/
コロナ禍でおうち時間が増え、自分の暮らしを見つめ直す人が増えています。もともとあった中古住宅のリノベーション需要に加え、最近では、壁や床を張り替えるなどのセルフリノベーションをする流れが出てきました。実際、自分でやるには?注意点は? 実例を通じて、内装デザイン会社夏水組の坂田夏水さんに聞きました。
在宅時間の増加で、セルフリノベをしたい人が増えている!
DIY(Do It Yourselfの略)は、日本では、主に机や棚などの家具を自作する場合を指すことも多く、「日曜大工」として親しまれてきました。一方、セルフリノベーション(以後セルフリノベ)は、壁や床の張替え、間取りの変更などの大掛かりな部屋のリフォームを指します。セルフリノベには、すべてDIYする、専門業者に一部依頼するなどがあります。セルフリノベへの関心の高まりにはどのような背景があるのでしょうか。
「私が2020年に『セルフリノベーションの教科書』を出版する以前にもDIYのハウツー本を書いてきましたが、10年前は、本屋にDIYのコーナーはありませんでした。今では料理本のコーナーに並んでDIYコーナーにも本がたくさん並んでいて、関心の高まりを感じています。以前からDIYをやってみたいという潜在層はいたのですが、コロナ禍で在宅時間が長くなり、実際に着手する人が増えたのでしょう。オンラインで部屋が背景に映る機会もあり、身につけるものと同じように空間をおしゃれにしたいという気持ちもあるのかもしれません」
坂田さんは、十数年前にヨーロッパやアメリカを訪れた際、DIYの文化が広く根付いていることに驚いたといいます。
「街には、レストランや洋服のお店の隣にインテリアショップが並んでいました。ファッションや料理など趣味や家事の延長線上にDIYがあるのです。日本のDIYについては、当時はホームセンターで材料を買って、庭にデッキをつくるなどが多かった印象です。最近では、自分で壁紙を張替えたり、ペンキを塗り替えたりするDIY(セルフリノベ)が増えてきました。それでも賃貸だからと諦めていた人が多かったと思いますが、日本の不動産業界も変わりつつあり、DIY可や原状回復不要の賃貸物件も出てきています」
2008年に坂田さんが立ち上げた夏水組では、不動産会社、オーナーと住む人との間に入り、リノベーションやセルフリノベーションを行ってきました。入居者がリフォームできる新しい賃貸住宅、DIY型賃貸の企画をする不動産会社のリベストと提携し、DIYを希望する借主の相談にのっています。DIY型賃貸の借主のメリットは、賃貸物件でもDIYができること。退去時に原則、原状回復をしなくてもいいので、持ち家のように自由にセルフリノベが可能です。貸主としては、現状のまま貸せて手間がかからないメリットがあります。
それでは、DIY型賃貸でセルフリノベを行ったふたつの事例を紹介しましょう。
蔦の絡まる外観が特徴の「潤マンション」に住む宮本涼さん(20代)は、DIY可なことに惹かれ、入居を決めました。白壁に木のぬくもりを感じるリビングは、イギリスやアメリカ、インドなどの家具が置かれ、ヴィンテージな雰囲気。10.5畳ほどあるリビングの床の板張りをすべてDIYしたことに驚きます。
「ピカピカの新しいものより、味わいのある古いものが好きなんです。部屋を内見したとき、古い設えや前に住んでいた人が手を加えたところが残っていて面白いと思いました。リビングの床板は以前住んでいた人が敷いたものですが、木の板がささくれて裸足で歩けなかったので、真っ先に手を加えることにしたんです」
リビングの床の板をいったん剥がし、ささくれた表面をサンダーで削り、一枚ずつ張り直していきました。作業のほとんどはひとりで行い、かかった日数は延べ3日間程。初めての本格的なDIYでしたが、そろえた工具は、カンナ(約1000円)、ノコギリ(約1000円)、電動ドライバー(約3000円)、電動ヤスリ(約6000円)のほか紙やすりやビス、ワックスなど総額2万円ほど。自分でやり方を調べ、工具を用意するほか、夏水組からも機材の貸し出しやアドバイスをもらいました。
「壁と床の隙間に合うように、木を加工するのが難しかったですね。木の表面をヤスリでなめらかにするのも大変でした。床のDIYは音にも気を使います。両隣や向かいの方には引越しの挨拶の際、DIYする旨了承をいただいていましたが、作業する時間には気をつけていました」
そのほか、玄関の床の張替えやキッチンのリフォームを行った宮本さん。セルフリノベの魅力は、「自分で住む空間をデザインできること」だといいます。憧れていたDIYにチャレンジし、暮らしやすくなりましたが、さらに玄関脇のお風呂場の前に仕切りをつくろうと計画中です。
「テレワークで家にいる時間が増えて、できるだけ過ごしやすい部屋にしたいと思うようになりました。手をかけるとその分使いやすく見栄えが良くなってきます。業者に依頼してリノベした方が早いですが、リノベは一回やるとなかなか変えられません。セルフリノベは、住んで使ってみて柔軟に変えていける良さがあります」
難しいところはプロに頼りつつDIYできるDIY型賃貸物件の魅力もうひとつの事例は、白い外壁に赤いドアが印象的なフラットハウス(平屋)です。夏水組により入居前にリノベーションされた室内は、白を基調にブルー系の差し色のシンプルでおしゃれな内装。DIY型賃貸なので、そのまま住むことも、さらに自分でDIYすることもできます。C.Kさん(39歳)とK.Kさん(38歳)は、引越したばかり。初めての賃貸暮らしなので、家具などをそろえながら、少しずつ、DIYしていきたいと考えています。
「アメリカンハウスのような外観に惹かれ、内見すると、グリーンと白にまとまった空間にモザイクタイルやエキゾチックな壁紙が、私の好きなモロッコ風のインテリアを連想させ、一目で気に入りました。さらに、DIYができる物件なので、自分たちが好きなように間取りを変えたり、足りない物を足したりでき、暮らしながら補えるところにも魅力を感じました」(C.Kさん)
間取りは、寝室やキッチン、リビングに仕切りのない1フロアです。
「住みながら必要なところに仕切りをつくったり、棚をつけたりしたいと思っています。キッチンカウンターは自分たちでつくるのは無理そうなので、デザインだけして木材屋さんに相談中です。自由度が高いところが、楽しい面でも難しい面でもありますね」(K.Kさん)
DIYする箇所はオーナーに事前に確認が必要ですが、原状回復の義務はなく、管理費もありません。エアコンなどの備え付けの設備の故障についてはオーナーへ修繕を依頼できます。
「どこに何を置こうか、どう手を加えていこうか、ふたりで想像をふくらませてワクワクしています。完成するまでに長い年月が必要ですが、ブラッシュアップできるのが楽しみです。きっと終わりはない気がします」(C.Kさん)
先日は、グリーンの更紗模様の壁紙に合わせて、エスニック柄のカーテンをつけました。内装を手掛けた夏水組の実店舗「Decor Interior Tokyo」では、照明や鏡、モロッコタイルに合わせたマスキングテープを購入し、アクリルBOXに貼り小物入れに。
「Decor Interior Tokyo」では、DIYグッズや壁紙、床材などの内装建材のサンプルを取りそろえ、部屋づくりをサポート。リベストで入居した人には、買い物の割引サービスも。二人は入居後、何度も訪れ、インテリアやDIYの相談をしています。
セルフリノベをする際、気をつけなければいけないところを坂田さんにたずねました。
「自分でやれるところとプロに任せた方がよいところを理解するのが大切です。水まわりは、水漏れが起きると階下に迷惑がかかり、トラブルになってしまいます。電気については、漏電や感電の心配があり、専門の資格を持っていないとほとんどの施工ができません。キッチンのガスコンロの近くにスノコで収納をつくるなど防火上問題のあるDIYをしている例もSNSなどで見受けられます」
特に注意が必要なのは、建築基準法で火災の拡大や煙の発生を遅らせるために規制されている内装制限についてです。内装制限のある場合、床や壁に燃えにくい内装仕上げ材を使うなどの決まりがあります。
そのほか、貸主や管理会社の申請と承諾を得て行うことやほかの住民へ迷惑となるDIYはしないなど、オーナーと入居者、管理会社が事前に書面で確認をとるなど共通認識を持つのが大切です。
夏水組では、賃貸でDIYするときの注意点や防火法、内装制限について理解を深めてもらおうと、DIY型賃貸借のスタートブックを作成し、インターネットで公開。ブックには、全国各地のDIYショップマップもついています。
「輸入資材を豊富にそろえる店や工務店が運営している店など、今はさまざまなショップがあります。DIYを一度やってみると、床の張替え、ペンキの塗り替えと次々にやりたいことが増えていくときに頼りになるのがこうしたショップです。オーナーと借主との間に入ったり、施工の相談に乗ったり、日本のDIYを支える存在になってきています。賃貸だからと諦めず、洋服を選ぶように、自分らしい家をつくってほしいですね」
DIY・セルフリノベで、時間が経つほど暮らしやすく、愛着が増す住まい。インテリアショップやプロの力をうまく借りながら、自分らしい暮らしを自分でつくり上げる文化が日本でも根付き始めています。
●取材協力
・夏水組
・Decor Interior Tokyo
・株式会社リベスト
●関連記事
・“賃貸住宅でDIY”これで安心。注意点や知識まとめた「賃貸DIYガイドライン」が必読
この記事のライター
ライフスタイルの人気ランキング
新着
カテゴリ
公式アカウント