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住む人の生き方から変える? “日本のガウディ”梵寿綱が創る「寿舞(すまい)」

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当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

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住む人の生き方から変える?“日本のガウディ”梵寿綱マンションの魅力を知る

現在の日本のマンションのほとんどは画一的なデザイン、構造です。そうした中で異彩を放つのが「日本のガウディ」と称される建築家、梵寿綱(ぼん・じゅこう)の手で創られたマンション。その建築は芸術品としての存在感を放ちつつ、長く人気を集めています。そんな梵寿綱作品を巡るとともに、梵さん自身からお話をうかがいました。
住む人の心を動かす建築をめざす

早稲田駅から歩いて5分ほどの位置にある「ドラード和世陀」は、梵寿綱作品の中でも最もよく知られたもの。外壁に彫刻やモザイクが施され、曲線の目立つ建築は、まるで生命体のようです。

建物そのものが語りかけてくるような魅力があり、周辺の建物とはまったく違うアートとしての存在感を示しています。奇抜な外観に見えて、年月が経過しても、その斬新さは陳腐化していません。これは近代建築では稀有なことだと言えるでしょう。それにしてもこれが賃貸マンションだとは驚きです。

梵寿綱さんはこう語ります。
「僕は、すまいとは、“住まい”でなく、“寿舞(すまい)”だと言っています。喜びの舞う中に人が生きる、そんな空間であるべきだと。僕は住空間に合理性を求めても意味がないと思う。小さな日常空間に効率を追求しても何も生まれません。人は日々のふるまいの中で、視点を変えながら、壁や天井や窓を見る。それによって気持ちも動く。そのときの心地よさや豊かさこそが大切。僕が志向するのは、そうした生活感情を触発する場、住む人の心を変える建築なのです」
 
【画像1】梵寿綱さん。独自の作風で日本のガウディと称される。1934 年(昭和9年)東京・浅草生まれ。背後のドラード和世陀の一室に住む(写真撮影/織田孝一)

【画像1】梵寿綱さん。独自の作風で日本のガウディと称される。1934 年(昭和9年)東京・浅草生まれ。背後のドラード和世陀の一室に住む(写真撮影/織田孝一)

梵さんの仕事の進め方も、現在の基準では常識破り。
「明確な完成形があり、そこに向かって作るというやりかたはしません。僕は完成予想図を描かない。平面図、立面図は書き、大きな方針は決めますが、曖昧な状態を作っておくんです。そうしないと完成予想図に縛られてしまうからね。そのうちに、知り合った職人さんや芸術家が参加して、『お前、何できるの? そうか、じゃ、これやってよ』みたいな感じで共同作業が始まる。言わば旅芸人の一座があって、その面々が得意技を活かし、お客さんの様子を見ながら、楽しませる舞台を作り上げていく感じです」
梵さん自身もアーティストであり、「ドラード和世陀」の外壁彫刻は自ら彫ったもの。旅芸人一座の座長にして脚本家、そして役者でもあるわけです。

【画像2】建築家自らが彫った外壁彫刻の一部。芸術性が迸り出ている(写真撮影/織田孝一)

【画像2】建築家自らが彫った外壁彫刻の一部。芸術性が迸り出ている(写真撮影/織田孝一)

【画像3】エントランスを入った一角にある巨大な手の彫刻は、彫刻家(多摩美術大学名誉教授)の竹田光幸氏の作品(写真撮影/織田孝一)

【画像3】エントランスを入った一角にある巨大な手の彫刻は、彫刻家(多摩美術大学名誉教授)の竹田光幸氏の作品(写真撮影/織田孝一)

人生経験をすべて建築に投影する

一見、奇抜なまでに「ぶっ飛んだ」デザインですが、梵さんの設計したマンションには、長く住む人が多く、空き部屋が出るとすぐに埋まってしまう人気物件です。

その理由はどこにあるのでしょうか。
「命や生き方に関わる価値は、言葉では表現できません。その価値を基準にモノを選ぶ程度には日本が成熟したということかな。言い換えれば、芸術品を選ぶのと同じ感性で、すまいを選ぶ人が増えてきたということですね」
梵さんは、自分の建築が、人間に共通する芸術を求める心に響くのは、ユングの言う、集合的無意識を反映しているからではないかと考えています。

背景には、激動する時代を生きた梵さんの人生経験があります。1934年(昭和9年)、東京・浅草の生まれ。本名は田中俊郎。建築設計事務所を作ったとき、屋号に、ヒンズー教の最高原理である「梵」を付けたことから、後にこれを発展させて「梵寿綱(ぼん・じゅこう)」と名乗るようになりました。

小学校6年生のときに敗戦。このとき起こった日本社会の価値の大転換は、梵さんに痛烈な衝撃を与えました。「昨日まで米英を敵視していた大人たちが、これからは民主主義だと手のひらを返した。世の中は信用できない、確固たる自分がなければ、と心底思いました」

早稲田大学理工学部建築学科を卒業後、1958年(昭和33年)に設計事務所を設立。その後、シカゴに留学、シカゴ美術館付属美術学校で学ぶなど、海外で見聞を広めた後に帰国、「賢者の石」(賃貸アパート)や「無量寿舞:生命潮流」(特別養護老人ホーム)などのユニークな作品群を生み出していきます。

ヨーロッパ様式のようで、細部にオリエンタルな独自の作風

「ドラード和世陀」の一階には、アートギャラリー、アートブックショップ、アンティークショップが入居しています。いずれも経営者は小原聖史さん(52)。20代の頃からの梵寿綱建築のファンで、荻窪でアンティークウォッチのショップを経営していましたが、2008年にこちらに移転してきました。

【画像4】「ドラード和世陀」の外壁にあるオブジェ。ヨーロッパ風建築に見えてディテイルには東洋的モチーフがあちこちに使われている(写真撮影/織田孝一)

【画像4】「ドラード和世陀」の外壁にあるオブジェ。ヨーロッパ風建築に見えてディテイルには東洋的モチーフがあちこちに使われている(写真撮影/織田孝一)

【画像5】「ドラード和世陀」一階にあるアートギャラリーで、オーナーの小原聖史さん(写真撮影/織田孝一)

【画像5】「ドラード和世陀」一階にあるアートギャラリーで、オーナーの小原聖史さん(写真撮影/織田孝一)

「実は梵寿綱の名前でしょっちゅうネット検索しては見ていたのです。移転先は別の所に決まりかけていたのですが、正式契約寸前にネットを見ると、ちょうどここの空きが出たところで、おおっ!と。すぐ連絡を取りました」。話を進めていた物件をキャンセルし、「ドラード和世陀」に入居しました。

「梵さんの建築の魅力は、本格的なアールデコ様式やガウディを彷彿とさせる様式でありながら、決して模倣ではなく、オリジナリティがあること。一見、ヨーロッパ風に見えて、細部にオリエンタリズムが凝縮しているのも楽しいところですね」

テナントとして入居してから約9年。今はギャラリー事業の比重が高くなっているそうです。小原さんは画家としての顔も持ち、公募展の運営などもしています。

「梵さんについての本を出したり、公募展の審査員をお願いしたりと、ご本人とも親しくさせていただいています」(小原さん)

【画像6】 一階のショップから外を見る。小原さんは丸窓がはめ殺しなので風を通せないことが唯一、残念な点という(写真撮影/織田孝一) 

【画像6】 一階のショップから外を見る。小原さんは丸窓がはめ殺しなので風を通せないことが唯一、残念な点という(写真撮影/織田孝一) 

東京には「ドラード和世陀」のほか、梵さん設計の集合住宅が数カ所にあります。中でも、世田谷の代田橋駅(京王線)近くには、「ラポルタイズミ」と「マインド和亜」の二棟があり、歩ける範囲で二つの作品を見ることができます。

【画像7】「ラポルタイズミ」のエントランス。巨大なレリーフが特徴(写真撮影/織田孝一)

【画像7】「ラポルタイズミ」のエントランス。巨大なレリーフが特徴(写真撮影/織田孝一)

【画像8】エントランスを内側から見る。ステンドグラスが幻想的な雰囲気を醸し出している(写真撮影/織田孝一)

【画像8】エントランスを内側から見る。ステンドグラスが幻想的な雰囲気を醸し出している(写真撮影/織田孝一)

特に「マインド和亜」は梵さん自身がやりたいように設計できたと感じている建物。施主がガウディ好きだったことから指名で設計を依頼されました。外壁にオレンジを思わせるモザイク・色のタイルが使われ、内部にはパティオを設置するなど、南スペインの雰囲気を感じさせます。それがなぜか日本の住宅街にしっくりと収まっているのも梵寿綱建築の不思議なところです。

【画像9】「マインド和亜」の全景。一階にはコンビニのデイリーヤマザキが入居(写真撮影/織田孝一)

【画像9】「マインド和亜」の全景。一階にはコンビニのデイリーヤマザキが入居(写真撮影/織田孝一)

【画像10】「マインド和亜」の外壁は、オレンジの木を模したようなデザイン。南欧を感じさせる(写真撮影/織田孝一)

【画像10】「マインド和亜」の外壁は、オレンジの木を模したようなデザイン。南欧を感じさせる(写真撮影/織田孝一)

「マインド和亜」の住民の一人は、梵寿綱建築をめざしてここを訪れ、両物件を比較検討して入居したそうです。「ここで生活できてとても満足。賃貸価格も10数万で、高いとは思いません。入居者はみなさん、長く住むようです」
建築を見に来る学生さんなども多いとのことでした。

【画像11】「マインド和亜」の内部には吹き抜けのパティオがある。日本とは思えない空間だ(写真撮影/織田孝一)

【画像11】「マインド和亜」の内部には吹き抜けのパティオがある。日本とは思えない空間だ(写真撮影/織田孝一)

名物建築、ユニーク物件と出会う楽しさ

「マーケティングや合理性だけで建築をしたらみな同じになってしまう。しかも現在はITでそれが加速する時代。今こそ、アートの復権をしなくてはいけないと思います」と、梵さんは語ります。

梵寿綱建築は唯一無二の存在ですが、他にも名物建築のマンションがないわけではありません。今、住んでいる部屋、あるいは生活に不満を感じたら、そんな物件を探してみてはどうでしょうか。自分の個性に合った、ユニークな物件に出会えれば、そこは梵さんの言う、“寿舞(すまい)”になるかもしれないのですから。

●取材協力
・梵寿綱
・小原聖史(DORADO GALLERY、DORADO BOOKS、Antique OLDTIMES) 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル

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SUUMO

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