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映画には様々なモチーフがありますが、最も身近な題材は、家族や夫婦を描いた作品ではないでしょうか。今回は、これから公開される新作から、意外なモチーフで夫婦や家族に対する愛に満ちたメッセージが込められた秀作を、映画解説者・中井圭さんが厳選して2本、ご紹介します。
もうこのルックだけで「絶対に夫婦関係ないでしょ」と思うかもしれません。中国武術のひとつ、詠春拳の伝説的使い手であった実在の武術家イップ・マンの物語が、なぜ今を生きる夫婦に向けたメッセージが込められた映画なのか全くわからないと考える人も多いと思います。しかし、本作は紛れもなく、ずっと夫婦でいたくなる、伴侶を大切に思う、そんな映画なのです。
本作は、ウィルソン・イップ監督の『イップ・マン』シリーズ3作目ですが、本作は、詠春拳の達人イップ・マンが紆余曲折の日々を経て、ようやく家族とともに香港で幸せに暮らしている、という設定だけ理解しておけば事前準備は十分です。
本作でイップ・マンは、詠春拳という武術を普及させ後世に継承していくために、道場で弟子を鍛え、強きをくじき弱きを助ける日々を過ごしています。息子が通う小学校を脅迫や暴力で地上げしようとする悪い連中に立ち向かい、自分の武功を世に知らしめるために周りの武術家たちを傷つけていく同じ詠春拳の使い手と対決します。そんな義のために生きる男のそばには、家族があり、ようやく落ち着いて生きていけると思った妻の目線が描かれます。男のドラマでありアクション映画として捉えられてきた本シリーズですが、3作目である『イップ・マン 継承』は、彼の妻のドラマであり、夫婦の絆の物語へと転調していきます。中盤以降、家族を愛しながら義にも生きているイップ・マンと、それを全て理解しつつも、家族を、そしてこれからの人生について深い思いを秘めた妻とのやりとりが胸に迫ります。そして、終盤、背を向けながらも「音」で見せるあるシーンに、涙せざるを得ないでしょう。信じ合う夫婦の尊さと、相手を思いあう姿の美しさは、夫婦でこそ観ていただきたいなと思います。
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ひとりで車を運転して山奥のトンネルを通過中に、そのトンネルが崩落してきたらあなたはどうしますか?本作は、そんな絶体絶命の極限状態の中で浮き上がる、社会と個人のドラマを描いた韓国映画です。この作品のあらすじだけ読むと、やはり今回のテーマとなる夫婦や家族とは一切無関係な物語に見えるかもしれません。しかし、この映画は危機に陥った時の夫婦の絆について深く訴える作品でもあります。
この映画の特徴は、孤立した状況下ながらもスマートフォンによる外とのやり取りが可能で、どうにか居場所を伝えて救出を待つことでトンネルから脱出しようする主人公の男と外部とのコミュニケーションにあります。トンネルで閉じ込められた主人公には家族がいて、当然ながら彼の妻にもスマホを使って自分の身に起きている事態を伝えます。妻は夫を励ましながら、夫も妻を気遣いながら、どうにかこの絶望的な状況を乗り越えようとするのですが、時間の経過とともに事故の収拾を図ろうとする関係者たちの思惑などにより、事態は予想もできない方向へと向かっていきます。そんな中、ある選択を迫られる妻の心の叫びが、その愛の深さを痛いほど訴えてくるのです。ハ・ジョンウ演じる主人公の妻を演じたペ・ドゥナの演技は圧巻です。
本作は、トンネル崩落事故とその対応を通じて、韓国社会の問題点を浮き彫りにする社会派映画でもあり、ひとりの命の重さを考えさせられるドラマでもあるのですが、同時に、苦しいときに心の支えとなるのは愛する者の想いであり、互いを信じる夫婦であることの素晴らしさを改めて感じさせてくれます。夫婦で観に行くことで、自分たちの絆を確かめあって欲しい一本です。
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この記事のライター
中井圭
1971
1977年、兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」「WOWOWぷらすと」、シネマトゥデイ×WOWOW「はみだし映画工房」、TOKYO FM「LOVE CONNECTION」「TOKYO FM WORLD」等に出演中。「Numero TOKYO」「CUT」「観ずに死ねるか!」シリーズ、映画広告ポスター等に寄稿。「映画の天才」「偶然の学校」「映活」「ナカメキノ」などの映画関連イベントを企画し、映画普及につとめる。東京国際映画祭をはじめとした様々な映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開している。
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