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マンション建替え[4] どうすればいい? 行政・ご近所・賃借人への対応

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当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

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前回触れたように「住民間の合意形成」は目的が一つになった段階でまとまりやすくなる。それよりも法律や条例の問題にかかわる行政とのやり取り、ご近所の意見、そして所有者ではなく賃貸で借りて住む人たちの対応のほうが実はずっと難しい。毎週のように起こる事件に四苦八苦するのはこれからだ。【連載】私の「マンション建替え」経験談
「マンションの老朽化」が話題になる昨今、マンションの建替えという問題が切実になってきている。どんな問題が起こり、どんな方法で解決していくか。具体的な例を知る機会は少ない。今回はマンション管理士の資格を取り、築50年の自宅マンションの建替えを経験した筆者が5回にわたってプロセスをお伝えします。
・第1回:マンション建替え[1] 仮住まいのはずが…建替え推進メンバーに
・第2回:マンション建替え[2] 「こんな住まいにしたい」の調整が大変
・第3回:マンション建替え[3] 建替え決議へ…「住民の意思統一」の道突然の計画変更で建物が2m低くなることに

前々回で総合設計制度で建設したと説明したが、これも一筋縄では進まなかった。最初に計画していた建物の高さが、急きょ2メートル低くなることになった。6階建てで2メートル低くなるため、設計変更が余儀なくされた。各階の階高が十分取れない可能性があるからだ。

行政からの許可は、度々変わる可能性がある。エリアによって高さ制限などの条例が変わることもある。また行政の担当者が異動になり、それまでいろいろと話し合っていたのに、イチから説明しなおさなければならないことも。昨今、建設してしまった後で「既存不適格建築物(※1)」になっている建物が話題になるが、「途中で変わってしまったんだな。たいへんだな」と正直同情してしまうことがある。

建物の高さを抑えることになったので、梁(はり)がなるべく出ない工夫をした。その後もさまざまな制約により、何度も何度も設計変更された。エントランスの位置や住戸の配置も事件が起きるたびに変更していく。「今週はどんな事件が起こりましたか?」というのが推進委員会の合言葉のようになっていた。

※1「既存不適格建築物」とは、建物を建てた時点では法令の規定を満たしているが、改正により規定に合わなくなった建物。建てた当初から法令に合っていない建物や、建てた当初は法令に合っていても、その後の増改築工事などを行うことによって法令に合わなくなった建物が「違法建築物」

「埋蔵文化財」の発掘調査で工期の着手が遅れる?

私たちの住んでいた場所は、縄文時代の上に弥生時代も重なる埋蔵文化財が眠る、埋蔵文化財包蔵地(※2)だった。その場合は文化財保護法に基づいて建築工事の前に「発掘調査」をしなければならない。その調査費用は一般的に、個人の家を建てる場合には行政が負担してくれるが、マンションの建替えは事業者が入るので工事者負担になるそうだ。つまり工事費用にプラスされるので私たちの負担になる。敷地が広かったせいか数千万円という金額に驚いた。

また調査期間中は建築工事に着手できないので工期が遅れる可能性がある。もともと建物が建っていても法律ができる前に立っていた場合は、以前に確認されていないことがあるから要注意だ。
しかもこの法律は、通常の行政の窓口である建築・土木の担当課ではなく、教育委員会の管轄となるため、どの程度の範囲をどれくらいの調査をするべきか分かりにくく、あらためて話し合う必要がある。試掘で発掘の必要が認められると、その間は建築工事はできない。

※2 参考:文化庁ホームページ「埋蔵文化財」

「耐震偽装事件」、「東日本大震災」と想定しないことも起きる

建替え決議の前年に耐震偽装事件が起こったために、2007年(平成19年)には建築基準法が改正された。そのため建築確認等のチェックがより厳しくなり、時間も掛かるようになっていた。また工事が始まってから東日本大震災が起こった。工事中の建物に影響はなかったものの、材料の入手が遅れたり、人手が集まらなかった。
建築中は、工期がいくらか遅れることはよくあるが、マンションの建替えはより時間が掛かると考えたほうがいい。このように想定しないことも起こるので、当初の計画より時間が掛かることを予定して、仮住まいの計画も立てる必要があると痛感した。私たちの場合も工事着手までに、当初の契約より1年ほど遅れた。

実は一番はじめに気を付けるべき借家人への対応

個人的に思うのは、建替えの話が出た段階で最初にしなければならないのは、実は借家人(賃貸人)への対応だと思う。所有者(家主)は建替えが決まれば全員退去するが、借家人はスムーズに退去してくれるとは限らない。そのためにも、時間をかけて借家人に理解してもらう必要がある。また契約を「普通借家契約」から「定期借家契約」(※3)に順次変えていくのがベストだろう。

借地借家法は、貸す人の勝手な理由で住居を失う人を守るために制定されているので、人口が減少し、借り手市場になった現在でも借家人の保護を重視している。現行法では、建替え決議がされていても、明渡しの正当事由として認めてもらえないことも多い。

長い間、同じ屋根の下で暮らし、区分所有者である住民と仲よく暮らしてきた借家人の方たちは、敷金の返還や引越し費用、新住居を借りる費用を用意すれば、比較的スムーズに退去してもらえる場合が多かった。問題になったのは、建替えが話題になってから入居したような方だ。家主が莫大な立ち退き料を請求され、裁判になるケースもあった。

そんなこともあるため、築古のマンションを新たに貸す場合は建替えの可能性を視野に入れた契約をするようにしたほうがいい。早めに勉強会を開催して理解をうながしても、住戸を貸している一人ひとりが努力する必要がある。全員が退去しなければ、それだけ工期の着手が遅くなる。借家人対応は時間と手間がかかるので早めに対策を考えておくことは大切だ。ここでも管理員のFさんは能力を発揮してくれた。借家人の方が家にいる時間やどんな生活の方かを把握してくれていたことが解決につながった。

※3 2000年(平成12年)3月1日から借地借家法に定期借家契約が加わった。普通借家契約では正当な事由が無い限り家主側から契約更新の拒否は出来ないが、定期借家契約ではあらかじめ期限を決めておくことにより、契約満了時の退去を前提にすることができる。しかし、2000年(平成12年)2月29日以前の普通借家契約は定期借家契約に変更することはできない。

忘れてはならない近隣の方たちへの配慮

建替えに関しては、地域の景観地区特別区民会議や町内会、街づくり委員会など、機会のあるごとに理事の方々が説明をしてくれていた。近隣説明会も数回にわたって実施した。

「豊かな緑を残してほしい」という要望があったが、街路樹診断士にお願いしてすべての樹木を調査したところ、状態が悪く、倒れる危険性が高いものが目立ち、移植に適したものは数本ということが分かった。同じ樹木を移植することは難しいが、以前の樹木とほぼ同じ本数の植樹計画があることで理解してもらった。

また今までより2階分高くなることで「見下ろされるのはプライバシーが気になる」という方には、植樹やバルコニーの素材を変えることで理解してもらった。

なかには「埋蔵文化財のために敷地を公園にしてほしい」とか「高層ビルのビル風のような風害が出る」とか、建替えそのものに反対をされる方もいたり、遠く離れた場所からわざわざ反対に訪れる方もいた。ただ幸いなことに、隣地が同時期に建替える集合住宅や大きな公共の施設だったおかげで、工事を差し止めるような大きな反対に合うことはなかった。

付近には小学校や幼稚園などの教育施設があった。工事期間のご迷惑の挨拶と説明には、子どもが通学していた理事が伺ってくれた。工事用車両の往来が激しくなるため、事業者は登校時間帯の通学路通行禁止を徹底し,周辺道路にも多数の交通誘導員を配置した。

なんといっても心強かったのは近隣の町内会長の方々が賛成してくれたことだろう。日ごろから理事の方々が町内会に属し、清掃当番などの集まりに積極的に参加してくれていたことが大きい。

行政、借家人、近隣の方たち、いずれの対応についても、やはりコミュニケーションの大切さは実感した。行政の担当者も、事業者だけではなく住民が直接窓口に行き、相談することで耳を傾けてくれる可能性が高い。借家人や近隣の方々も、日ごろからお付き合いのある方々は、私たちを応援してくれることが多かった。やはり長年住み続けてきた理事を中心とした住民の粘り強い交渉力がモノをいう。知識や資格だけでは解決しない問題があることを痛感した。次回は、総まとめとして建替え全般について振り返るとともに、建替えの如何に関わらず、老朽化したマンションの方策について考えてみたい。

・第5回:マンション建替え[5] 実感したのは「別の解決策」と「住まいへの愛着」

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SUUMO

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