海の上で農業や発電も! いま話題の「海上都市」モルディブや国連も推す韓国釜山の計画を聞いてみた

更新日:2022年11月22日 / 公開日:2022年11月22日

当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

「水上都市」「海上都市」というと、たくさんの水上住宅が運河に浮かぶオランダ・アムステルダムや、特異な形の人工島として知られるドバイのパームアイランドが思い浮かぶ人もいるだろう。
今、新たに未来型の海上都市計画が発表され、話題を呼んでいる。海上都市とは、海上に連結されたプラットフォーム上に、生活拠点である住居やオフィス・商業施設を兼ね備えたまちのことだ。
今回は、特に注目を集めている2つの新プロジェクトを紹介する。気候変動や食糧問題などに対応した新たな都市をつくるという韓国・釜山市のプロジェクト「OCEANIX(オセアニックス)」、新たな観光都市づくりを目指すモルディブの「モルディブ・フローティング・シティ計画」だ。

気候変動問題などに対応。国連も後押しする韓国・釜山のプロジェクト「オセアニックス」

かつてない頻度の豪雨や台風、気温の上昇といった問題が、すでに身近なものになっている。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、気候変動により、世界の海面水位は平均で17cmも上昇しており、日本においては、全国で砂浜の約9割が1m以上の海面上昇で失われるといわれている。また、世界の環境対策を急ピッチで連携して押し進めるC40都市気候リーダーシップグループは、2050年までに世界の570都市に住む8億人以上が、海面上昇によるリスクにさらされる可能性があると予測している。

今、水との付き合いは、まちづくりや都市計画にとって、防災・レジリエンスの観点から非常に重要なものだ。

そんななか、2021年11月18日、世界初の海面上昇に対応した海上都市が韓国・釜山市に建設されることが発表された。
その名も海上都市計画のプロトタイプ「OCEANIX(以下、オセアニックス)」)。主導するのは、2018年にイッタイ・マダムンベさんとマーク・コリンズ・チェンさんが設立した米国のブルーテック企業。ブルーテック企業とは、海を守りながら、経済や社会を持続的に発展させることを前提として事業を行う先端技術を持った企業のことだ。
海上都市は2025年までに一部の建設が完了する予定とのことで、それほど遠い未来の話ではない。

計画が現在進行中の韓国・釜山沖の海上都市イメージ図(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

海上都市のプロトタイプは、各15.5エーカーの表面積を持つプラットフォームが、橋で繋がれるという(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

マダムンベさんは、「オセアニックスのコミュニティーには国際的な協力者も含まれる予定だが、中核となるのはあくまで釜山市内ひいては韓国全土の人々」と話す。現在の釜山市に、海上都市はどのような形で溶け込むのだろうか(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

海上都市には、「ネイバーフッド」と呼ばれる住居が集う。遊び、仕事をするための公共空間もある(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

釜山にできる「オセアニックス」のライフスタイルについての動画

地上と変わらない生活スタイルを想像させる海上都市の暮らしのイメージ図(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

海上都市では、電気も不自由なく使用できる(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

「オセアニックス」は、国連人間居住計画(ハビタット)との協働プロジェクトでもある。
国連ハビタットは、「政策提言、能力開発、国際・地域・国家・地方といったレベルでのパートナシップをとおして、社会的、環境的に持続可能なまちや都市づくりを促進する」国際的な機関で、アジアでは日本の福岡県福岡市に拠点を置いている。海上都市といった未来的な取り組みだけでなく、急速な都市化による、スラムの拡大、自然災害や紛争による居住環境の悪化などの問題解決を目的としている。

このプロジェクトには、海洋保全にまつわる先端技術をもったブルーテック企業と、多分野の専門家とのつながりをもつ国際的な機関が協働することで、あらゆる分野の専門知識と経験が、惜しみなく投入されている。「海上都市づくりに取り組むことは、気候変動や海面上昇、持続可能な沿岸都市化といった課題に対するソリューションを創造することでもあります。各専門家やIT企業のイノベーターたちの力を合わせ、そのためのシステムを構築していきたい」とマダムンベさんは展望を語る。

かつてネット時代の到来に合わせ、アメリカ・シリコンバレーを中心に技術と夢をもった若者たちが集まりビジネスを始めたように、新時代の価値を生み出す都市が、韓国・釜山の海上に誕生するかもしれない。

海洋プラスチックごみの一掃や、海洋保全にまつわる革新的な技術も盛り込まれるのも特徴。サンゴの海をIT技術で保護する「Biorock(バイオロック)」といった海洋技術の活用などによって、海洋生物の乱獲や、環境破壊、地球変動で壊されてしまった海洋エコシステムの再生も行う予定。海面下では、海藻、カキ、ムール貝、ホタテ、貝の養殖が行われる。水をきれいにし、生態系の再生を加速させるという(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

ARシステムも導入。住まいのあらゆるデータが一目瞭然(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

オセアニックスの移動手段一覧。カヤックや徒歩から、ドローンや電気自動車のシェアまで想定されている(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

海上都市として、水辺におけるサステナブルな生活を追求するという(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

独自性は“自給自足”と“総合性”

この海上都市では、ゴミ問題や食糧及びエネルギー調達も、すべて都市内で完結する仕組みになるという。

「オセアニックスは、ただの個々の住宅の組み合わせではありません。“持ち込みに頼らない”閉鎖的なループシステムで成り立つ、真に自立した、初めての総合的な海上都市になります」とマダムンベさん。

食糧やエネルギー調達、ゴミ処理も都市内で全て自給自足や循環によりまかなうため、それらに必要な要素をすべて備える予定だとか。都市のエネルギーは、風力発電や太陽光発電はもちろん、波や潮の流れを利用した電流発生器で確保。飲料水は雨水をろ過して使用、食品はコンポストを利用した都市内の農園などから調達できる計画だ。

オセアニックスにおける食物生産の仕組み。「植物中心の食生活で、スペース、エネルギー、水資源への負担を軽減。有機野菜は、水耕栽培や水産養殖で効率的に栽培し、従来の屋外農場や温室を補完します」とマダムンべさん(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

公共空間「ネイバーフッド」にある温室では、住民は照明付き室内農場で自分の食べ物を育てる(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

食物を育てたり、ボート用のデッキを備えたり、集会スペースなどに対応するエリアもある(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

養殖と水耕栽培の両方を利用して、協調的な生活環境をつくる「アクアポニックス」の森。水槽で魚を育て、その栄養豊富な排水の一部、または全部を水耕栽培の植物生産システムに循環させることで、循環型の生活が可能になる(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

このシステムにより、いま世界中で問題になっているエネルギー不足や食力問題についても10万人規模まで対応できるようになるというのも興味深い。
海上都市内でさらに人口が増えることで必要になる居住地は、新たに海上都市をつくり足すことでスケールアップできるとのことだ。

(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

オセアニックスの全貌。300人の居住区から10万人の都市へと、今後変化し、適応していくことができる都市。36の2ヘクタールの浮体式住居と、数十の生産拠点が、柔軟に拡大・縮小でき、活気あるコミュニティーをつくりだすという(動画提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

強力なリーダーシップが課題

こうした大掛かりなプロジェクトが進行しているが、これまでにも多くの問題や困難に直面してきたに違いない。海上都市計画を成功させために一番大切なことは何だろうか。

「海上都市を実現するための最大の障壁は、技術ではない」とマダムンベさんは断言する。「このような規模の画期的な試みに挑戦する、政治的リーダーシップとビジョンをもった、信頼できる政府のコミットメントを確保することが、最も私たちが苦労したことでした」と話す。

「オセアニックス」は、釜山市のパク・ホンジュン市長というパートナーを見つけた。世界に点在する革新的な技術を投入し、世界で初めてとなる持続可能な海上都市を着工。「今後、世界的に業界をリードしていくことになるだろう」とマダムンベさんは続ける。

ローカル感を大切にまちづくりを進めている。写真は東南アジアのイメージ(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

研究棟エリアのイメージ(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

日陰部分となっているテラスは、快適なインドアスペース(写真提供/OCEANIX/BIG-Bjarke Ingels Group.)

不動産資産としての海上都市を目的とした「モルディブ・フローティング・シティ計画」

一方、1,000超の珊瑚島と 26 の環礁から成るインド洋に浮かぶ熱帯の国、モルディブでは、オランダの建築家が推進する「モルディブ・フローティング・シティ計画」の建設が始まった。

韓国の「オセアニックス」は海上都市計画を気候変動などの問題に対応することを目的にしているのに対し、こちらは「価値が上がる商業不動産」として捉えている点が特徴だ。

モルディブで進行する「モルディブ・フローティング・シティ」の完成イメージ図(写真/Maldives Floating City Press Releaseより)

このプロジェクトは、オランダの海上都市のデベロッパーであるダッチ・ドックランズ社とモルディブ政府が協力し、オランダ人建築家ケーン・オルトゥイさんのウォータースタジオが推進している。都市デザインはモルディブの伝統的な海洋文化にインスピレーションを受けたもので、ホテルやレストランはもちろん、ブティックもオープンする予定。
まちづくりにおいては、サステナビリティや革新的な技術が投入される。

アイデアやインスピレーションを、その道のエキスパートたちが共有する場として世界的に知られる「TEDトーク」に登壇した、モルディブの海上都市計画のリーダー、オランダ人建築家のケーン・オルトゥイさん

現時点では「海上都市」に対する法的所有権に関しては議論が進んでいるところ。ボートハウスをはじめとした水上住宅が普及しているオランダでは、国際法(国連海洋法条約[LOSC])、国内法、財産法の3点から、議論が進んでいる。

モルディブでは、法律の専門家がチームに積極的に加わることで、世界最高水準の「海上都市の所有権」がつくられるという。海上都市における土地や建物に所有権をもたせる一方で、法的にも透明性が高く、これまでにない画期的な不動産になる予定だという。

海に囲まれているモルディブにとって、海上都市は海外からの新しい観光客や移住者を引き付けるための“国際的な住宅投資物件”になっていくのだろう。

気候変動など人類が直面している問題に対応した新たな都市を目指す韓国釜山の「オセアニックス」、ビジネス面での海上都市の可能性を追求するモルディブの「モルディブ・フローティング・シティ計画」。
それぞれ違うアプローチだが、地球上のさまざまな場所で、同時並行的にこうした海上都市計画が発案され、実行されるに至ったのは、われわれ人間の技術がそこに到達したというだけではなく、それだけ気候変動や新たなライフスタイルに対応する住宅環境を整えることが急務だということを指し示していると感じざるをえない。

●取材協力
OCEANIX共同創業者 イッタイ・マダムンベさん

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