日本製3Dプリンターでつくった倉庫やサウナ、公衆トイレなど続々! 全国初の建築確認申請も取得 鎌倉市・ポリウス

更新日:2022年8月23日 / 公開日:2022年8月23日

当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

国内外で3Dプリンターの家や建築物の研究・開発が進んでいる。今年から国内でも販売をスタートする予定という企業もあり、ますます現実のものとなりつつある。
そんな国内でも盛り上がりを見せる3Dプリンターの家・建築物界隈で話題になっているのが、今年2月に登場した、日本製の3Dプリンターでつくった、建築基準法に適合(10平米以上の建築物施工)させた倉庫だ。手掛けたのは、神奈川県鎌倉市に拠点を構える会社Polyuse(ポリウス)。3Dプリンターの家・建築物の最新事情とともに、どのようなものなのか取材した。

建設業界のDX化の流れで導入進む

建設用3Dプリンターの開発は、2012年ごろから活発に行われるようになり、海外ではすでに住宅も施工されている。しかし、日本国内では地震、台風といった自然災害から生活を守るための建築基準法の基準を、3Dプリンターを用いた建築でクリアするのが難しく、長らく課題となっていた。

(写真提供/ポリウス)

それでも、このコロナ禍の2、3年では、建設業界でのDX化は加速していると建築ITジャーナリストの家入龍太さんは話す。パンデミックにより、人材不足の深刻化、対人作業の削減や効率化、持続可能な住宅建設への意識の高まりが相まって、3Dプリンターをはじめとした最新の施工DX機器を現場に積極的に導入する動きがあるからだ。

「今は業界全体として、新しい機器導入には積極的です。3Dプリンターも、最新機器の一つとして建築現場で導入されています」(家入さん)

日本国内でも少しずつ住宅業界や建築業界で、3Dプリンターが浸透してきているとはいえ、建築確認申請が不要な建築物に該当しない建物、防火地域・準防火地域以外の床面積10平米以下の増築等で、コンテナやユニットハウス、タイニーハウスがつくられることが多く、建築確認申請を取得したものはなかった。また、日本の建築現場で導入されている3Dプリンターは、ほとんどが海外製だ。

そんななかで、自社製(日本製)の建設用3Dプリンターを使い、かつ、国内で初めて建築基準法に適合する形で生活空間としても十分な18平米の広さを確保した倉庫をつくったベンチャー企業Polyuse(ポリウス)の試みは、日本の3Dプリンターの家・建築物の進化の大きな一歩となったと注目を集めている。

左からポリウス代表取締役・大岡航さん、材料開発責任者/博士(工学)・鎌田太陽さん(写真提供/ポリウス)

今後、ここから日本国内での3Dプリンターの家・建築物はどう進化していくのだろうか。

やってみないと進まない3Dプリンター関連の開発

ポリウスは、今年4期目を迎えた平均年齢27歳の建設DXベンチャーだ。国内唯一の建設用3Dプリンターメーカーで、建設業界が抱える人材不足やインフラの老朽化といった課題を、3Dプリンターを利用して解決しようと挑んでいる。
国土交通省が主導するプロジェクトにて排水土木構造物の印刷造形を手掛けたり、国内初の3Dプリンター適用の公共工事を高知県で国土交通省土佐国道事務所・入交建設と共に道路改良工事の現場で必要な土木構造物を造形・導入したりといった、工事現場で活躍するマシンやそのマシンがつくる建材の提供を行ってきた。

そんなポリウスが3Dプリンターの建築物に挑むことになったきっかけは、群馬県高崎市にあるMAT一級建築士事務所からの相談だった。施主やMAT一級建築士事務所に、18平米の倉庫を3Dプリンターで印刷した建材を用いるアイデアを提案し、12体の建築部材を印刷するエンジニアとして、ポリウスに白羽の矢を立てた。

建設業界のDX化を支えるポリウスの面々。自社生産する3Dプリンターと共に(写真提供/ポリウス)

10平米を超える建築確認申請が必要なプロジェクトであったため、ビジネス的側面では、法整備の課題をクリアしなくてはならなかった。そもそも3Dプリンターでつくる建物が、安全基準や建築基準法における現状の枠に含まれていないため、既存の基準と照らし合わせて何が問題なのか、実際に建物をつくり、申請し、精査しないことにはわからなかったからだ。

「3Dプリンター関連の開発は、現在の基準に当てはまらないものばかり。やってみないと、何ができて、何が今後において具体的な課題や障壁になるのかがわからない。ビジネス面においても、技術面においてもプロジェクトを行った意義はありました」とポリウスの代表取締役・大岡航さんは話す。

一方ポリウスの材料開発責任者/博士(工学)の鎌田太陽さんは「コンクリートが固まりにくい冬場の施工という点で、描き出すコンクリートを、強度を担保しながらスケジュールどおりに硬化させることに、たびたび微調整が必要でした」と話す。さらに「高さが1.5m 、長さが2m ある部材を12体印刷したが、最初のパーツと最後のパーツでは出来に若干の違いがあって成長過程がわかります」と続ける。

各構造物ごとに異なるサイズや形状を製作できる(写真提供/ポリウス)

実物に触れた人たちからは「コンクリート打ちっぱなしのよう(に頑丈そう)」「曲面がおしゃれ」といった感想が。表面の積層模様が美しい(写真提供/ポリウス)

耐震性をどう担保するか

今回のプロジェクトのカギは、自社製の3Dプリンターと、建築基準法をいかにクリアしたか。まずは、3Dプリンターの家や建築物において、国内でたびたび議論される耐震性や耐火性について聞いてみた。

「木造、RC造の家、といった現在の建築基準に準ずる分類が、3Dプリンターでつくる家には該当しないんです。そのため、今回はあえて構造体を鉄骨造にしつつ、さらに鉄筋も組み込み、印刷方法自体も工夫しました。それらにより強度が高い3Dプリンター建築物としての構造体を実現し、従来の基準もクリアしました。その後も建築物としての頑丈さや安全面での検証を続けています」(大岡さん)

窓やドア、屋根など「安くて良いものは積極的に既製品も使用している」とのこと(写真提供/ポリウス)

今回の倉庫づくりは、設計から施工・仕上げまで合計1月半ほどの期間を要し、費用は600万円ほどだという。3Dプリンターの家づくりは、「安くて早い」が売りだが、プレハブなら1坪あたり50,000~200,000円でつくれる中で、この600万円を“手ごろ”と片付けるのは難しい。しかし「群馬県の倉庫の躯体施工自体は約1日前後で終了しました。弊社での3Dプリンター建築物は既存と比べても遜色なく強固で耐久性も高い建築物です。もちろん今後技術開発を進めていくうえで、価格は十分に下がる見込みもたっており、スピードも格段に速くなってきています」と大岡さんは話す。

(写真提供/ポリウス)

だがポリウスの見立てでは、3Dプリンターでつくられる住宅が、一般的に普及するにはもう少し時間がかかりそうとのこと。

今、続々とプロトタイプがリリースされ始めているが、大岡さんは慎重な見方を崩さない。「いわゆるプロトタイプと、皆様が安全にかつ満足した暮らしができる販売住宅には、天と地の差があります。耐震基準をはじめとした法的整備はもちろん、3Dプリンター建築物における基礎や仕上げの工程や3Dプリンター特有の構造に対しての基準等、まだまだいろいろな課題が残っています。そして、弊社の直近の3Dプリンター建築においては、公共施設や仮設住宅、学校、公園といった身近にあるレベルの建築物での印刷を優先的に開始させていただいております。その過程を経て、車ぐらいの価格で購入することが数年以内にできるように進めていきます」と話す。

仮設住宅のデザイン(写真提供/ポリウス)

仮設住宅のデザイン(写真提供/ポリウス)

海外プリンターとの差別化がカギ

今回のプロジェクトのもうひとつのカギが、自社製の3Dプリンター。
2000年代初頭から、技術を磨いてきたオランダや米国をはじめとした欧米プリンターメーカーに対して、後発の日本製プリンターの役割は何だろうか。

「大前提は日本特有の建設課題や価値観に徹底してコミットしているという点です。中でも、建築基準法や必要強度規格のような安全基準への対策と狭小領域という2つの点では海外特有の操作性や大型の機体サイズが存在する3Dプリンターに対して、弊社は徹底して日本の建設業界の方々が簡単に運べてかつ使いやすく、そのうえで日本の国内で建築する際に必要となる機体や材料のカスタマイズや、操作オペレーション面でのサポート体制のカスタマーサービス等々では、自信を持って現場で一緒に考えています」と大岡さんは話す。

続けて、「海外の3Dプリンターを日本に輸入し導入する動きは進んでいますが、日本の基準にない外国製の材料を使うことを推奨されていることが多く、国内基準への適用の調整や運搬費用が嵩むうえ、国際情勢に影響されて貨物の遅れが納期に影響するケースも出てきています」と建設DXの陰に見え隠れする問題を指摘する。

オランダやアメリカ製の大型の3Dプリンター機器に比べ、コンパクトなポリウスのマシンは、縦3m×横3m×高さ3mほど。国内で生産しているうえ、使用するコンクリートの材料も国内で調達できるため、輸送コストとリードタイムの両面で、大きなメリットを持つ。

さらに日本の耐震面や気候といった独特な風土や、建設現場のサイズにあわせ、マシンの改良依頼に応えなければならない場合もあるが、海外製品の場合、「その対応に時間も費用もかかる」という。

コンパクトなポリウスの3Dプリンター(写真提供/ポリウス)

また、プリンターを開発する過程で、実際に運用する建設会社や施工会社の意見を取り入れた形で機器をつくり、最適化しているということも海外製との大きな違いだ。

みんなが使える公共物から

今後ポリウスでは、大型の住宅建設を進めていく前に、まずは土木分野での地道な技術開発を進めていくという。「建築物という大きなものをつくる時は、鉄筋とどう組み合わせるかも大きな壁になります。いかに耐震性を担保するかを達成するには、技術開発や実証実験に時間がかかる。一方土木は鉄筋なしの『無筋構造物』も多い。耐震性を強く求められない構造物から技術を磨いていき、スムーズかつ早く技術を一般の方へお届けできると考えて着手しています」と鎌田さんは話す。

現在、彼らのところへ舞い込んでいる建築物の相談の多くは、飲食店、仮設住宅、大型サウナ施設、キャンプ場、公共トイレといったいわゆる「みんなが使える公共物、共用物」が中心だという。この秋には、高知県のキャンプ場のトイレを印刷することが決まっているという。ようやく一般ユーザーが、3Dプリンターの建物に触れる機会が登場しそうだ。

高知県のキャンプ場で印刷が決まっているトイレ棟(写真提供/ポリウス)

(写真提供/ポリウス)

「日本の建設会社に一番近い3Dプリンターメーカーとして存在していきたい」と話す鎌田さん。同時に、「私たちは技術提供しているいちエンジニアであって、脇役。プロジェクトの主人公はあくまでも業界を引っ張る建築家や建設会社や国土交通省で、業界が抱えている課題に真剣に向き合っている彼らが、より良い仕事をし、そこによりスポットライトが当たることが、この先若手人材が業界に参入するきっかけにもなると思っています」と続ける。

現在、ポリウスの3Dプリンターを導入したい、3Dプリンターでものづくりにチャレンジしたいと考えている行政や大学、建築業界関係者は多く、「勉強したい」「技術についてもっと教えてほしい」と前向きな声が集まっているという。

こうした前向きなアプローチやコンソーシアムといった緩やかな協力関係を用いて前進しようとするアプローチは、セレンディクスの飯田国大さんのインタビューでも聞かれたように、日本の3Dプリンターを利用したいと考える建設業界全体に見られる。

3Dプリンターの建物領域はまだまだ伸び代の大きな分野。ゆるやかに周辺とつながりながら、あくまでもカメのように慎重に、一歩一歩着実に進んでいく彼らの姿勢こそ、世界では後発の日本産3Dプリンターメーカーが世界を狙っていくための最速の方法なのかもしれない。

●取材協力
Polyuse(ポリウス)
家入龍太さん

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※建築確認申請の説明について誤解を招く表現があったため、2022年8月24日16時ごろ記事の一部を修正いたしました。ご指摘ありがとうございました

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