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地震に気づかない家!? ”世界初“ 超防災マンションの秘密の地下室に潜入してきた

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当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

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世界初の免震構造内部に潜入。阿佐ヶ谷の実験住宅「知粋館」取材レポート

一見すると、3階建てのおしゃれなデザイナーズマンションである「知粋館」。東京・阿佐ヶ谷の住宅地にあるこの建物には、外観からは分からない特徴がある。それは、世界で初めて、縦揺れにも横揺れにも対応する「3次元免震装置」が導入された超防災マンションである、ということだ。その内部の秘密を探った。
社員寮を実験住宅に!? 世界初の「3次元免震装置」搭載マンション

「知粋館」を建築したのは、(株)構造計画研究所。六本木ヒルズ森タワーをはじめとした超高層ビルの構造設計・監理を数多く担当し、創業以来50年以上にわたって地震に強い構造物の設計・研究に関わってきた、いわば“地震・地盤・耐震構造のエキスパート”だ。

そんな構造計画研究所が、日本振動技術協会の会長でもある藤田隆史東京大学名誉教授、業界最大手の清水建設、東京駅や東京スカイツリーなどの免制震装置も担当したカヤバシステムマシナリーらと産学連携チームを組み、世界初の「3次元免震装置」搭載マンションを実現。構造計画研究所の所員が実際に居住し、データをモニタリングするという“実験住宅”の役割も担っている。

これまでに、2011年度のグッドデザイン賞受賞をはじめ、2012年の日本建築学会技術賞や日本免震構造協会賞の特別賞など、さまざまな賞を受賞。世界初の免震構造に対して、業界内外から大きな注目を集め続けているマンションなのだ。

【画像1】熊本県にも事業所を構える構造計画研究所。「知粋館」の入り口には、熊本に縁の深い、細川護煕元総理による筆を元にしたプレートが目を引く。創造の元となる「知」と技術の「粋」を集めた結晶、という意味が込められている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】熊本県にも事業所を構える構造計画研究所。「知粋館」の入り口には、熊本出身で縁の深い、細川護煕元総理による筆を元にしたプレートが目を引く。創造の元となる「知」と技術の「粋」を集めた結晶、という意味が込められている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】現在は、エネルギーモニタリングなどの実験体制は一部終了している「知粋館」。だが、未発売のスマートキーを搭載して使い心地を実際に試してもらうなど、実験住宅としての役割は健在だ。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】現在は、エネルギーモニタリングなどの実験体制は一部終了している「知粋館」。だが、未発売のスマートキーを搭載して使い心地を実際に試してもらうなど、実験住宅としての役割は健在だ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ハードだけでなくソフトも守れ! 前例なき「3次元免震」という挑戦

そもそも、「3次元免震」は何がすごいのか。従来、建物を地震から守る方法には、耐震・免震・制震の3つがある。だが、これら“2次元”の技術は、横揺れには対応できるものの直下型地震で予想される縦揺れには弱い、という側面があった。

一方、知粋館が誇る「3次元免震装置」であれば、横揺れと縦揺れの両方が軽減できる。発端となったのは2004年の新潟中越地震だ。2005年から計画がスタートしたが、2007年入社後より設計に関わった構造計画研究所の富澤徹弥さんがその経緯を教えてくれた。

「内陸直下型だった新潟中越地震では、建物の被害以外にも国宝の縄文土器なども損傷を受けました。それまで、地震対策としては建物の躯体そのもの、ハード面に目が行きがちでしたが、ソフト面の被害をいかに軽減すべきか、という部分に着目するようになったんです」(富澤さん、以下同)

そこで、2006年から3次元免震装置の共同開発に着手。2011年2月に知粋館が竣工するまで、もっとも大変だったと富澤さんが振り返るのが、15回にも及んだ評定(国土交通省の指定する性能評価機関における、大学教授などの専門家が行う技術審査)だ。建築許可を得るのに、通常は3~5回程度で済むというが、なにせ前例のない「3次元免震構造」という挑戦。法的な整備もないため、何度も実験や解析を重ねて安全性を証明しなければならなかった。

偶然にも、竣工直後の2011年3月11日、東日本大震災が発生。モニタリングの結果、3次元免震装置によって横揺れも縦揺れも低減できることがデータでも実証された。「通常の地震であれば、揺れていること自体に気づかないほどの住み心地」とは、この知粋館に実際に居住する構造計画研究所所員の言葉だ。

【画像3】幾度にもわたる行政との折衝を経て、従来の法規制を超えてつくられた構造設計概要書は、なんと厚さ5cm。筆舌に尽くしがたい苦労があったそう。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】幾度にもわたる行政との折衝を経て、従来の法規制を超えて作られた構造設計概要書は、なんと厚さ5cm。筆舌に尽くしがたい苦労があったそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】3次元免震構造の模型。「青と赤のカラーリングは、社内のエンジニア内で人気のあったガンダムカラーを意識的に選んでいます」と語るのは、設計に携わった構造計画研究所の富澤徹弥さん。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】3次元免震構造の模型。「青と赤のカラーリングは、社内のエンジニア内で人気のあったガンダムカラーを意識的に選んでいます」と語るのは、設計に携わった構造計画研究所の富澤徹弥さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

免震構造を支える“秘密の地下室”の内部に潜入!

知粋館の免震構造の肝は、建物の地下にある「3次元免震装置」と「ロッキング抑制付オイルダンパーシステム」だ。建物の四隅に設置された「3次元免震装置」では、赤い鉄骨部分の上部に設置された『積層ゴム』が水平方向に動いて横揺れに対応。一方、赤い鉄骨部分の下にある黒いゴムと青い補助タンクの組み合わせが『空気ばね』で、空気のクッション性によって縦揺れを軽減するという。

「特に苦労したのは『空気ばね』です。建物を支えながら免震する、という点のハードルが高く、そもそもそんな大きなゴムは存在しませんでした。そこで、メンバーがアメリカのゴム会社にまで出向いて製造の交渉するところからスタート。免震の開発のはずが、ゴムの調査ばかりしていた時期がありました(笑)」

【画像5】建物地下に8基設置されている「3次元免震装置」。一基あたりのサイズは、高さ2.3m、幅2.8m。8基あることで、理論上は15階建て前後の建築物まで支えられるという。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像5】建物地下に8基設置されている「3次元免震装置」。一基あたりのサイズは、高さ2.3m、幅2.8m。8基あることで、理論上は15階建て前後の建築物まで支えられるという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

また、高圧の空気を住居で扱う前例がなかったことで、意外な課題もあったという。
「圧力が高すぎる場合、たとえそれ自体に害はない空気であっても、法令上は『高圧ガス製造保安責任者』が常駐する必要がある、といった建築以外の部分でクリアすべき点がいくつもありました。圧力を上げすぎず、なおかつ安全性を保つために『3次元免震装置』のユニット数を想定よりも多くするなど、既存の法律が想定していないなかで、技術やアイデアを出す必要がありました」

苦労のかいあって、『積層ゴム』は横揺れを1/8、『空気ばね』が縦揺れを1/3に低減することが実験では証明され、横揺れにも縦揺れにも強い建物となった。

だが、これだけでは建物がヤジロベエと同原理で回転振動する「ロッキング運動」という現象が発生し、大きく揺れる船上のように内部に住む人そのものにも被害を及ぼしてしまう。その衝撃や振動を抑えるため、四隅の装置に粘着性のオイルの特性によって衝撃を和らげる「オイルダンパー」を設置。この「オイルダンパー」が車のサスペンションと同様の役割を果たし、建物内部の水平を維持してくれるわけだ。

【画像6】四隅の「3次元免震装置」をクロスしてつないでいるのが「オイルダンパー」。オイルダンパーは油圧式のため電気トラブルなどの心配がなく、信頼性が高いのも特徴のひとつ。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像6】四隅の「3次元免震装置」をクロスしてつないでいるのが「オイルダンパー」。オイルダンパーは油圧式のため電気トラブルなどの心配がなく、信頼性が高いのも特徴のひとつ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像7】地下に向かう階段は、地面から10cmほど切り離されているのが大きな特徴。地震発生時、階段も建物と一緒に揺れて動くことで、階段の損傷が防ぐことができる。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像7】地下に向かう階段は、地面から10cmほど切り離されているのが大きな特徴。地震発生時、階段も建物と一緒に揺れて動くことで、階段の損傷が防ぐことができる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「ハードだけでなく、ソフトも守れる超防災システムを」
新潟中越地震での教訓を踏まえてスタートした「知粋館プロジェクト」と世界初の「3次元免震装置」。現在、そのコンセプトは、精密工場や美術館、サーバーを守るデータセンター、さらには病院や防災センターなど、地震後の機能維持が求められる建築物計画などにおいて注目を集めている。

今後、この「3次元免震装置」が普及するかどうかは、性能向上はもちろんのこと、小型化によるコストダウンが大きな課題だ。

「知粋館は地上3階建てですが、いかにして高層マンションにも応用していくか。反対に、一戸建て住宅のような小さな家に対して省コストで対応するためにはどうしたらいいかも検討課題です。ただ、これまで手に入らなかった安全性ということもあって、新たに大規模医療施設の建設を検討中のデベロッパーさんなど、各方面からお問い合わせをいただいています。普及が進み、知見が増えることでコストダウンや小型化も見込めるのではないかと考えています」

一見、変わらないようで進化し続けている住宅の安全性。今後もその研究開発に期待していきたい。

●取材協力
・構造計画研究所 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル

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