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さまざまな公的賃貸住宅が各自治体やUR(都市再生機構)、都道府県の住宅供給公社等を中心に供給されています。近年、老朽化や場所によっては空室増加が問題になり、建て替えや有効活用を迫られている物件が多くある一方で、一般の賃貸住宅同様、またはそれ以上の設備・サービスを充実させている物件もあることで注目を集めています。家賃は減免制度あり、学童保育にママカフェ併設と子育て世代にうれしい鹿児島県鹿屋市の公的賃貸住宅を訪れました。一体どんな物件なのでしょうか?
公的賃貸住宅って? 所得制限や減額措置あり?
「そもそも公的賃貸住宅ってなに?」という人もいるでしょう。
私たちの住環境は「住生活基本法」という法律によって守られています。特に低所得者や高齢者という住宅の確保が難しいとされる人に対し、一般の賃貸住宅よりも低い家賃で住めるよう、地方公共団体が中心となって住宅の整備を進めてきたのが、公的賃貸住宅です。近年、その入居対象に「子どもを育成する家庭」も入るようになったのです。
公的賃貸住宅にはさまざまな種類がありますが、大まかには、
1)地方公共団体が運営する住宅(公営住宅等)
2)地方公共団体が運営または認定する住宅(地域優良賃貸等)
3)URや地方住宅供給公社などが運営する住宅
の3つに分けられます。それぞれ入居条件や所得制限等があり、収入に応じた家賃の減額措置なども受けられます。
そのような公的賃貸住宅のなかで、昨年度、国土交通大臣賞を受賞したのが、今回、紹介する鹿児島県鹿屋市の子育て支援施設「ハグ・テラス」です。
共用施設として24時間のコールセンター、コインランドリーを完備、防犯カメラなどの設備も充実しており、もちろん住居部分は子育て世帯に配慮された設計になっています。
一般の賃貸住宅では、それらの施設・設備を備える子育て世帯向けの物件も数多く出ていますが、公的賃貸住宅は先に説明した通り、もともと家賃が低く設定されています。公的賃貸住宅の分類のうち、「ハグ・テラス」は「地域優良賃貸住宅」に分類され、1世帯当たりの収入月額が15万8000円~48万7000円の家庭が入居できます。所得に応じて適用される家賃の減免制度も含めると、74.99平米以上の2LDK~3LDKの賃料がなんと、5万1000円~5万3000円! この付近で築10年以内の集合住宅がそもそも希少、さらに同程度の広さを有する物件の賃料が7万円~7万5000円前後であることと比較すれば、どんなにお得に住めるかが分かります。
自治体と民間企業が組むことで魅力的な住まい、明るい街にそして注目したいのは、学童保育施設とママカフェが併設していること。
隣接する学童保育施設「アダプテッド アフタースクール」では、水泳・サッカー・空手・ダンス・体操などスポーツ系の習い事のほか、学研の教材を使用した学習塾を運営しています。ハグ・テラス以外の敷地で行われる習い事へは、すべて送り迎え付き! スタッフがそれぞれの小学校まで迎えに行き、習い事の送迎が終わった後は、帰宅予定時間まで子どもたちを見ていてくれます。
ハグ・テラスがあった場所には、もともと鹿屋市の古い市営住宅がありましたが、建物が老朽化し、建て替えを行うことになりました。この建て替えの担当となった鹿屋市職員、浦部ひとみさんは「建て替え後の市民の生活を考えた際に『どのような公営住宅が良いか』、鹿屋市の職員だけでは答えが出なかった」と言います。
そこで、この疑問を一般の企業に「公募」という形で投げかけました。その提案の中から選ばれたのが現在、ここを運営している株式会社OKOYASU BASEの代表取締役・小林省三さんたちのチームでした。OKOYASU BASEは、三光建設株式会社、ユーミーコーポレーション株式会社、宇住庵建築設計事務所の3社の構成メンバーと、アダプテッドスポーツかのやなど30社ほどの地元協力会社によって構成されています。小林さんは、株式会社Katasuddeの役員も務めており、ハグ・テラスだけでなく同じく鹿屋市にある「ユクサおおすみ海の学校」などの企画・運営も手がけています。
「私はもともと東京の建築事務所で働いていましたが、30歳のときに鹿屋市に戻り、家業の建築会社、ホテル等の関連事業の経営に携わるようになりました。5年ほど前から、これまでの経験を活かして鹿屋市の地域づくりにも関わっています。ちょうどそのころから鹿屋市で、学校や市営住宅といった公共施設に対する提案型公募の話が出てくるようになり、プロジェクトごとのメンバーを組んで積極的に参画しているのです」(小林さん)
送迎バスに乗り降りする子どもたちの姿を通じて、街ににぎわいを感じるアダプテッド アフタースクールと隣接するママカフェ「mama cafe & dining A&R」の店内外には、送迎バスを待つ子どもたちの姿や、ママカフェを利用するお母さんたちの姿であふれています。この学童保育施設もママカフェも、ハグ・テラスの住民だけではなく、誰もが利用することができます。浦部さんは「学童や習い事を利用する鹿屋市全域の親子が集まり、街の拠点となる住まいができた」と言います。
他の地方都市同様、鹿屋市でも主な交通手段は車。ある場所から目的地へと車で移動する生活は、歩く人が見えない、車と駐車場ばかりの街をつくります。ところが、「このハグ・テラスができたことで、子どもたちの姿が多くの市民のすぐ側に、自然と見られる街になった」(浦部さん)そうなのです。
アダプテッド アフタースクールを運営する有限会社アダプテッドスポーツかのやの小西輝さんも、「ここで開催した夏祭りには、市内外から300人の人が集まってくれたんですよ」と、うれしそうに話してくれました。
このような公的賃貸住宅の「子育て世帯へ向けた機能の充実」は全国のさまざまな場所で、見られ始めています。例えば、石川県野々市市の「つばきの郷住宅」は、1~3階の市営住宅と4・5階の地域優良賃貸住宅が一つの建物になっていて、隣接地に保育園や児童館、広場などを併設・配置して、ハグ・テラス同様に国土交通大臣表彰を受けています。首都圏では神奈川県住宅供給公社が2020年1月末に「フロール元住吉」を完成予定ですが、託児機能付きのコワーキングスペースや子どもの放課後サポート、レンタルスペースなどを備えた地域交流スペース「となりの.」を併設する予定です。
また、URでは「コソダテUR」など、子育て世帯を積極的に応援する取り組みを行っていますし、首都圏をはじめとする各都道府県、市区郡では、2018年以降、子育て応援住宅認定制度を設けています。これは公的賃貸住宅に限らず、子育てしやすい環境を整えた住宅を認定・登録することによって、いっそう子育て世代に適した居住環境の整備を促進する狙いです。
住むことを検討している自治体の住宅支援制度はもちろん、ぜひ、公的賃貸住宅に対する取り組みや今後の動きにも期待して、情報をチェックしてくださいね!
●取材協力この記事のライター
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