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「子どもの本は嫌だなぁと思っていた」漫画家・やなせたかしさんの転機。アンパンマンにつながる重要な道とは

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目次

子どもたちに大人気の「アンパンマン」の生みの親・やなせたかしさん。やなせさんと妻・暢さんをヒロイン夫婦のモデルとして描くNHK連続テレビ小説『あんぱん』もはじまり、今あらためて、その生き方に注目が集まっています。やなせさんの名作詞「手のひらを太陽に」の誕生秘話を紹介します。

\やなせたかしさんの半生と、「アンパンマン」のもとになった考え方/

正義とは何で、正義の味方とはどのような人なのか。戦争を生き抜き、「アンパンマン」をはじめ数々の絵本や作詞で名作を残したやなせたかしさんは、90歳のときに、正義についてあらためて考えた一冊を遺しています。

「今、ぼくたちが生きている社会は、世界の戦争や環境問題、不安な政治、殺人事件、怒りの気持ちになることが毎日起こっています。でもぼくは多くの人を喜ばせたい。」

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テレビ放送が始まったばかりの発展期に数々の番組制作に関わったやなせさん。当時は「漫画家になりたい」夢と、現実の仕事の間で思い悩む日々だったといいます。そんなときに書いた歌詞「手のひらを太陽に」と、のちの「アンパンマン」につながる道になったという番組について、書籍『新装版わたしが正義について語るなら』(ポプラ社)から一部抜粋してお届けします。

自分を励ますために書いた歌、「手のひらを太陽に」

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※画像はイメージです

テレビは今、衛星放送で何十チャンネルも見られるのが当たり前です。地上デジタルテレビ放送ではきれいな映像も見られるようになっていますが、日本で民間放送が始まったのは、まだ今からたった六十年くらい前のことです。一九五一年にラジオから始まり、そのうちに民放テレビ局が続々と開局しました。ぼくはどういうわけか、ほとんどすべての局の初期に少しずつ関係しています。初期の中では後発の日本教育テレビ(現在のテレビ朝日)でモーニングショーのテスト版のようなニュースショーを始めることになり、ぼくは頼まれてニュースショーの構成をしました。司会は宮城まり子。そしてぼくが作詞し、作曲をいずみたくに依頼したのが「手のひらを太陽に」です。現在、ぼくが作詞した歌の中で一番よく歌われている歌で、最初に歌ったのは宮城まり子です。その当時漫画の世界はゆるやかに変化し始めていました。超天才手塚治虫が関西から上京し、世に言う「トキワ荘伝説」が幕を開けます。日本の漫画は、戦前に活躍した「新漫画派集団」で第一回目の大変化がありました。それは先にもお話しした「漫画集団」として戦後にも引き継がれていきます。そして手塚治虫が出現したことで「ビフォアー手塚」「アフター手塚」にはっきり区別されることになるのです。漫画の世界では長編劇画が主流を占めるようになっていきます。それまで漫画といえば線画の四コママンガが普通でした。ぼくは戦前派ですから、劇画のことを漫画だとは思っていなかった。あれがぼくには書けないんです。その頃ぼくは四コママンガなどを発表していましたが、だんだん漫画の仕事は減ってきた。四コママンガを発表する雑誌や本がなくなって、劇画のマンガ雑誌になったのです。発表の場がないのだから、仕事としては絶望的です。とりあえず食べていかなくちゃいけないから、ラジオやテレビの構成の仕事はしていたけど、それは本職ではないんですね。一応食っていけることはいけるんだけど、漫画の仕事はなくなっちゃった。だからどうしたらいいか分からなくなったのです。それでもそういう時に限って、徹夜で仕事をしているんですね。なんとなくそうしないと寂しい。たいして仕事はないのに、何かやってるんだよね。そうすると寂しいから手のひらを見たりして、手のひらに懐中電灯を当てて、子どもの時のレントゲンごっこを思い出して遊んでいたら、血の色がびっくりするほど赤いんですね。本当に桜色というかきれいで見惚れてしまいました。自分は元気がなくても血は元気だな、と。だから手のひらを懐中電灯にすかしてみればというのがもともとなんだけれど、懐中電灯じゃ歌にならないから「手のひらを太陽に」になりました。あれは自分を励ます歌なんです。まさかそれが広く歌われる歌になろうとは、夢にも思いませんでした。

キャラクターがなければ存在しないのと同じ

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※画像はイメージです

見知らぬ人がやってきて突然仕事を頼んでいったことは、まだ他にもあります。ミュージカルの舞台装置を頼まれたり。ぼくは舞台装置なんて作ったこともなかったのに、どうして頼まれたのか今でも不思議です。それからまたある日、見知らぬ青年がやってきて「今度NHKで『漫画学校』という番組を始めるので、先生の役で出演してください」と言いました。これまたびっくり。ぼくは無名のマンガ家ですし、ルックスが良くなくてテレビ向きではない。先生なんてやったこともありません。自信はありません。自分でさえ漫画がよく描けなくて、どんな風に描いたらいいのか迷っているような頃です。でも、結局引き受けてしまうのですね。未知の世界には興味がある。そうして「漫画学校」が始まりました。まだテレビは白黒の時代です。NHKに行ってみて驚いたのですが、タイトルは「漫画学校」だったのに、内容はクイズ番組でした。子どもが出演して、クイズをコントでやる。漫画学校の先生といっても、ぼくは単なる出題おじさんだったのですね。この頃はテレビの構成作家もやっていましたから、ぼくがオープニングとエンディングの歌を作詞して、始まりの三分間を簡単な絵の描き方コーナーみたいにして、絵描き歌を創作しました。今思えば出演者がそんなことをするのは少し差し出がましいのですが、テレビの夜明けの時代にはそんなことも受け入れられたのです。番組は評判が良くて三年間続きました。ところがこれで予想しなかったことが起きてあわてることになります。番組は月曜日の六時からでした。ぼくは誰も見ていないだろうと甘く見ていたのですが、当時のNHKは地方では強力無比。NHK以外は見ない人もたくさんいる頃でしたから、旅に出ると誰でもぼくのことを知っていて騒ぐのに驚きました。

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漫画は売れていないのに顔が売れてしまって恥ずかしかったですね。タレントでもないのに、行動が不自由になる。酒場では子持ちホステスが寄ってきて「先生、うちの子どもは漫画が好きだけれど、マンガ家になれるかしら」なんて誤解しています。何せ子ども相手の先生ですから、行動に気をつけなければいけません。電車に乗っても、船に乗っても、子どもが寄ってきます。映画館で明るくなると、どこからか子どもたちが集まってきて「漫画学校の先生だ」と騒ぐ。そのうちぼくは、とても大事なことに気づかされました。顔が知られてしまったぼくに、子どもたちはみんな「サインしてください」と言うのですね。ところが困ったことに、ぼくには代表的なキャラクターがない。いつもとまどいました。野球選手なら、何か分からない字でサインしてもありがたそうに見えますが、漫画学校の先生となればやっぱり目の前で絵を描いてみせる。なんでも好きなものを描くと言ってしまうと注文がやたら難しくて、ロボット、SL、スポーツカーにカバ大王。何がなんだか分からなくて弱ってしまいます。

そうするうちに痛切に思い知ったのは、マンガ家として生きていくならば、自分のキャラクターが必要なのだということです。歌手に持ち歌があるように、誰でも知っている人気キャラクターがなければ、この世界では存在しないのと同じ。そうは言っても、どれほど焦っても人気キャラクターは簡単に生まれるものではありません。努力だけでもできない。世界的に人気のミッキーマウスもスヌーピーも、ポパイも、一種の天運と千載一遇のチャンス、時の流れ、奇跡、すべて重なってキャラクターは誕生します。星の数ほどあるキャラクターの中から生き残れるのはほんのわずかで、あとは宇宙の闇に消えていきます。それは人の誕生にも似ているかもしれません。子宮をめざして泳いでいく数億の精子の中から、無事に生命として誕生するのはたった一つ。五ツ子が生まれることも時にはありますが、たいていは一つきりです。「漫画学校」は三年続いて終わりましたが、この番組はぼくにとってもひとつの転機となりました。それまで大人用の漫画しか描いていなかったぼくに、子ども雑誌から注文がくるようになったのです。スタインベルグやアンドレ・フランソワなど、海外のハイブローな漫画にあこがれていましたから、子どもの本は嫌だなぁと思っていたのですが、なんでも引き受けているうちに学習雑誌が多くなり、ハイブローどころか「めいろあそび」に「まちがいさがし」。交通信号を守りましょう、食事の前には手洗い、外から帰ったらうがいをして、早寝早起きしましょう。なんて、いくら頑張ってもハイブローな芸術作品は描けません。すっかり堕落したような気分になりましたが、安くてもたくさん描けばそれなりに収入は多くなる。いつの間にか俗塵にまみれ、世界漫画に衝撃を与える漫画を描きたいと願った夢はどこへ行ったのか。でも、これはアンパンマンにつながる重要な道になりました。

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この続きは、是非書籍でご覧ください。

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『新装版わたしが正義について語るなら』ポプラ社

※本記事は、『新装版わたしが正義について語るなら』著:やなせたかし/ポプラ社より抜粋・再編集して作成しました。


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この記事のライター

マイナビウーマン子育て

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