「ふるさと副業」で個人と地域の成長を。福井県が取り組む関係人口の新しいかたち

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地方と関わる新しい形、「ふるさと副業」が広がっている。都市部で働く人材が地方の企業や団体・自治体などの仕事に関わる働き方だ。前回(「地方に副業を持つ『ふるさと副業』が拡大中!地域とゆるやかにつながるきっかけを」)に続き、今回は実際の取り組み事例を、働き手と受け入れ側、双方の視点から紹介する。
自治体ながら民間の転職サイトを通じて「ふるさと副業」の求人を行った福井県 地域戦略部副部長の藤丸伸和さんと未来戦略課主査の岩井渉さん、「未来戦略アドバイザー(以下『アドバイザー』)」3名に話を聞いた。
プロの力を借りると同時に、関係人口増加を狙った

2019年9月、福井県では副業・兼業限定で「未来戦略アドバイザー」を公募した。業務内容は「県が策定を進める長期ビジョンを、県民に分かりやすく伝えるための広報戦略立案・実行」。勤務は月2回程度、うち1回は福井県を訪問することが条件で、1回の勤務あたり2万5000円が支払われる。

福井県 地域戦略部 の藤丸さん(左)と岩井さん(右)(画像提供/福井県)

募集の背景には、2023年春に北陸新幹線が福井県敦賀市まで延伸されることがあるという。

「リニア中央新幹線の全線開業なども含め、福井を取り巻く交通ネットワークの整備が進み、来福者の増加が予測されます。⼀⽅で、他の地方同様、福井県も人口減少や高齢化の課題を抱えています。先を見越して働き方や暮らし方を考えていく必要がある。そうした背景から、20年先を見据えた長期ビジョンづくりを進めています」(藤丸副部長)

しかし、「県庁が決めたビジョンを発表する」という従来のコミュニケーションでは不十分と考えたという。

「県民の方に、ビジョンをいかに『自分ごと化』し、具体的な行動に移していただくかが重要です。しかし、県庁職員の未来戦略課のメンバーだけでは、『どのターゲットを巻き込むために、どのような手法・メッセージングが適切か』といった視点やスキルが不足していると感じていました」(岩井さん)

そこで、広報・マーケティングなど「伝える」ことに関するプロ人材を外部から募集することにしたという。

「兼業・副業限定で募集したのは、他の自治体において、この形式で数多くの応募があったことを知っていたからです。また、できるだけ多くの方に一定期間、何らかの形で地域に関わってもらうことが関係人口増加のためにも大切だと考えており、この形式を選びました」(藤丸さん)

当初は応募があるか不安視していたというが、蓋を開けてみれば想像をはるかに上回る421名の応募があった。スキルの高さと福井県に対する思いの強さ、最終選考でのプレゼン内容を基準に4名を選出。2019年11月より、実務にあたっている。

県外出身者も選出。県庁職員への好影響も

任用されたアドバイザーの4名。左から大宮千絵さん、坂井美帆さん、瀬戸久美子さん、太田誠二郎さん(画像提供/大宮千絵さん)

今回話を聞いたアドバイザー3名のうち、大宮千絵さん、坂井美帆さんは福井県出身、瀬戸久美子さんは東京都出身だ。

坂井さんは、同県の高校卒業後、進学を機に上京して都内の大手PR会社や投資ファンドで10年以上にわたり広報・PRのキャリアを積んできた。応募したのは、「これまではふるさと納税をするくらいしか故郷に関与できなかった。自身が培ってきたスキルで貢献できる絶好のチャンス」という思いから。

同じく福井県出身の大宮さんは、大手自動車メーカーでマーケティングの経験を積んだ後、現在、開発途上国における飢餓や栄養失調問題に取り組むNPO法⼈TABLE FOR TWO InternationalのCMOを務めている。本業でも福井県から協賛を受けており、「恩返しの形を模索していた」中での応募だった。

一方、東京都出身の瀬戸さんは、『日経WOMAN』『日経トレンディ』の副編集長などを経て現在フリーランスで活動しており、これまではまったく福井と縁がなかったというが、「『福井モデル』(文藝春秋)という本を読み、幸福度や世帯年収が高く、社長輩出数も随一という福井県の特殊性に興味を持った」ことから応募に至ったそうだ。

任命後は、「広報・PR」「マーケティング」「編集」とそれぞれの強みを活かす形で活動している。

大宮さんは、福井県民自身がそれぞれの友人や仲間に声をかけて、未来について語り、発信する場を主催する取り組み「FUKUI未来トーク」を企画・実施。

坂井さんは「長期ビジョン」を県民が考えるきっかけとなるような各分野の第一人者を招いたセミナーを企画。県民がコンテンツに興味を持てるよう、福井県庁の方が主体となったSNSでの情報発信を行った。

瀬戸さんは長期ビジョンの方向性を、県民に伝わりやすいビジュアルデザインに落とし込んだり、Facebookやnoteを活用したメッセージ発信を行っている。県庁職員などに対して「伝え方講座」の実施も計画中だ。

アドバイザーたちの仕事に、県庁職員も良い影響を受けているという。
「私たちだけでは思い浮かばなかったアイデアをいただいたり、作成した案内チラシやSNSを見て『こう表現したら伝わるのか!』と学んだり。皆さんの仕事に刺激を受けて、職員のスキルレベルも上がっていると感じます」(藤丸さん)

アドバイザー任命後、初打ち合わせの様子(画像提供/福井県)

中学1年生向けに実施した福井県長期ビジョンについての出前講座の様子(画像提供/福井県)

副業で携わるアドバイザーの稼働時間は限られている。月2回程度、さらに現地を訪れるのは月1回という勤務体系の中で成果を生むために、各プロジェクトは県庁職員とアドバイザーでチームを組んで進めているという。

「アイデアの発想や企画はアドバイザーの皆さんが、事務作業や地域での交渉は県庁職員が得意とするところ。お互いの得意分野を活かして仕事を仕切っています」(岩井さん)

非出身者ならではの悩みも

非出身者である瀬戸さんは、「外から地域に入る」難しさを感じたこともあったという。
「『東京都の出身で、福井を知らない人に何ができるのか』と思う方もいると思いますし、指摘されたこともあります。それはどこの地域でも多少は起こり得るものですよね」(瀬戸さん)

「よそ者だからこそ持ちうる視点や、キャリアから来る強みを明確にして、具体的なアウトプットに落とし込もう!」と自分を奮い立たせたという瀬戸さん。その中で、本業で培った「聞く力」が役立ったと語る。

「自己アピールをするのではなく、相手のこと、地域のことを知って理解しようとする姿勢を示すことで、心を開いていただける。都市部に住んでいるからこそ感じられる福井の良さや、相手に対するリスペクトを言葉にすることも大切だと感じています。
福井を深く理解している方のほうが適している仕事は他のアドバイザーの方にお任せし、私は私にできることを最大限務めよう、と考えています」(瀬戸さん)

福井県(画像/PIXTA)

また、「ふるさと副業」のなかにはリモート業務だけで完結できるものもあるが、この福井県の未来戦略アドバイザーの場合は、月に1回現場に通う故の課題もある。3者とも、体調管理やタイムマネジメントは苦労したようだ。

「福井まで片道4時間ほどかかるので、長距離移動による体の負担はどうしてもあります。月曜夜に福井に帰って、火曜に県庁のお仕事をして、火曜の夜に東京に戻って水曜から本業…という2拠点生活にしばらくは慣れなくて、体調を崩したりもしました」(坂井さん)

瀬戸さんも、時間の使い方に工夫が必要と語る。
「実際に福井県に行く1日に人と会う予定を固めてしっかりインプットして、残りの1日分で一気にアウトプットしています。とはいえ、企画の仕事は明確にオンとオフを分けられるものではないので、常に頭の片隅にはある感じですね」(瀬戸さん)

2児の母である大宮さんも「自分の時間も体力も有限なので……さまざまなサービスを活用して家事を短縮するなど工夫はいりますね」と2人の意見に頷く。

また、会社勤めである坂井さんと大宮さんは「本業からの理解を得ることも大切」と口をそろえる。
「あらかじめ、どんな思いで福井県の仕事に取り組んでいるのか、本業側の仲間にも共有しています。結果として応援してもらうことができ、とてもありがたく感じています」(大宮さん)

アドバイザーと福井県出身の東京都在住者との座談会の様子(画像提供/福井県)

仕事を通して得た人のつながりは、一生もの

課題はたくさんあったが、それでも「福井での仕事を通して得ているものの方がずっと大きい」というのが3人の共通見解だ。

「福井県に顔の見えるつながりができたことは自分にとってすごく大きな価値。顔の見えるつながりができると、その地域への興味関心がぐっと高まりますよね。福井県で起こるニュースが他人ごとではなくなって、自分ごととして捉えられるようになりました。
両親が福井に行きたいと言っているので、落ち着いたら福井旅行も計画したいと思っています」(瀬戸さん)

「福井の良い面を改めて知ることができました。学生時代の友人やこの仕事を通じて知り合った福井の方々と、福井の未来について話すことができたり、実家の家族とも定期的に会える機会ができて、福井の大切な人とのつながりを以前よりも密に感じます。自分の気持ちの豊かさも増していると感じますね。
ともに働くアドバイザーや県庁職員の方からも刺激を受けて、自分のキャリアを考える中でも大切な機会になりました」(大宮さん)

「アドバイザーの活動を、SNSを通して知った本業の仕事関係の方から、『福井つながりで』と人を紹介して頂いたことが何件かありました。アドバイザーの仕事で出会う方々だけでなく、こうした機会を通じて人のつながりがより一層広がっていっていると感じます。

東京にいる本業の同僚たちも興味を示してくれて、福井に全然ゆかりのない先輩や同僚も『福井通』になってくれているんですよ。そのこともとてもうれしく思っています」(坂井さん)

この仕事を通じてできた仲間や人脈が何よりの宝。契約期間終了後も、福井とのつながりを大切にしていきたい――3人は笑顔でそう語ってくれた。

福井県(画像/PIXTA)

「今回の取り組みは、福井県庁にとってトライアル的なもの」と藤丸さんは語る。

「今回のケースをきっかけに、他の部や課にも外部のプロフェッショナル人材を招いたプロジェクトを展開できるのではないかと考えています。また、アドバイザーの皆さんのスキルを、未来戦略課以外の部や課で活かすこともできるのではないかと。

私たちが最終的に目指しているのは、福井県内の中小企業と都市部のプロフェッショナル人材をマッチングさせる仕組みをつくることです。地域に根差した中小企業の力と、優れたスキルやノウハウを持った方々の力をコラボレーションさせることで、福井の産業をさらに発展させられると確信しています。今回の取り組みは、その構想を実現させる第一歩ですね」(藤丸さん)

“仕事”を通すからこそ生まれる「信頼関係」「地域との絆」

自身の故郷や関心のある地域と関係を持つ方法として、ふるさと納税、観光、移住といった選択肢は今までもあった。「ふるさと副業」の特徴は、「仕事」という機会を通しているからこそ、地域での人間関係の基盤となる「信頼」や、「地域との絆」と呼べるような愛着が生まれている、という点ではないだろうか。

地方副業のマッチングサイトをのぞいてみると、本当にさまざまな仕事がある。今回のようにキャリアを積んだプロフェッショナル人材を求めるケースもあれば、学生向けの募集なども存在する。

「移住」よりはハードルが低く、「ふるさと納税」や「観光」より深いつながりを生みだす新しい選択肢として。「ふるさと副業」は今後も広がっていきそうだ。

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●取材協力
福井県 地域戦略部 未来戦略課 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル

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更新日:2020年6月8日 / 公開日:2020年6月8日

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