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快適な空間や、心地よい時間は、いかに生み出されるのか
人気リゾートホテルの設計を手掛ける建築家・佐々木達郎氏へのインタビューから
暮らしの質を上げる家づくりのヒントをいただこう。
過ごしたいシーンをデザインし心安らぐ空間をつくる
星野リゾートをはじめ、各地のリゾートホテルを多数手掛ける建築家の佐々木達郎さん。快適な空間を生み出すためにいつも意識しているのは、「旅をデザインしたいということです」という。訪れた人の記憶に残る、旅の気持ちが高まる体験をいかに提供するかだ。
「例えば、インドネシアのバリ島を訪れたらシティホテルよりも、オープンエアなヴィラに滞在するほうが記憶に残る旅になるでしょう。その場にしかない自然や環境を魅力にすること、その地の文化を尊重しこの場所ならどんな時間を過ごしたいかということに思いを巡らせます」
実際、佐々木さんが設計した『星野リゾートBEB5軽井沢』は、高原の爽やかな風を感じる広いテラスや、周囲の木立ちと呼応する木の柱など、まさに軽井沢の魅力を体感するデザインが、細部まで行き渡る。
「住宅の場合も、立地の個性やその家族らしさ、こだわりを取り込み、過ごしたい時間やシーンをキーに空間づくりをします。一つの正解があるわけではなく、個別解を探し出すことで、その家にしかない心地よさや快適さがつくれるからです」
例えば、開放的な明るい空間をつくる方法も一つではない。「周囲を住宅に囲まれていても、トップライトから光を取り込み、壁や天井を白くするだけでも光の拡散効果で明るい室内になる。スケルトンの階段で階下へ光を落とすことも可能です。あるいはリビングの天井を上げるだけでなく、廊下の高さをあえて抑えることで、体感として開放感が生まれる。明と暗、開放感とこもり感など、空間に緩急をつけることで、それぞれの良さを際立たせることができるのです」
リフォームは、今の暮らしに合わせて住まいをチューニングできる点が魅力だが、大前提になるのは安心感だ。「耐震への不安や断熱性の不具合の解消は、住む人の心地よさには必要不可欠」と強調する。その上で、「空間はモノと人、人と人との関係性から生まれます。例えばソファでゴロっと横になったときに見える景色、差し込む光など、そこに広がるシーンから住まいを考える。これからの心地よさに視点を置いてリフォームすることで、さらに暮らしの質を上げることができるはずです」
訪れた人々をもてなす空間に込められていたのは、空間そのものだけでなく、訪れる人の旅やストーリーにまで思いをはせたデザインであった。リフォームにおいては、住まい手とつくり手がともに豊かな時間やシーンを思い浮かべながら、心地よさそのものを追求していくことこそ、暮らしの質を上げる空間をつくる第一歩なのかもしれない。
構成・取材・文/中城邦子 撮影/ナカサアンドパートナーズ
建築家 佐々木達郎さんこの記事のライター
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