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藤井聡太四段という若き天才の出現で
かつてないほどのブームを迎えた将棋界
新星・藤井聡太四段の出現で、かつてないほどのブームに沸いている将棋界。各地の将棋教室では入会希望者が殺到。将棋盤や入門書、関連グッズはもとより、初心者にはかなり難解な専門誌までもが売り上げを大幅に伸ばしている。インターネットでの対局中継も視聴数が激増しており、7月2日(日)に藤井四段の対局を中継した『AbemaTV(アベマティーヴィー)』では、1,240万視聴にも達したという。
藤井四段は昨年10月、史上5人目の中学生プロ棋士となり注目を集めた。14歳2カ月でのプロ入りは、加藤一二三・九段が打ち立てた記録を62年ぶりに更新するものでもあった。ただ、メディアを中心に「フィーバー」とも形容すべき過熱状態が巻き起こったのは、やはり藤井四段がデビュー後、破竹の勢いで勝ち続けたからにほかならない。
藤井四段の連勝記録は途切れてしまったが
将棋とは「負けて強くなる」もの
昨年12月、デビュー戦で加藤一二三・九段に勝利すると、今年の4月には公式戦11連勝を達成。これは新人棋士のデビュー後連勝記録を更新するものだった。そして6月、メディアが異常な盛り上がりを見せるなか、それまでの記録を30年ぶりに塗り替える「公式戦29連勝」を成し遂げたのである。
新記録達成の3日後、佐々木勇気五段(当時)に敗れ、残念ながら連勝はストップした。だが、連勝が途切れたとはいえ、案ずることはない。将棋とは敗戦を糧にして上達していくものなのである。「断言します。私は負けて強くなったのです」と打ち明けるのは、将棋界のレジェンドであり、藤井四段のデビュー戦の相手を務めた加藤一二三・九段だ。
約63年に及ぶ現役生活に別れを告げた
「元祖天才棋士」加藤一二三・九段
去る6月30日、記者会見を開き、約63年に及ぶ現役生活に別れを告げた加藤九段。14歳7カ月という当時としては史上最年少の四段昇段(プロ入り)、これも史上最年少となる18歳でのA級八段、20歳での名人位挑戦。タイトル獲得8期、通算勝利数1,324勝(歴代3位)など多くの記録を残した。近年は、そのユニークなキャラクターが愛され、テレビのバラエティ番組などでも人気となっている加藤九段だが、将棋に関しては、これまでに数々の偉業を達成した紛れもない「天才」である。
そんな天才棋士には、もうひとつ誇るべき記録があった。それは「通算1,180敗」(歴代1位)という不滅の金字塔だ。
強敵たちに何度となく敗北を喫しながらも
けっして諦めることなくタイトルを獲得
「神武以来の天才」と称された加藤九段だが、悲願だったタイトル獲得への道のりは険しかった。20歳で名人に挑戦してから8年後、プロ入り15年目にして、ようやく栄冠に輝く(十段位)。名人位獲得に至っては、初挑戦から22年もの歳月を要している。その間、大一番で手痛い敗戦を重ね続けた。当時、絶頂を極めた大山康晴(十五世名人)、中原誠(十六世名人)などの強敵が立ちはだかっていたのだ。だが、加藤九段はけっして諦めることはなかった。
加藤九段は宝島社新書『負けて強くなる』のなかで、次のように語っている。
「私は強敵たちに何度となく打ち負かされました。(中略)
しかし私は、けっして挫(くじ)けることはありませんでした。
『負けました』と頭を下げても、そこから出直して、再び闘志を燃え上がらせ、真摯に将棋を指し続けたのです」
歴代最多敗を記録した棋士だからこそ
「敗戦」の大切さを語ることができる
加藤九段は「敗戦を経験し受け入れることで確実に強くなれる」と説き、「大切なのは、いかなる逆境の中、挫折感や敗北感に打ちひしがれるようなことに出くわしたとしても、けっして『希望』を捨てない不撓不屈の精神」なのだと強調している。
「残念なことに、世の中には一時的な『負け』を引きずり、成功の一歩手前であきらめてしまう人がとても多いように感じます。
しかし、それこそが『真の敗北』なのではないでしょうか」
史上最多の1,180敗を喫しながらも、前へ前へと進み続けた天才の言葉には、将棋だけでなく、われわれの人生にも通じる重みが感じられる。
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