まちの「公園」が進化中! 治安を激変させた南池袋公園など事例や最新事情も

更新日:2021年8月16日 / 公開日:2021年8月16日

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いま、公園がちょっとした休憩や散歩をする場所から地域コミュニティの要へ進化しつつあります。おしゃれなカフェが併設されていたり、泊まれたり、イベントが開催されたりと、地域の特徴を活かした魅力的な公園が続々と登場しています。国土交通省都市局公園緑地・景観課の秋山義典さんに話を伺い、事例を踏まえながら紹介します。

治安すらも激変させた! 南池袋公園の芝生広場とカフェ

ここ数年で、民間と協業したり、空間に工夫が凝らされるなどした公園が、各地でみられるようになってきました。美しい景観に、カフェやレストラン、アパレルショップなどが設置された公園は、以前にも増してにぎわいを見せ、新しい観光地として注目されるようになりました。

新しい公園のモデルのひとつとなったのが、東京都豊島区の南池袋公園です。場所は、JR池袋駅東口から徒歩5分ほどの繁華街の中にあり、周囲にはサンシャイン60などの超高層ビルが立ち並んでいます。約7800平米の広さがある南池袋公園の魅力は、開放的な芝生広場です。休日には、ピクニックをする人、ごろんと寝転ぶ人、多くの人が思い思いに楽しんでいます。公園の敷地内に設けられたおしゃれなカフェレストランには、地域の人だけでなく、遠方からも人が訪れています。

芝生への立ち入りを禁止している公園もあるなか、海外のようなみんなで使える芝生広場に。年齢層を問わずさまざまな使い方ができる(画像提供/豊島区)

養生期間を設けたり、注意の看板を設置したり、「南池袋をよくする会」が中心になり、芝生を守る活動がされている(画像提供/豊島区)

1951年に開園した南池袋公園が現在の姿にリニューアルしたのは、2016年でした。手入れされた緑の芝生広場とカフェレストランの組み合わせのセンスがよく、話題を呼んで多くの人を惹き付けました。

リニューアル前の南池袋公園は、樹木がうっそうと生い茂り、暗い印象で利用者は限られていました。当時から公園の活用について、何度も話し合いが行われていましたが、なかなか意見がまとまらなかったのです。

「公園周辺の商店街の人から、もっと公園を活用したいという声がありましたが、隣接するお寺はなるべく静かに使ってほしいと要望していました。意向が相対し、話し合いは遅々として進みませんでした。そんなころ、豊島区新庁舎のランドスケープデザインをやっていた、平賀達也さんに南池袋公園の設計を依頼したところ、ニューヨークのブライアントパークを参考とした、誰もが魅力を感じる素晴らしい公園の設計が出来上がりました。また、東京電力から南池袋公園の地下に変電所を設置したいという申し出がありました。そのためには公園の施設を一度すべて取り払い再整備を行う必要があります。これらのことをきっかけにリニューアルの話が進展したということです」(秋山さん)

豊島区も、「都市のリビング」というリニューアルコンセプトの下、公園へカフェレストランの導入を決め、民間と協力して地域に根ざした持続可能な公園運営を目指すことになったのです。

その後の都市公園法改正の参考例になったのが、地元町会や商店街の代表者、隣接する寺の関係者、豊島区、カフェレストランの事業者による協議会の発足です。この取組みは、リニューアルオープン後に「南池袋をよくする会」と名付けられ、引き続き、地元関係者が南池袋公園の運営に携わっています。休日には近隣の商店街や地域の人が出店するマルシェも催され、公園は地域コミュニティの拠点となりました。

カフェレストランRACINES(ラシーヌ)の名前は、フランス語racineで「根源」という意味。新しい公園のルーツになるという思いが込められている(画像提供/豊島区)

桜の木が植えられた多目的広場では、マルシェなどのイベントが行われる(画像提供/豊島区)

官民連携の新しい公園が全国65カ所へ拡大中

公園の管理について定めている法律は、都市公園法といい、1956年に制定されました。
「施行されたのは、戦後復興が収束していないころ。都市開発が進むにつれ、身近な自然がなくなることが問題になっていました。また、公園で闇市が催されたり、勝手に建物を建てられて私有地化されてしまったりすることも。そこで、都市公園法で、公園内の施設の設置や管理に必要なルールを設けたのです。しかし、時代が経つにつれ、規制ばかりで『何もできない公園』というイメージを持つ方も多くなりました。行政主導による公園管理と地域社会が求める公園機能との剥離が著しくなってきたのです」(秋山さん)

各地域のニーズに合った公園の管理方法、設備計画が求められている(写真/PIXTA)

時代のニーズの変化を踏まえ、そのたびに都市公園法は改正されてきましたが、直近の2017年の改正では、官民連携等による公園の整備・管理を推進するため、南池袋公園が事例となった協議会制度を含むさまざまな改革がなされました。

「2017年の改正においては、公募設置管理制度(Park-PFI)が創設されたことも目玉の一つです。南池袋公園での、カフェレストランの売り上げの一部が『南池袋をよくする会』の活動資金に充てられているという仕組みや、大阪市天王寺公園での民設民営によって公園の再整備された事例を基に、これらの取組を行いやすくし、他の地域でも行ってもらうためにつくられた制度です」(秋山さん)

公募設置管理制度(Park-PFI)は、公募により公園施設の設置・管理を行う民間事業者を選定する仕組みで、民間事業者が設置する施設から得られる収益の一部を公共部分の整備費に還元することを条件に、設置管理の許可期間の延長や建蔽率(土地面積に対する建築面積の割合)の緩和などを特例として認めるものです。

「特例は民間事業者の参入をうながすためです。現在は、65公園でPark-PFIの活用がされています。オープンした施設は30施設。107カ所の施設で検討が進んでいるところです。民間事業者にとっては、公園という緑豊かで開放的な空間で施設を設置でき、公共としても管理費用の一部にその収益を充てられ、お互いにメリットがあります」(秋山さん)

参入する施設の選定は、まず公園管理者である公共が、マーケットサウンディングを行います。どういう施設が求められているか、地域の自治会、現状の管理者等にリサーチし、民間事業者に個別のヒアリングを行っています。例えば、愛知県名古屋市の久屋大通公園では、市街地の中心にあるため、ブランドなどを扱うアパレルショップを選定。今までの公園になかった都心ならではのにぎわい創出に成功しました。

新宿中央公園には、カフェ、レストラン、フィットネスクラブが利用できるSHUKNOVA(シュクノバ)を設置(画像提供/国土交通省)

北九州市のシンボルである小倉城下の勝山公園には、コメダ珈琲店が出店した(画像提供/国土交通省)

パークツーリズムで各地の公園・庭園が観光地へ

近年では、公園そのものが旅の目的地になるパークツーリズム(ガーデンツーリズム)が、話題を集めています。

「各地に知る人ぞ知る、素晴らしい庭園や植物園がたくさんあります。ところがPR不足や庭園同士の連携不足などで、そうしたポテンシャルが活用しきれていないケースも多いんですね。北海道のガーデン街道のように、複数の庭園・植物園が共通のテーマに沿って連携してアピールすれば、魅力が広く伝わり、観光ルート化されるなど波及効果が期待できます」(秋山さん)

テーマには、地域ごとの風土、文化が反映されています。目指しているのは、魅力的な体験や交流を創出することを促すことで、継続的な地域の活性化と庭園文化の普及を図ることです。現在は、10のエリアにおいて協議会が設立され計画が進行中で、さまざまな取組が進められています。

北海道ガーデン街道のひとつ、帯広市の真鍋庭園。樹木の「輸入・生産・販売」をしている農業者「真鍋庭園苗畑」が運営している2万5000坪のテーマガーデン(画像提供/国土交通省)

室町時代に活躍した水墨画・日本画家の雪舟が作庭した庭園を集めた「雪舟回廊」。岡山県総社市、島根県益田市、 山口県山口市、広島県三原市などが参加し、ガーデンツーリズムとしてPRを行っている(画像提供/国土交通省)

フラワーパークアメイジングガーデン・浜名湖は、浜松市のはままつフラワーパークのほか、湖西市、袋井市、掛川市の庭園を集めた(画像提供/国土交通省)

誰でも公園づくりに参加できる中間支援組織の活動

各地に新しい公園が生まれていくなか、地域に根ざした公園管理を進めるため、公共とボランティア団体、住民や地元の事業者などの間に入り橋渡し役を担う中間支援組織が活動の幅を広げています。東京都では、中間支援組織でもあるNPO法人NPObirth(バース)に公園の指定管理を任せています。中間支援組織という存在は、もともと、アメリカ、イギリスでスタートし、日本に浸透してきた取組みです。タイムズスクエアとグランド・セントラル駅の中間に位置する、ニューヨークの代表的な公園、ブライアントパークも一例です。1980年代に治安の悪化で使われていなかった公園を、周辺の店舗や近隣住民が出資して中間支援組織を設立。公園の管理を行い、今では、観光客も訪れる魅力的な公園になっています。

「日本でも、かねてから、公園の管理、整備に携わりたい地域住民の方はいましたし、そういう声は今でも増えています。公園愛護会等のボランティア団体がその例ですが、活動したくてもとりまとめる人がいなかったり、行政としてもボランティアにどう接したらいいか悩んでいました。NPObirthのような中間支援組織が間に入り、公園を拠点としたプラットホームができたことで、地域の人、行政、民間の事業者が関わりやすくなりました」(秋山さん)

NPObirthは、野川公園や葛西海浜公園などの都立公園、西東京市の公園など72の公園の管理をしています。公園の自然について伝えるパークレンジャー、地域の魅力を引き出すパークコーディネーターが、イベントやボランティア活動を企画運営することで、公園を拠点に地域コミュニティが育まれています。

人々とともにマルシェなどの楽しい催しを企画・運営(画像提供/NPObirth)

西東京いこいの森公園で行われたヨガ教室。緑のなかで日ごろの疲れをリフレッシュ(画像提供/NPObirth)

環境教育の一環として、自然の知識を持つパークレンジャーが観察会や自然体験の場を提供(画像提供/NPObirth)

コロナ禍でストレス発散や運動の場を求めて公園の利用者は増加しており、魅力的な公園が増えることでさらに利用者が増えることが予想されます。

「QoLの向上のため公園づくりに携わりたいと考える人も増えていくのでは。それぞれの地域で公園管理に関わっている人や求められているニーズが違うので、成功事例をそのままほかに使うことはできません。色々な方の意見をくみ取って、公共側との調整なども担うノウハウがある中間支援組織が、公園の活性化に大きな役割を果たしています」(秋山さん)

身近な公園で進められている行政と民間の力を合わせた新たな取組みを紹介しました。今までの使い方に加え、公園を拠点にさまざまな活動ができるようになっています。私自身も、地域活動のひとつとして気軽に公園の管理に携わったり、各地の公園を訪ねて旅に出かけたりしたいと感じました。

●取材協力
・国土交通省
・豊島区
・NPObirth

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