんな内窓のキットがあるなんて知らなかった! 今後もいろいろやってみたいと思います」とのこと。
ワークは約1時間で終了し、無事に内窓が完成!
その後Bさんは「内窓フレームにはプラ板ではなくて網を貼って網戸にしてもいいかも。すりガラスタイプにすれば間仕切りにもできるし、シェルフの目隠しにもなりそう!」と、思いついたアイデアを相談されていた。
素晴らしい!
DIYは決められたやり方にこだわる必要はない。自分でどんどんアイデアを加えてオリジナリティーを出していけばいい、それが DIYの魅力だ 。今後はさらにコミュニティが広がり、より個性あふれる作品が誕生するのではないだろうか。みなさん、頑張って!
DIYの普及とともに、シニア層の活躍の場づくりを目指す今回取材を行った茶山台団地は大阪府住宅供給公社が管理する全28棟の大規模賃貸住宅団地だ。1971年に入居が開始され、約800戸の入居世帯のうち契約名義人65歳以上の世帯が46%を占めるなど(2019年1月時点)入居者の高齢化が進んでいる。団地の一室を利用した惣菜屋さん「やまわけキッチン」、野菜などの移動販売「ちゃやマルシェ」、集会所を利用した「茶山台としょかん」、DIYリノベーションスクールの開催やDIYリノベーション住戸の賃貸募集、2住戸を合体させた「ニコイチ」の募集など、さまざまな「団地再生プロジェクト」が実施されているモデル団地でもある。
一方で、大阪府住宅供給公社の小原旭登氏は今後の課題を以下のように述べた。「ただ、利用者は40代までの若年層が中心で、団地居住者の半数以上を占める60代以上のシニア世代には浸透していないのが現状です。だからこそ、「DIYのいえ」を拠点とした世代間の交流を促し、将来的には団地居住のシニア層にこの施設のスタッフとして活躍してもらうことで、生きがいづくりにもつなげていければと考えています」
団地のキーマンにも参加してもらい、技術を継承していきたい「DIYのいえ」の運営を担当しているカザールホーム代表の中島久仁氏も、
「もっともっとDIY が浸透してほしいと思い、試行錯誤しながら活動しています。ここではツールのレンタルもおこなっていますが、団地内の DIY だけを考えるサンダーや丸ノコといった本格的な工作ツールは必要なく、もっとシンプルなツールだけでもいいのかもしれません。そこも含めて試行錯誤中です」と展望を語る。
「団地に暮らすシニアには、現役のときにさまざまな分野でプロ&職人として活躍された方もいらっしゃいます。そうした人たちの技を、若い人たちに伝えていけるような場になればいいと思っています。団地内の惣菜屋さん「やまわけキッチン」のDIY改装をサポートさせていただいた際には団地住民のリーダー的な方がいらっしゃいました。そんなキーマンとなる方と一緒に活動していきたいと考えています」(中島氏)
「DIYのいえ」はひとまず8月までの期間限定での活動だ。今回のワークショップにも高齢者の女性の方が見学に訪れていたが、DIYがちょっと気になっているけど、きっかけがない……という人もいるだろう。そんな人たちが気軽に参加してくれるようになれば、地域のDIYコミュニティも拡大し新たな活動へとつながっていきそうだ。
世代やライフスタイルを超えたDIYのつながりで、暮らしを豊かにこの先、「DIYのいえ」では襖張りやペンキ塗り、壁塗りのワークショップも予定されている。日程が合えば工房としても利用でき、工房前の駐車場も利用可能。大きな材料を持ち込んだりまた運び出したりということもできるそうだ。
ワークショップの参加者には友人を誘いたいという人もいれば、アメリカのDIY文化に触れたことがある人もいた。DIYに興味をもつ若年層だけでなく、豊富な人生経験や匠の技をもつ団地住民、周辺に暮らすさまざまなライフスタイルの地域住民が「DIYのいえ」を通じてつながっていくことできれば素敵なことだと思う。それぞれの暮らしが豊かに変わっていく拠点、コミュニティの中心となる場所。そんな役割を「DIYのいえ」が担ってくれることに期待したい。
●店舗情報この記事のライター
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