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立地や間取り、資産価値などといった条件も大切だが、そもそも住まいは1日の疲れを癒やす大切な場所でもある。心身のコンディションを整えるプロでもある五輪メダリストの有森裕子さんに、疲れを取るという視点で家をどう選べばよいか聞いてみた。
家は心身をリセットする場 脳のオンとオフの切り替えが重要
2大会連続の五輪女子マラソンで銀と銅のメダルを獲得した有森裕子さん。現在はアスリートのマネジメント会社の経営を担いながら、国内外のマラソン大会やスポーツイベントに参加する一方、国際的な社会活動に取り組むなど多忙な日々を送る。ある日のスケジュールを見ても、6時半に起床し、9時から18時ぐらいまで会議や取材が続く。夜は会食が多く、23時ごろに帰宅してから深夜1時に就寝。マラソンシーズンになると毎週末、国内外の大会に足を運ぶという忙しさだ。
そんな有森さんにとって住まいとは、1人になって心身ともにリセットするための場所だという。
「現役時代のようにトレーニングで体を酷使(こくし)するわけではないので、体の疲れは以前ほど感じません。でも今は大勢の人と会ってあらゆるテーマについてお話しするので、恐らく脳のほうが疲れる。住まいはそんな脳を休ませる役割があるのだと思います」と話す。
実際に運動疲れや眼精疲労、心労など疲れにはいろいろあるが、疲労と睡眠の専門医・梶本修身氏の著書『すべての疲労は脳が原因』によれば、肉体的な疲れも精神的な疲れも脳に中枢をもつ自律神経を酷使(こくし)することで起こるとされている。睡眠を十分に取った上で、リラックスしながら過ごして自律神経を休ませることが疲れを取る一番の方法だという。
多忙な有森さんの心身が休まる家の条件は大きく3つある。
条件1.太陽の光が入り、自然や四季を感じられること1つは「窓が大きく光が入り、自然や四季を感じる景色が眺められる」こと。今の住まいはまさしくそれをかなえているという。
「マジックアワー※に運よく帰宅できたときは必ず景色を眺めながら、二度とない一瞬を記録するかのようにバルコニーから撮影します。天気のいい日は遠くに富士山が見えて、春は桜並木を上から見下ろせる。秋は空に浮かぶうろこ雲が美しい。目の前の景色だけを眺める時間は、日々の仕事や都会の喧騒(けんそう)を忘れ、疲れが消え去りますね。生まれ育った岡山も自然豊かでしたから、懐かしいという思いが心地よさを生むのかもしれません」と有森さん。
※マジックアワーは、日没後に数十分ほど体験できる薄明の時間帯のこと。まるで魔法(マジック)のように芸術的写真が撮れてしまうことからそうよばれる
条件2.ストレスフリーな動線であること条件の2つ目は、「ストレスフリーな動線をつくる」こと。自分の生活習慣はだいたい決まっている。そのルーティンともいえる、生活の行動がしやすい動線をつくることが、心地よい住まいになるという。
「快適と思えるホテルなどを真似したりして、自分が動きやすい家具の配置などを考えます。部屋の模様替えをして、飽きない空間づくりも心がけていますね」
条件3.好きなものに囲まれること3つ目は「好きなものに囲まれて暮らす」ことだ。有森さんは器が好きで、世界各国のアンティークのコーヒーカップを収集している。アートのように食器棚に並べ、好きなカップでコーヒーを飲みながら景色を眺めるだけでほっとするという。そうした自分が心の底から心地よいと思うライフスタイルをもつだけでも、疲れを取るといった住まいの付加価値になる。
「早朝から始まるマラソン大会の仕事をしたり、国内外の出張に出かけたりして少し疲れても、家に帰ってのんびりと過ごし、外の風景を眺めるだけで疲れを忘れてしまいます。もっと利便性がよくて、広い家に住みたいなど、欲を言えばきりがないですが、『疲れを取ってくれる』という観点であれば、この3つの条件を備えた今の家は私にとってベスト。おかげで疲れ知らずな日々を過ごせています」と有森さんは笑顔で話す。
●プロフィール取材・文/高島三幸
※この記事はSUUMOマガジン5月10日号からの提供記事です。
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