/
日本の住宅では白系のビニールクロス壁が長らく主流で、欧米のようなインテリアペイントはまだ一般的ではありません。カラー・コミュニケーションデザイナーとして活躍する秋山千恵美さんは「Colorが暮らしを豊かにする」ことを唱え続ける伝道師。昨年ご自宅をリノベーションしたと聞き、住まいの色選びなど色々!?とお話を伺ってきました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井繁子が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。断捨離で家と共に自分らしさを“整え”、ベースのカラーをつくる
私が秋山千恵美さんと出会ったのは15年近く前。「インテリアペイントや綺麗な壁紙を楽しむ文化を日本に普及させたい」と、株式会社カラーワークスを立ち上げた千恵美さんは夢を熱く語っていました。新宿のビルの一角、小さなブースのショールームで。
今では自社ビルを持ち、30名以上の従業員を抱え、インテリアカラー業界の“ゴッド・マザー”的存在になる成長ぶり。千恵美さんのバイタリティーと努力の賜物と尊敬しつつ、同い年の女性として共感できることが多いので、今回のお宅訪問は楽しみ。
ご自宅は東京湾岸エリアの高層マンション。「今まで住んでいた住戸より眺めが良い住戸が、売りに出たので買い替えたの」と千恵美さん。同じマンションの32階へ住み替えた、築12年のリノベーションです。
リビングルームへ案内していただくと、その眺望に目を奪われました。住宅では珍しい、天井から床までのフィックス窓が一面に! 撮影当日は薄曇りの天気でしたが、東京湾が眼下に広がっています。
「今回の住み替えで、まずやったことが断捨離。それで自分の嗜好も整理できたの。好きなものに北欧モノが多いことに気付いたりとか」
実は千恵美さんの本宅は、神奈川県の海辺にある一戸建なのですが
「私は仕事にも便利なこちらのマンションが生活の拠点。時々、本宅に帰る形(笑)」
今、憧れのデュアル・ライフ。というか、河口湖に別荘もお持ちなのでトリプル・ライフ!?
「今回は自分のためだけを考えて選んだら、落ち着けるグレー系のモノトーンがベースになったの」と。
モノトーン・ベースながらプロの技が見られます。
リビングの天井梁が横に渡った構造、その天井梁に敢えて壁紙を貼っているのです。幾何学模様の壁紙を、天井梁に沿って横に渡し、連続して壁の天井から床へと縦に貼るデザイン。腰壁のように壁紙を横に貼るデザインは多いですが、縦に部屋のアクセントとして効かせる壁紙は、技あり!ですね。
「壁紙とペイントが同じブランドでできる『Farrow&Ball』の良さを、やっぱり自分で使って実感しました。色の合わせやすさ、濃淡の調整など壁紙色も一緒に選べます。私は同系色で濃淡を付けるのが好きなの」
今回、壁色にはグレーを主に、ホワイト系、ピンク系など5~6色が使われているとのこと。「ベースが真っ白だと空間のニュアンスが出しづらいものです」とも。
グレーの壁には、自作のカラフルな英文ポスターが映えます。「私が出版した本の1ページをレインボーカラーでポスターにしたの」。カラーにまつわる言葉が並んでいました。デジタル印刷が簡単にできる今、こういうのもアイデアですね。
リビングとオープンにつながるキッチンも、グレーを基調に整えられています。
「もともとあった1部屋を潰して、オープンキッチンにしたの」。カウンター付きのキッチンはオーダーメード。
ミーレ社(独)のビルトインオーブンやワインセラー、冷蔵庫など機器のブラックを、ペンダント照明で調和させる所も上手いカラーデザイン。高さをそろえることも、“整える“デザインのポイントと教えてくれました。
部屋ごとの個性をインテリアペイントで表現千恵美さんがカラーの仕事を選んだ経緯を伺った。
「私は幼いころから池坊で華道を習っていて、お花が好きだったのね。フラワーアレンジの修業をしようとアメリカに行ったとき、ペイントの見本市に行き、出会ったのがペンキを使ったインテリア空間づくり。感動して、日本に広めたいと思ったの」
思ったら、即行動するのが千恵美さん。米国研修を経て、カラーワークス社を設立、米国ペイントの輸入販売とペイントの楽しさを伝える活動を始めました。
私が今回驚いたのは、モノトーンのカラーだけでなく、カーペットを敷いた床。廊下から居室全体に敷かれたグレーのカーペットは、ホテルのよう。
「実は、元の床が濃い茶色のフローリングだったのですが、それを張り替えるには手間もコストも大変なので、上からカーペットを張ることにしました」
「廊下の壁には、ピンクのペイントを使っています。自然光が入るリビングとは違う照明の光なのと、お風呂から出て来たときに見える壁なのでリラックスできる明るめの色を選びました」
カラーコーディネートで大切なことは、色同士の関係性に加えて“光の色”を考慮することだそう。
この廊下の突き当たりの扉、元はクローゼットとして設計されていた場所。千恵美さんは、そこを書斎にリノベーション。
以前から使っていたスチールキャビネットに天板をセットして、クローゼットが書斎に大変身。
「郵便物や書類をひとまずここに置くことで、リビングが散らからなくて助かるのよ」
窓も無いおこもり空間なので、仕事も集中できてはかどりそう。
リビング以外の空間は、目的に合わせて色使いを楽しんでいるようです。
寝室は海を感じるブルー系のインテリア。
ベッドの向かい側の壁には、友人のアーティスト・Lyさんに描いてもらったお気に入りキャラクター・LUVくんのイラストが一面に! 大人っぽい子ども部屋のような楽しいデザイン。
そしてこちらの部屋は、千恵美さんのワードローブ部屋。ここは正しく元気が出そうな千恵美カラーが、天井までペイントされています。
千恵美さんらしい色だと思ったら、何と! このペンキ色は『CHIEMI PINK』という名前だそう!
こんな風に、カラーを楽しむ暮らしを日本の住まいに広めたいのですね。
実は私の家を建てたときには、千恵美さん自らがペイントしてくれました。15年経った今も『Farrow&Ball』の壁紙とペイントを使った寝室だけは変わらず綺麗なままです。
「ペンキは失敗しても塗り変えられるから良いのよ!」と、千恵美さんに笑顔で言われると
“人生だっていくらでもやり直せるよ!”って、励まされている気分になります。
昨年、千恵美さんは一般社団法人 日本カラーマイスター協会を設立。「色の基本知識」や「色の力」を理解して生活に活かせるライフカラースタイリストや、色の大切さを伝えるカラーマイスターを育成中。
「ワインや料理のように、カラーも楽しむものになってほしいの。自分をより美しく自分らしく表現できるものだから」
アーティストとのコラボレーションや、ペイントする楽しみを体験してもらう子ども向けのワークショップも熱心に行っている。
「自分の色、自分らしさが分かると、人と比較する必要が無くなるでしょ。日本人は、もっと自由なカラーで自己表現して欲しい」
カラーマイスター協会を通じて、第二、第三の千恵美さんを育てているようです。
カラフルな人生を送る人たちがあふれる世の中にしようと千恵美さんは今日もエネルギッシュに活動しながら、このおうちに帰ってリラックスしていることでしょう。
秋山千恵美この記事のライター
ライフスタイルの人気ランキング
新着
カテゴリ
公式アカウント