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東京、中野にある三角屋根の一軒家。切り絵作家でありイラストレーターのYUYAさんと、パン・お菓子研究家のスパロウ圭子さん夫婦の自宅兼アトリエだ。生活する場であるのはもちろん、教室を開いたり、月に一度はオープンアトリエとして開放して作品を販売したり。棚には二人が好きだという民芸の器や郷土玩具が並び、夫婦で楽しみながら暮らしていることが伝わってくる。決して広いとは言えないが、自分たちの好きなものを詰め込み、やりたいことを実現し続けている空間なのだ。コンパクトなスペースをどう使いこなしているのか、コツを教えてもらった。【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。コンパクトな空間を、多機能に使う
玄関の扉を開けると、すぐ目の前にダイニングがあり、両脇の棚には切り絵や郷土玩具が飾られている。切り絵は、この家の住人である切り絵作家でありイラストレーターのYUYAさんの作品。そして、奥に見えるキッチンは、妻でパン・お菓子研究家のスパロウ圭子さんの仕事場でもある。
二人がこの一軒家を手に入れたのは2015年。リフォームをしてから翌年に引越してきた。それまで住んでいたのはマンションで、この家よりも広い空間だったという。なぜ、あえて狭い一軒家に住むことにしたのだろうか。
「自宅でパンやお菓子の教室をやりたかったのと、夫の作品を販売するスペースがほしいという気持ちがあったからです。それを可能にする家を探し回りました」と話す圭子さんに、YUYAさんが続ける。「以前、建築の仕事をしていたので、内見したときに『この家ならなんとかなる』と判断できました。リフォームすれば生活の場としても、仕事場としてもうまく使えるだろう、と想像できたんです」
リフォームが完了してから、それぞれ勤めていた会社を辞めて独立をし、念願の仕事に専念するようになった。
圭子さんは1階のダイニングキッチンでパンとお菓子を教えている。YUYAさんは2階の仕事場で作品をつくっている。
「月に一度オープンアトリエとして、1階を開放しているんです。そこでパンやお菓子、作品を販売していて。その日はみなさんが靴を脱ぐのが面倒かもしれないと思って、土足でOKにしているんですよ」とYUYAさんが教えてくれた。だから、この家には、いわゆる玄関のたたきスペースがない。扉を開ければすぐにダイニングというつくりになっているのだ。
奥のキッチンはコンパクトなスペースながらも、大きなオーブンが組み込まれ、必要なものに手が届くような配置になっている。
「道具も器もたくさんあるので、『隙あらば棚』みたいになっています」と圭子さんは笑う。器は二人で民芸店や地方で活動する作家に会いに行って手に入れたものがずらりと並んでいる。
「民芸品にこだわっているわけではないのですが、二人とも好きなのが民芸の器が多くて。作り手さんの気持ちが伝わってくるものに出合うと、使いたくなるんです」と圭子さん。器は普段の食事でも教室でも分け隔てなく使っているので、生活の楽しみとして大切な存在でもあるのだろう。
狭い空間で開け閉めするのは不便だからと、食器棚には扉がついていない。教室に限らず、オープンアトリエの際にも、訪れた人の目に入り、楽しませてくれている。
2階はプライベートな空間として使っている。リビング兼寝室と、それぞれの机が置かれた仕事部屋がひと続きになっていて、それほど狭さを感じさせない。その理由の一つは、本棚などの収納スペースを上部に設置したことにある。
「できるだけ床の面を広くして有効に活用しようと考えました。天井を抜いたことも効果があったと思います」とYUYAさん。収納の機能を目線より上の位置に集約したことで、圧迫感を減らしながら、机やソファを置くスペースも確保できた。
そして、壁面には1階と同じく郷土玩具が飾られている。これらも、器と同じく二人で買い集めてきたもの。日本に限らず、世界各国の民芸品と呼べるものだ。
「国ごとに分けて飾ることもないし、買うときにもどこのものかを特別に意識はしていません。どれも愛嬌のある感じが好きで、見ていると楽しくなってくるんです」と二人は言う。なんとも言えないとぼけた表情や、素朴な色使いと質感は、夫婦にとって何ものにも代えがたい魅力だ。
じつは、郷土玩具は1階と2階だけにとどまらない。上階にある屋根裏部屋には、さらにたくさんのものが並んで愛嬌を振りまいている。
「郷土玩具のほかに二人の本もたくさん収納していて、ここは完全に趣味の部屋です」とYUYAさん。右の壁面には郷土玩具がずらりと並び、左には民芸やアート、お菓子に関する本がぎっしり詰め込まれた棚がある。
「仕事に煮詰まったり、気分転換したいときはここで過ごすんです。生活と仕事が同じ空間だからこそ必要なスペースかもしれません」と圭子さん。ランチを食べたり、お茶を飲んだり、ちょっと贅沢な空間にうらやましくなってくる。
好きなもの、やりたいことを詰め込んだ暮らし二人は好きなものや嫌だなと感じることが同じだと言う。だからこそ、飾っているものも使っている器も、それを収納する家の内装にもブレがなく、統一感がある。やみくもに好きなものを集めているのではなく、狭いからこそ選び抜いているということもあるだろう。
そして何よりも、二人は生活と仕事において、何をしたいかがはっきりしている。好きな民芸品を使いたい。パンとお菓子の教室をしたい。作品をつくりたい。そして、それを喜んでもらえる人に届けたい、と。この一軒家は、その想いを叶える場所なのだ。
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