虫垂炎になってしまった場合、手術や治療はどのように行われるのでしょうか?手術の種類と、各種類の方法やリスク、入院期間などを見ていきましょう。
この記事の監修ドクター
吉本恵理先生 女医+(じょいぷらす)所属。 外科専門医。都内の大学病院に勤務。
虫垂炎手術・治療の種類と方法
虫垂とは、大腸の入り口に存在している小さな尻尾状の臓器で、この部分が炎症を起こした状態が「虫垂炎」と呼ばれています。虫垂は右下腹部に位置しているため、虫垂炎を起こすと、この部分に痛みが起こります。
手術方法(1):腹腔鏡手術
腹腔鏡手術とは、お腹に小さな穴を空けて内視鏡を挿入し、医師が画像を確認しながら行う手術です。この手術のメリットは、手術の際にお腹に空ける穴が非常に小さく、傷が残りにくい、術後の痛みが軽減される、術後に癒着が起こる確率が低いという点にあります。
手術方法(2):開腹手術
文字通り、腹部を切開して行う手術で、「交叉切開法」と「傍腹直筋(ぼうふくちょっきん)切開法」に分類されています。「交叉切開法」は腹部を斜めに数センチ切開して行われる方法で、傷跡が目立ちにくいというメリットを持っています。「傍腹直筋切開法」は、右側腹部を縦に切開して行われるもので、膿の広がりが見られた場合には、切開部分の長さを調節するなど、融通が利くというメリットを持っています。
重症例で行われる施術
上記の方法はどちらも一般的な方法ですが、膿瘍形成性の虫垂炎の場合は、急性期の虫垂切除を避けて、保存的治療と必要があればドレナージのみを行い、炎症が落ちついたところで再手術をする場合もあります。
ドレナージとは、誘導管を腹部に挿入して、内部に溜まっている膿を抜く処置のこと。また、虫垂とともに盲腸まで炎症が波及し、これらがひとつの塊となってしまった場合では、切除する腸管の範囲をひろげ、回盲部切除術の適用となることもあります。
軽症の場合は薬物療法が用いられることも
医師が手術の必要がないと判断した軽度の虫垂炎の場合では手術が適用されず、抗生物質による点滴で炎症を抑えるという処置が取られることがあります。俗に言う「薬で散らす」という方法ですね。この方法は、虫垂炎の初期に起こる「カタル性虫垂炎」に対して適用されることが一般的です。ただし、この治療法はのちに再発する可能性があります。
手術に伴い知っておきたいこと(リスク、麻酔、入院期間)
続いて、虫垂炎の手術に伴うリスクや使用される麻酔、入院期間などについてのお話です。
手術中に起こり得るリスク
まず、手術中には出血が伴います。そして、レアケースではありますが、術後腹腔内あるいは手術創部の出血が起こることがあり、この場合では止血のための処置が必要になることもあります。また、虫垂炎の手術は、その重症度によって方法が異なり、その種類によって局所麻酔または全身麻酔が施されます。そして、麻酔による合併症も稀ですが起こる可能性があります。
手術後に伴う合併症
術後出血、創感染、遺残膿瘍、腸閉塞という合併症が起こることがあります。急性虫垂炎の手術では基本的に輸血を必要とするレベルの出血はまず起こらないといわれています。遺残膿瘍は、重症度が高い虫垂炎の場合に起こることが多く、手術後に腹腔内に膿が溜まり、高熱が出ることがあります。膿瘍が形成された場合、術後に膿を排出させるための処置が必要になる場合があります。
手術や炎症によって腸の機能が低下し、腸管の動きが悪くなると腸閉塞を引き起こします。腸閉塞が起こると、吐き気嘔吐や腹痛などの症状が現れやすくなります。また、注意したい合併症として、稀ですが、切除した虫垂断端部分が何らかの原因で便が漏れ出し皮膚と交通するようになり糞瘻という道を形成することがあります。
これらの合併症は虫垂炎の手術を行ったからといって、必ずしもつきまとうものではありません。ですが、虫垂炎の手術を受けた患者さんの年齢や病歴、体調などによって起こる可能性は十分にあります。虫垂炎の手術を受ける際には、必ず事前に合併症についての説明もきちんと受けておくことが大切です。
まれに発症し得る全身的な合併症
まず、体質によっては全身麻酔によるアレルギー症状が起こることがあります。そして、術後の偶発症、合併症として、心疾患(心不全、不整脈、心筋梗塞、狭心症など)、肺疾患(肺炎や肺梗塞など)、腎機能障害、肝機能障害、脳障害など、が起こる可能性があります。これらの合併症が起こる確率は極めて低いと考えられてはいますが、確率がゼロでない限り、起こる可能性はあると考えておく必要はあるでしょう。
麻酔の方法
麻酔の方法としては、①脊椎麻酔、②全身麻酔があり、虫垂炎の手術においては患者背景が考慮され、施設により麻酔方法はそれぞれです。
入院期間
状態にもよりますが、一般的に合併症はなく手術が行われた場合も、抗生剤投与による保存的治療が行われた場合も、1週間程度の入院になることが多いです。また、腹膜炎などを引き起こした場合は入院が長期化することがあります。症状改善、また血液検査にて、炎症反応が改善傾向であることが確認できたら退院となります。
早期発見が重要!子供に見られる症状の現れ方
虫垂炎は、どの年齢でも起こる可能性があるといわれている病気です。ですが、特に小さなお子さんの場合では、虫垂炎に伴う痛みを言葉でうまく表現することができず、発見が遅れてしまうことも少なくはありません。
虫垂炎は子供の発症が多い病気
子供の腸は未完成であるため、大人の腸よりも腸壁が薄く、虫垂炎を引き起こしやすいといわれています。そして、腸壁が薄い分だけ重症化しやすく、それを避けるためには早期発見・早期治療がなによりも大切です。
初期段階の症状
最も多いのが、右下腹部に強い痛みを訴えるというものです。ただし、小さなお子さんの場合ではどこが痛いとはっきり親御さんに伝えることができないことも考えられます。また、小児の急性虫垂炎は、成人に比べ診断が困難と言われています。お子さんにいつもと違った症状(例えば、腹痛、発熱、嘔吐、下痢などの症状)があった場合は、注意が必要です。
急性虫垂炎の症状
典型的な例としては。まずは心窩部痛から始まり、その後、次第に右下腹部に痛みが集中するようになることが多いです。この段階になると、虫垂の炎症が憎悪してきている可能性があります。進行すると腹膜が刺激され、食欲が低下したり、嘔吐症状も出やすくなります。
また38度前後の微熱が続く傾向があります。38.5度以上の高熱が出た場合は、虫垂穿孔による腹膜炎や膿瘍形成の可能性も考えられます。症状に個人差がかなりありますが、お子さんに異変が現れた場合、ひとまず病院へ連れて行き、虫垂炎の早期発見・早期治療を心がけましょう。
重症化した場合の問題点・危険性
虫垂炎は、重症度が高くなると腹膜炎を引き起こし、最悪の場合では死に至ることもあります。手術を受けたとしても、その後の入院期間が長引く可能性が高くなります。そうならないためにも、お子さんが腹部の痛みを訴えた場合、直ちに病院で検査と診察を受け、適切な治療を受けさせましょう。
まとめ
虫垂炎は、誰でも発症する可能性のある病気です。ところが、小児の急性虫垂炎の場合、小児の特性により重症化する可能性が高いといわれています。お子さんに虫垂炎を疑う症状が現れた場合、病院で診察を受けさせ、状況によっては手術が検討されます。
虫垂炎は、早期発見・早期治療を行えば大事に至らないことが多いと考えられますが、小さなお子さんの場合では、あっという間に容体が悪化してしまうことも考えられます。最悪の場合では死に至ってしまうこともあります。お子さんの様子がおかしいと感じたのであれば、ひとまずお腹の状態を調べてみるとともに、容体が悪化してしまわないうちに病院へ連れて行き、早めの処置を受けさせてあげましょう。