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近代建築の巨匠ミースに師事した父とその娘、職住近接+αによって生まれた新たな幸福  あの人のお宅拝見[12]

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当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

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近代建築の巨匠ミースに師事した父とその娘、職住近接+αによって生まれた新たな幸福  あの人のお宅拝見[11]

15年ほど前、ある研究会でご一緒したのが渡邊朗子教授との出会い。建築・住空間の研究者である朗子先生、かねて知人から「渡邊邸はミースのファンズワース邸のよう」と聞き、そのご実家『ガラスの家』にも興味をもっていた私。
先日久しぶりにお会いし、ご自宅取材を依頼。「実は『ガラスの家』からは引越して、人に貸してしまっているの!」と言いながらも、快く取材を受けてくださいました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。実家と“スープの冷めない距離”を実現

朗子先生と再会したのは、パナソニックホームズの子育て提案住宅『KODOMOTTO [こどもっと]』の記者発表会。

子どもの知性を育てる環境づくりについて話される渡邊朗子東洋大学教授(写真撮影/藤井繁子)

子どもの知性を育てる環境づくりについて話される渡邊朗子東洋大学教授(写真撮影/藤井繁子)

私が知る朗子先生は、昨今の『スマートホーム』以前から『空間知能化デザイン』を提唱し、ロボティクス・IT(今ではAI)と空間の融合を研究されてきた聡明なキャリア女性。

そのご自宅は東京・恵比寿駅近くの超都心、「子どものころから恵比寿育ちなので、地元民です」(朗子さん)。
今回、プライベートを取材させていただくにあたって
「夫婦二人のわが家はお見せするような物もないので、両親宅にもご案内しますよ」と、記事構成にまで気を使ってくださる対応!

なんと、ご自宅(後ろのマンション)から道路を渡って、お向かいがご両親のマンション(写真撮影/片山貴博)

なんと、ご自宅(後ろのマンション)から道路を渡って、お向かいがご両親のマンション(写真撮影/片山貴博)

「実家とまさしく、スープの冷めない距離ですよね。上の階の窓から、両親が外をのぞいているのが見えたりするんです(笑)」
実は朗子先生が結婚し新居を探していたら、運よく向かいのマンションに空室が出たそうです。

さて、お会いするのも楽しみだった父上、渡邊明次さん(関東学院大学名誉教授)宅である、ご実家へ訪問。
築51年のヴィンテージ・マンション。3LDKを2LDKに7カ月かけてリフォームされたようです。
20坪ほどある大きなルーフバルコニー付きの角部屋で、3方向から採光のある明るいお宅。

赤レンガ色の壁が、空間に活力をもたらしている。80代ご夫婦のお宅としては大胆なデザイン(写真撮影/片山貴博)

赤レンガ色の壁が、空間に活力をもたらしている。80代ご夫婦のお宅としては大胆なデザイン(写真撮影/片山貴博)

北欧デザインのルイスポールセン社ペンダントも赤! マリリン・モンローの口紅とも重なって素敵。
(このモンロー、アンディ・ウォーホルのシルクスクリーン。父上が米国時代の若かりしころ、手にした設計料で購入したとか)

建築家デザインの照明がダイニング、リビングと2つ空間のアクセントに。ダイニングにポール・ヘニングセン(デンマーク)の赤いペンダント(写真撮影/片山貴博)

建築家デザインの照明がダイニング、リビングと2つ空間のアクセントに。ダイニングにポール・ヘニングセン(デンマーク)の赤いペンダント(写真撮影/片山貴博)

リビングにはマリオ・ボッタ(スイス)デザインのスタンド(写真撮影/片山貴博)

リビングにはマリオ・ボッタ(スイス)デザインのスタンド(写真撮影/片山貴博)

ミース・ファン・デル・ローエに学び、実践した『ガラスの家』

少し、父上・渡邊明次さんについて紹介しておくと……
1960年代に米国シカゴ(イリノイ工科大学大学院建築学科卒業)にあるミース・ファン・デル・ローエ事務所で働いた経歴をおもちで、日本では『霞が関ビル』の設計にも参加された建築家。御歳83歳。

「帰国後20代で若かったから、日本での処女作は自邸。ミースに習って鉄とガラスの建築に挑戦したのが『ガラスの家』」(明次さん)(写真撮影/片山貴博)

「帰国後20代で若かったから、日本での処女作は自邸。ミースに習って鉄とガラスの建築に挑戦したのが『ガラスの家』」(明次さん)(写真撮影/片山貴博)

ミースと言えば、ル・コルビュジエ、フランク・ロイド・ライトと共に近代建築の三大巨匠と称される建築家。
建築だけでなく名作バルセロナチェアや、「God is in the detail(神は細部に宿る)」などの名言も知られています。
そのミース代表作の一つが、『ファンズワース邸』(1950年 アメリカ・イリノイ州)。それを彷彿させる渡邊邸『ガラスの家』は、川崎市多摩区に造成されたニュータウン開発の高台に建てられました。

『ガラスの家』が竣工した1965年につくられた、ご夫妻のクリスマスカード(写真提供/渡邊家)

『ガラスの家』が竣工した1965年につくられた、ご夫妻のクリスマスカード(写真提供/渡邊家)

居室は2階のみ、25坪のワンルーム。中心にキッチンやバスルームの水まわりが集約され、回遊できるレイアウトになっています。
「住まいは狭くても回遊性があれば、奥行きや広がりを感じるからね。日本の昔の家も、そうだったでしょ」と明次さん。
今回のマンションリフォームでも、寝室と書斎は廊下と回遊できるレイアウトに設計されています。

ただ、“建築家の家は住み難い”と言う話をよく聞きますが、『ガラスの家』にもあったようで……お住まいだったころの苦労話を、母上の康子さんが聞かせてくれました。
「壁が全面ガラスで『金魚鉢に住んでいるみたいね』と友達に言われましたのよ(笑)」

大きな台風が襲来したときは「ガラスが内側にふくらむのを割れないよう、二人で中から押さえましたのよ!」(康子さん)。結局『ガラスの家』は無傷で、ご近所の木造家屋は屋根が吹っ飛んだらしい(写真撮影/片山貴博)

大きな台風が襲来したときは「ガラスが内側にふくらむのを割れないよう、二人で中から押さえましたのよ!」(康子さん)。結局『ガラスの家』は無傷で、ご近所の木造家屋は屋根が吹っ飛んだらしい(写真撮影/片山貴博)

その後、父上が米国へ転勤することとなり、母娘は日本に残って通学にも便利な恵比寿へ転居したのだそう。
「でもね、都会暮らしをしていますと子どもの朗子が描く絵は、空がグレーだったのね……」と母上。
父上が帰国後には、「朗子が虫を怖がるようになっていて、これは良くないと土のある郊外の生活『ガラスの家』に戻ることにしました」

子どもの成長に合わせ、1階に居室を増築。また、日本の気候にも合わせて大きな庇(ひさし)の屋根を付けるなど大改造を施し、建築家の家も住み心地の良いものとなったそうです。

改築後の『ガラスの家』内観。全面ガラスの壁には障子を入れ、床暖房なども整備して快適に(写真提供/渡邊家)

改築後の『ガラスの家』内観。全面ガラスの壁には障子を入れ、床暖房なども整備して快適に(写真提供/渡邊家)

古い資料を見せていただきながらのお話に、私は驚くばかり。『ガラスの家』の変遷を、朗子先生は近著『生命に学ぶ建築』の中で、建築の“成長”として紹介(写真撮影/片山貴博)

古い資料を見せていただきながらのお話に、私は驚くばかり。『ガラスの家』の変遷を、朗子先生は近著『生命に学ぶ建築』の中で、建築の“成長”として紹介(写真撮影/片山貴博)

ご夫妻は50年近く住まわれた『ガラスの家』から、3年前に恵比寿のマンションへ転居を決意。
「80歳にもなると、車無しでも生活に困らない都会のほうが安心。朗子が住んでいたマンションに売り物件が出たので購入しました」
シニアの郊外戸建から都心マンションへの転居は理想的な住まい方。しかし、お二人は80代にして実行できる体力気力の充実ぶりが超人的!
「マンションには戸建の1/10しか物を持って行けないと知人から聞き、食器・衣類・書籍と毎日ゴミ出しに励みましたのよ」と母上。それでも100箱のダンボールと共に引越してきた。
その直後に、朗子先生が結婚することに……。渡邊家の生活は一変!

渡邊家に挨拶にきたときの朗子夫妻ツーショット。ご両親は「息子ができ、頼りになるしすごく有難い」と微笑む(写真撮影/片山貴博)

渡邊家に挨拶にきたときの朗子夫妻ツーショット。ご両親は「息子ができ、頼りになるしすごく有難い」と微笑む(写真撮影/片山貴博)

そして、こちらが同じく若かりしご両親、米国時代のツーショット。

お二人の出会いはシカゴ時代。何と母上はセクレタリー(秘書)学校に留学され、ロータリーインターナショナルで秘書のお仕事をされていたリアル“MOGA (Modern Girl) ”!(写真提供/渡邊家)

お二人の出会いはシカゴ時代。何と母上はセクレタリー(秘書)学校に留学され、ロータリーインターナショナルで秘書のお仕事をされていたリアル“MOGA (Modern Girl) ”!(写真提供/渡邊家)

半世紀を経て今も知的で好奇心旺盛なご両親のように、朗子さんも素敵な夫婦関係をこれから築かれてゆくのでしょう。

「“遊び”と“仕事”のバランスを取りながら」職住近接+αのライフスタイル

ご両親宅を後にして、同じマンションにある朗子先生の仕事場へ。
独身時代にお住まいだったメゾネットの住戸を残して、オフィスとして活用されています。

「ほとんど書庫みたいになっちゃってますけどね」(朗子さん)。大きなダイニングテーブルがワーキングデスクに(写真撮影/片山貴博)

「ほとんど書庫みたいになっちゃってますけどね」(朗子さん)。大きなダイニングテーブルがワーキングデスクに(写真撮影/片山貴博)

その後、お向かいの朗子先生夫婦の自宅マンションへ移動。
仕事でレクチャーをしている姿は見慣れていますが、キッチンでコーヒーを入れる姿はとても新鮮!

「外食も好きですが、週に4~5日は家で料理して食べたいほうです」(写真撮影/片山貴博)

「外食も好きですが、週に4~5日は家で料理して食べたいほうです」(写真撮影/片山貴博)

「生活のなかで食事を豊かにできるか?って、大切だと思いますね。もちろん、晩酌も!」
料理は仕事と違うアクティビティなので、ストレス発散にもなると言う朗子先生。

お料理を楽しむべく、バルコニーには“Akiko’sアジアン・ガーデン”(写真撮影/渡邊朗子さん)

お料理を楽しむべく、バルコニーには“Akiko’sアジアン・ガーデン”(写真撮影/渡邊朗子さん)

ハーブ類のほか、オリーブの実は塩漬けにしているそう(写真撮影/渡邊朗子さん)

ハーブ類のほか、オリーブの実は塩漬けにしているそう(写真撮影/渡邊朗子さん)

日常生活では、遊びと仕事のバランスを大事にしたいと「わが家のコンセプトは、“お酒&音楽”なの(笑)」(朗子さん)

リビングのスピーカーは、夫の学生時代からのJBLスタジオモニター。ダイニングの奥には結婚祝いの記念に購入した朗子さんお気に入りキャビネット(写真撮影/片山貴博)

リビングのスピーカーは、夫の学生時代からのJBLスタジオモニター。ダイニングの奥には結婚祝いの記念に購入した朗子さんお気に入りキャビネット(写真撮影/片山貴博)

ジャズから歌謡曲、フォーク、ディスコなど幅広いジャンル。「私たちが小学生から高校生くらいに聞いた、70~80年代の曲が特に盛り上がります!」(写真撮影/片山貴博)

ジャズから歌謡曲、フォーク、ディスコなど幅広いジャンル。「私たちが小学生から高校生くらいに聞いた、70~80年代の曲が特に盛り上がります!」(写真撮影/片山貴博)

そして、お気に入りのイタリア製キャビネット(メデア社)には、大好きなお酒が並ぶ!

「お酒が楽しく飲める人でないと結婚してなかったけど(笑)。共通点が多くて良かったです」(写真撮影/片山貴博)

「お酒が楽しく飲める人でないと結婚してなかったけど(笑)。共通点が多くて良かったです」(写真撮影/片山貴博)

「私はアール・ヌーボーとか猫脚とか、装飾系デザインが結構好きなんですよね」(朗子さん)
これは、ミースの建築思想『Less is more.(より少ないことは、より豊かなこと)』に師事した父上の元で育ってきた反動?

ウォールナット材キャビネットに施されたアール・ヌーボーの花模様(写真撮影/片山貴博)

ウォールナット材キャビネットに施されたアール・ヌーボーの花模様(写真撮影/片山貴博)

「今は仕事中心の私たち夫婦にとって都心の住まいがベスト。でも空気の良い自然とのかかわりがあるとリフレッシュできますからね」 
ということもあって、渡邊家は山中湖の別荘で夏の休暇などを過ごすようです。

「2012年に私の設計で木造の別荘を建てました」(朗子さん)(写真提供/渡邊家)

「2012年に私の設計で木造の別荘を建てました」(朗子さん)(写真提供/渡邊家)

緑深い敷地にバンビが訪れる!(写真撮影/渡邊朗子さん)

緑深い敷地にバンビが訪れる!(写真撮影/渡邊朗子さん)

“アラ50(フィフ)”で生活が激変した朗子先生。ご両親も含めたダブル転居などの急展開に、渡邊家の人々はくたびれる風でもなく超ポジティブに笑って過ごされていた。
父上が「スーパーでバッタリ朗子に会ったりする日常が、すごくうれしいよ」と、母上は「お米が無かったの~、ってウチに駆け込んで来たりね」と、近居の小さな喜びを日々感じているご様子。

「今は両親も元気ですけど、これから介護のことも考えると近くに住むっていうのはお互いにとって安心ですよね」(写真撮影/片山貴博)

「今は両親も元気ですけど、これから介護のことも考えると近くに住むっていうのはお互いにとって安心ですよね」(写真撮影/片山貴博)

職住近接に加えた、職住“親”近接によって、キャリアだけでなく心の豊かさに磨きがかかった朗子先生の笑顔を見ることができました。

【プロフィール】
渡邊朗子
東洋大学 情報連携学部教授・一級建築士
東京都生まれ。日本女子大学家政学部住居学科卒業後、93年コロンビア大学大学院建築都市計画学科修了、99年日本女子大学大学院人間生活学研究博士課程修了。コロンビア大学客員講師、慶応義塾大学特別研究准教授などを経て、2018年より現職。また、2015年より夫の経営する株式会社市川レジデンス取締役。
建築家として住居やオフィス、学習空間を対象に建築から家具・情報システムまでの実施設計に携わる。
主な著書に「頭のよい子が育つ家」(共著・日経BP社)、「長く暮らすためのマンションの選び方・育て方」(共著・彰国社)など。近著「生命に学ぶ建築」(共著・建築資料研究社)
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SUUMO

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