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進学・進級すると学校健診があります。学校保健安全法で毎年行うように決められているのです。子供の健康状態に問題がないかどうか診てもらう貴重な機会ですが、一方で脱衣での健診を問題視する声もあります。どう考えたらいいのか、小児科医の森戸先生に聞きました。
(※画像はイメージです/PhotoAC)
学校の健康診断(学校健診)で、生徒が裸になる必要があるのかどうかが話題となっています。この場合の裸というのは、上半身に何も身につけないこと。健診を服を着たままで行うべきという意見、脱いで行うべきという意見のそれぞれには、以下のような理由があるようです。
<着衣派>・服やタンクトップ等を身につけたままでも健診は可能。・裸だと子どもの自尊心とプライバシーを侵害してしまう。・思春期の子供にとってトラウマになるのではないか。
<脱衣派>・心臓聴診や胸部、脊椎などの正確な診断のためには脱衣が必要。・決められた時間内に多数の子供を診るなかで見落としを防ぐため。・自覚症状のない病気を拾い上げるには情報量が多いほうがいい。
着衣派には一般の方が多く、子供の頃の学校健診や身体測定、着替えなどで嫌な思いをされた方も多いようでした。子供であっても自尊心やプライバシーはとても大事なものですし、できる限り守るべきだと思います。
ただ健診に関しては、子供の健康や命にも関わることですから、専門家の見解を知っておいてほしいと思います。多くの小児科医は、やはり健診は脱衣のほうがいいと答えるだろうと思いますし、私もある程度の脱衣で診断したほうがいいと考えます。今回は、その理由を詳しくご説明したいと思います。
まず、学校健診の目的は、スクリーニングです。スクリーニングというのは集団をふるいにかけて目的物を選別することですが、ここでは病気の可能性がある人を見つけることです。
実際の診察では、患者さんの訴えに沿って、聴診器をあてて心雑音や不整脈がないか、呼吸音に異常がないかどうか……つまり心臓や肺に異常がないかどうかを確認します。この時に服を着ていると、やはり音が聴きづらく、どうしても情報量が減ることになります。
また、胸部中央が盛り上がっている「鳩胸(はとむね)」、反対に胸部中央が凹んでいる「漏斗胸(ろうときょう)」がないかどうかを目で確認します。とくに漏斗胸が成長とともに悪化すると、本人には自覚症状がなくても、肺や心臓を圧迫することがあって危険なのです。これもやはり目で見ないとわかりません。
さらに、脊柱が左右に曲がってねじれた状態になる「脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)」がないかどうかを確認します。そのためには、お子さんに前屈してもらって、肩甲骨の高さや脇線などが左右対称になっていないか確認することが多いです。
この脊柱側弯症の検査も、やはり脱衣のほうが見落としが少なくなります。各家庭で行うこともできますが、やはり専門家である医師がきちんと確認したほうがいいでしょう。思春期に発症する側湾は、男児よりも女児のほうが5〜8倍多いのですが、着衣での健診では発見率が著しく低下することがわかっています。
学校健診では、乳幼児健診では発見されなかった病気、成長につれて起こった病気が見つかることが少なくありません。鳩胸も漏斗胸も成長につれて悪化することがありますし、また脊柱側弯症は10歳以降に起こることが多いので、油断できないのです。外見上の問題だけでなく、重症になれば呼吸障害や痛みが起こることもあります。
これら以外にも、脱衣で診察することで、さまざまな病気や問題を見つけられる可能性があります。例えば、アトピー性皮膚炎やかぶれ、伝染性の皮膚疾患など。さらには服の下に隠れた部分にひどい傷やアザなどが見つかり、虐待が判明する場合もあります。
思春期以降の子供は、友人や保護者などの前でも裸にならないことがほとんどです。すると、さまざまな問題が見落とされるリスクがあります。だからこそ、学校健診の際に、ある程度は服を脱いで診察したほうがいいのです。
ただ、同時に子供の人権やプライバシーも非常に重要なものであることは間違いありません。健診の待合室には教師を含めて同性だけが入る、待機中は体操服やTシャツなどを着ておく(その下はキャミソールやスポーツブラなど)、健診スペースは衝立てなどで覆って一人ずつ入る、健診スペースには医師と看護師または教師(同性)の2名が立ち合う、健診スペースに入ってから体操服などを脱ぐ……などの工夫をすればいいのではないでしょうか。
残念ながら、学校健診に訪れる医師の性別を選択することは難しいと思いますが、立ち合う教師や養護教諭、看護師などを同性にすることは可能でしょう。
以上のように、学校健診では何を診ているのか、どうして裸もしくは薄着になったほうがいいのかを生徒にも保護者にもわかりやすく説明し、さらに学校が生徒のプライバシーを守った上で、見落としのないよう服を脱いで学校健診を行うのがベストだと私は思います。
それでも、なかには抵抗を感じるお子さんもいるでしょう。その場合、もちろん無理強いはいけませんから、個別に対応するのがいいのではないでしょうか。
子供は大人のミニチュアではありませんし、まだ発達の途中です。だからこそ、聴診だけではなく視診、触診もより大切になります。学校健診で服を脱ぐのは「子供の健康を守るために必要があって行うこと」だとご理解いただけたらいいなと思います。
お話をお聞きしたドクター 小児科専門医/どうかん山こどもクリニック院長森戸やすみ 先生 一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都谷中のどうかん山こどもクリニック院長。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本の発表に意欲的に取り組んでいる。『子育てはだいたいで大丈夫 小児科医ママが今伝えたいこと! 』(内外出版社)、『祖父母手帳』(日本文芸社)など著書、監修多数。どうかん山こどもクリニックTwitter
この記事の執筆者 大西まお 編集者・ライター。出版社にて雑誌・PR誌・書籍の編集をしたのち、独立。現在は、WEB記事のライティングおよび編集、書籍の編集をしている。主な担当書に、森戸やすみ 著『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』、名取宏 著『「ニセ医学」に騙されないために』など。特に子育て、教育、医療、エッセイなどの分野に関心がある。■Twitterこの記事のライター
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