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今回お宅訪問したのは、元リクルートワークス研究所の名物研究員で筆者の大先輩の角方正幸さん。今年古希(70歳)を迎えた角方さんから『謝縁会』と名付けられた会への招待状が届き、「これはもしやいわゆる生前葬?」と不安なまま会に赴くと……。その件も交えて今に至る人生話を、プライベートな暮らしぶりを拝見しながら伺いました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にたずさわってきたジャーナリストのVivien藤井繁子が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。「意志のある寄付で社会を変える」を自ら実践
角方さんは熱狂的な横浜DeNAベイスターズファン。もちろんお住まいは横浜市、駅前ながら遊歩道の緑を望む好立地にある一戸建て。
お部屋に招き入れていただくと「見て見て、コレ!」と、角方さんがうれしそうに手招きし、見せてくださったのがこちら。
ジャズの音楽が流れると、演奏しているかのように動きだした人形たち。ピアノ・ギター・ドラム・サックスなどのバンドマンと、よく見ると……歌手が美空ひばりだ!
「家に帰ってチョッと一杯やるときにこれをかけると、雰囲気のいいBarにでも居る気分だよ。こういう手づくり感のある物が好きなんだ」と、ご満悦。
DIYはじめ何事も手づくりが得意な角方さんらしい、お気に入りの一品です。
さて6月に開催された『謝縁会』のお話に。これも手づくり感たっぷりの素敵な会でした。
『謝縁会』は、寄付文化の創造を目指すパブリックリソース財団の理事でもある角方さんが考えた“新しい形の生前葬”。
「元気なうちに、ご縁のあった方々へ感謝を伝えたかったのと、『恩送り基金』を設立したので、その紹介もしようと思ってね」
“元気なうちに”というのも、角方さんは60代でガンなど3度も大病を経験したことから、古希70歳のタイミングで実施を決意されたそう。
会場の前方演壇に、角方夫妻がそろって着席。参加者は家族から仕事関係者、ご近所さんなど約150人が20テーブルに分かれて座り、これから何が起こるのかと興味津々。
会場には絵のほかにも、お仕事の軌跡や家族・友人たちとの思い出の写真など、角方さん作の数々が展示されていました。
昨今、お葬式でも故人を偲ぶものが飾られたりしていますが、ここは生前葬的『謝縁会』。華やかな飾り付けを前に、参加者とご本人が一緒に当時を懐かしみ、笑い声が響いていました。
縁ある方々からのスピーチ、色とりどりのお料理も縁あるものをチョイスされていて、心のこもったおもてなしをたくさんいただきました。
角方夫妻の歩みを紹介するビデオを一同感慨深く見入り、角方さんが恩送り基金として『角方基金』を創設した思いを知ることができました。
「若い人たちの教育支援が私のライフワーク。これまで皆さんからいただいた恩を、次世代に送る仕組みとして基金をつくることにしたんだ」
ご自身が1000万円を寄付して基金を設立。基金が支援する目的や活動団体に共感すれば、誰でも、いくらからでも、“意志のある寄付”をこの基金へできるのです。
「『謝縁会』参加者からも寄付をいただきましたが、全く知らない方からも支援目的を知って寄付があり驚いています」。そんな寄付文化を日本にも根付かせようと自ら実践されています。
基金からの支援先には、教育の格差是正や障害者教育などの活動をしているNP0をいくつか選定しているそうです。
『謝縁会』に招かれた方々には、仕事関係者である私が知らない角方さんの縁者がたくさんいらっしゃいました。
常々、角方さんがモットーに掲げている ~企業人、地域人、家庭人としての「三位一体」の人生~ を垣間見た気がします。
今のお住まいへは、2001年に同じニュータウン内のマンションから転居されたそう。
3人の子育て中だったマンション時代も管理組合理事長に始まり、『みどりの会』なるものを設立して竹炭づくりを夜通し楽しむなど、住民のコミュニティーづくりを“地域人”として率先されてきたようです。
「この家を買ったのも、面白い縁があってねー!」と、今に至る話を聞かせてくれました。
庭の向こうに見える隣家を指して
「実は分譲時に、私たちが申し込んだのは隣の家なの。ただ、妻が子ども3人に個室が欲しいと5LDKを希望していたのに、残っていたのは4LDK。この家に申し込んだのは偶然、知人だったんだけど、反対に知人家族は大きな和室を希望。4LDKの方が広い和室だったので、お互いの要望が一致。余分な費用がかかったけれど交換できる手続きを取り、めでたく入居したという経緯(笑)」
お話を伺っていると、愛猫ココちゃんがニャオニャオ「外へ行きた~い」とアピール。
ドアを開けるとココちゃん、まずはお隣へご挨拶に?
「当初は子どもも3人いたし、お互い物のやりとりやら行き来が多かったので、玄関回るより早いでしょ。これも全部、私がDIYでつくったんだけどね」
えっ?ウッドデッキも、パーゴラもテーブルセットも全部、角方さんの手づくりとは驚きです!
「これも見て」と扉を開けた中からは、ダーツのボードが現れました。
私は“企業人”角方さんを調査研究のプロとして尊敬してきましたが、今回DIYガーデンを拝見して“家庭人”角方さんの一面に驚くばかり。
その工程は、土台づくりから始まっていました。設計図もご自分で書いた様子(社会工学科卒なのに)。
「子どものころから絵より図工が上手かったんだ、親父の影響かな……」。
その創作力が角方さんの息子さんにも受け継がれていく、家庭人としての“恩送り“。
手にはパソコンを刷毛に変え、デッキを塗装中の角方所長(笑)。
このウッドデッキで、ご近所さんや家族親戚を招いてBBQやピザパーティーを楽しまれるそう。
予想外なDIYの実力に圧倒されてしまいましたが、角方さんの全ての原動力は周りの皆が喜ぶ顔なのだと感じました。素晴らしい“家庭人” “地域人”の姿を初めて拝見しましたが、そこは“企業人”角方さんのスタンスと変わらぬ姿。~企業人、地域人、家庭人としての『三位一体』の人生~、そのものです。
角方基金で次世代の社会に“恩送り”、家族・孫には“愛情送り“70歳今なお現役で、リアセック キャリア総合研究所所長の角方さん。ご自宅でもお仕事をされるようで、寝室には大きなデスクの書斎コーナーが。
「3時ころには、妻が孫を連れて帰ってくるはず」と、おっしゃっていた矢先にお孫さんが学校から帰宅。
実は角方さん宅の窓からは、小学校の通学路になっている遊歩道を眺めることができます。
「子どもたちが下から眺めると面白いだろうと思って、風見鶏を飾ってるんだ。毎年、新しいものを買ってきてね」
一年くらいで壊れるため毎年行く軽井沢で購入されるらしく、これまた手づくりクラフト感のある風見鶏。
古希の『謝縁会』を終え、次にやりたいことは何ですか?と尋ねると
「ゴルフでエイジシュート(※)を達成したいんだよね」と、これまた違う角度から答えが返ってきて驚き(笑)。
※ゴルフの1ラウンド(18ホール)を、自身の年齢以下の打数でホールアウトすること
「元気なうちにやらないと意味が無いんだよ!」と、病気や認知症など判断力を失う前に人生のしまい方を考えるべきと教えてくれました。『謝縁会』や『角方基金』、高齢社会の新しい選択肢を見せてくれる団塊の世代は、いつもわれわれのロールモデルです。
角方正幸この記事のライター
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