子どもの発達過程に問題が生じる発達障害。今回は、発達障害と遺伝の関係をご紹介します。
この記事の監修ドクター
福田敬子 先生 早稲田大学卒業、同大学院修士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校留学、金融機関勤務ののち、山口大学医学部卒業。東京都立松沢病院、日本医科大学付属病院精神神経科などを経て、現職。日本精神神経学会、日本スポーツ精神医学会、東京精神医学会所属、都内メンタルクリニックで勤務中。
発達障害と遺伝
発達障害と遺伝の関連は「深い」
発達障害とは「脳の機能障害」と言われています。一般的な知的障害、精神の病気とは異なり、また「しつけや教育がおろそかだったから発達障害になる」というものでもありません。
発達障害は「ADHD(注意欠如多動性障害)」「LD(学習障害)」「ASD(自閉症スペクトラム障害)ほか広汎性発達障害」の3グループに分類されており、「これらの障害が通常低年齢で出現すること」と定義されます。
さて、発達障害と遺伝には「深い関連がある」とも言われています。例えば、一卵性双生児のうち1人が広汎性発達障害であると、もう1人も広汎性発達障害である確率はおよそ9割にものぼるのです。一卵性双生児は、互いに大変近しい遺伝情報を持っていますので、これが発達障害と遺伝の関係を物語っていると言う専門家もいます。
発達障害と遺伝との関係の結論はまだ出ていない
しかし、実際のところ発達障害の原因はまだまだ研究途中で、結論はまだ出ていないのです。厚生労働省のサイト(*)においても「発達障害は先天的に脳の発達が普通とは違うために起こる」という内容が書かれていますが、その原因については明言を避けています。「先天的に脳の発達が普通とは違う」とは言っても、それが遺伝によるものなのか、あるいは胎内・分娩時の異常かについては、はっきりしていないからです。
(*「知ることから始めよう みんなのメンタルヘルス 発達障害」厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html)
発達障害の「環境要因」とは
遺伝以外に発達障害の要因とされるもの
発達障害の原因について、遺伝ではない、あるいは遺伝以外の原因(環境要因)もあるのではないか、と指摘する専門家もいます。以下に、発達障害の環境要因と考えられているものを紹介します。
■環境汚染 鉛、水銀、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニルなどの有害物質による汚染が、発達障害と関係するという説です。
■染色体異常 染色体異常と発達障害が関係するという説です。遺伝子異常と似ていますが、少々異なります。遺伝子異常が「設計図そのもののミス」であるのに対して、染色体異常は「設計図の破損や数違い」と言ったイメージです。
発達障害は後天的にも起きる?
環境要因の中でもさらに「発達障害が後天的に起きる可能性があるのではないか」という説もあります。以下に、発達障害の後天的な要因と考えられているものをご紹介します。
■新生児/幼少期の病気や異常 新生児の低血糖、あるいは幼少の頃の病気が発達障害のきっかけとなるという説です。
■人間関係 虐待やイジメ、トラウマなど、周囲の環境が脳機能に影響し、発達障害につながるという説です。
発達障害の治療は慎重に
発達障害の原因は、完全に解明されているわけではありません。そのため、民間療法も含めた場合、治療やケアの方法が少々錯綜するケースもあるようです。例えば先ほど、発達障害の原因が「環境汚染物質である」との環境要因説をご紹介しました。このような仮説に基づいて、デトックス(排毒)などの治療が行われるケースもあるようですが、やはりどの程度効果が期待できるのか不透明です。
発達障害の治療には、それぞれの症状の特徴に合わせて、療育・薬物療法ほか、家庭・社会・専門家によるトータルサポートが不可欠となっています。病気のように劇的に治癒するという性質のものではないため、より慎重に、長い目でケアを考える必要があるのです。
まとめ
発達障害を知ってもらう動きや啓蒙(けいもう)は進んでいますが、発達障害の誤解や正確でない情報が出回っていることも少なくありません。例えば、発達障害に遺伝が関係する可能性は高いですが、その原因はまだ未解明です。したがって、子どもに発達障害の疑いがあった場合、ご家庭だけで悩まず、信頼できる専門家に相談し、適切なケアを一緒に考えていくことが不可欠といえます。