映画解説者の中井圭さんが選んだ「美と哀しみを漂わせる」最新映画

更新日:2018年2月22日 / 公開日:2017年1月16日

忙しい中でも、最新エンタメは気になる…トレンドの情報は抑えておきたいですよね。日々新しく公開される映画の中から、映画解説者の中井圭さんが「今、映画館で観ることができる」最新の映画をご紹いたします♪

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この記事で紹介している映画の上映時間

  • ネオンデーモン 118分
  • たかが世界の終わり 99分

誰もが気になる…「美」に関する映画

このたび、新たに「michill」の映画コラムが始まりました。本コラムでは「映画館で映画を観るという体験が、もっと日常に寄り添うものになるために」という視点で、映画館で観ることができる新作を中心に、その魅力を様々な形でご紹介していきたいと思います。記念すべき初回は、誰しも何かしら関心がある“美”に関する新作を2本ご紹介します。

美にとらわれた闇の狂騒『ネオン・デーモン』(現在公開中)

「できるかぎり美しくありたい」と思うのは、人の自然な欲求。しかし、その気持ちが行き過ぎると、自分の心に潜んだ醜い魔物に絡めとられてしまいます。一般論として認識されているこの心のあり方を、拡張して映画にするとどうなるのか。それを描いた作品が、『ネオン・デーモン』です。

主人公は、モデルとしての活躍を夢見て、田舎からLAにやってきた少女ジェシー。彼女は、持ち前の透明感溢れる美しさに加えて、誰からも愛される内面の純粋さで、瞬く間に業界の注目を集めるようになります。しかし、生き馬の目を抜くように競争の激しい芸能界では、彼女の圧倒的な美しさは、周囲のライバルたちの羨望と同時に、脅威となっていきます。誰よりも美しく輝きたいという欲望を抱いて芸能界に漂い、チャンスを狙っているライバルたちは、望むものを全て持っているジェシーに激しく嫉妬し、徐々に常軌を逸した、信じがたい行動をとりはじめるのです。

美の狂騒の中心にいる主人公ジェシーを演じるのは、今や子役の領域から抜け出して、伸びやかで透明感のある美しさが才能溢れる監督たちを惹きつけてやまない、エル・ファニング。本作でも、実際のモデルたちとならんでも全く引けを取らない抜群のスタイルと唯一無二の存在感を発揮し、必要なものを全て持つ、選ばれし者としての説得力を役に与えています。そりゃあ誰でも選びますよ、エル・ファニングなら。

そんなエル・ファニングの美しさが際立つ、美への欲望と狂騒の物語である本作ですが、実は単なるオシャレなファッション映画とは一線を画しています。その最大の理由は、この映画を生み出した監督にあります。本作の監督は、デンマークの鬼才として知られる、ニコラス・ウィンディング・レフン。作品の世界を拡張するような独特の色彩感覚と恐れを知らない鮮烈な描写を持ち味としています。例えば、彼の代表作『ドライヴ』は、ライアン・ゴズリングとキャリー・マリガンをメインキャストに迎えた、無口でクールなスタントマンと服役中の夫を待つウェイトレスの切ないラブストーリーですが、やはり単なる恋愛映画ではなく、愛を守るためとはいえ、徐々に異質なほどの暴力性をはらんでいくのです。

そんな彼が撮った美の探求の物語『ネオン・デーモン』は、まさにレフン印とも言うべき、誰も予想できない着地点に到達します。美の周辺にうごめく感情の闇は、通常、理性に抑えられてあまり表には出ないものですが、もし人間の外側に具現化したら一体どうなるのか。ごく一般的なオシャレ映画では絶対に描くことのない、しかし美に関心のあるすべての人がギクリとせざるを得ない闇の心理を、レフンは狂ったようにさらけ出しています。本作は、人間の美しさと醜さが表裏一体となった、動悸が止まらないほどの衝撃を与える一本なのです。心してご覧いただきたい。

公開表記:2017年1月13日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズほか 全国順次ロードショー
配給:ギャガ
コピーライト:© 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
公式HP:gaga.ne.jp/neondemon

哀しみを湛え、愛を遺す家族劇『たかが世界の終わり』(2/11公開)

いま世界で最も美しく才能あふれる映画監督として絶大な人気を誇るのが、カナダの若き天才グザヴィエ・ドラン。俳優業と並行して映画監督の道を歩み、弱冠27歳にして既に6本の長編映画を監督するなど、世界的な注目を集めています。そんな彼の新たな監督作が『たかが世界の終わり』(2/11公開)です。

グザヴィエ・ドランといえば、19歳の時にカンヌ国際映画祭で上映された処女作『マイ・マザー』以来、母親に対する愛憎やLGBTの葛藤など、彼自身の実体験を基に映画を作ってきました。そのタッチはあくまでドラン本人の視点を投影した主観的なもので、感情描写の強さと繊細さを、独自の視覚および音楽的な表現に結びつける手法で評価を高めてきました。そして、新作『たかが世界の終わり』は、これまでのドラン作品とは少し違う、さらなる進歩を見せています。

物語は、実家を出て人気作家となり、何年も戻らなかった主人公ルイが、突然、実家に帰ってくるところから始まります。ずっと戻らなかった家族のもとに帰ってきた理由は、迫りくる自身の死を家族に伝えるため。しかし、久々に戻った実家で、彼は自分の死をなかなか言い出すことができず、彼が不在の間に蓄積した家族のエゴや秘めた感情に翻弄されていくのです。

本作において、美といえばドランだけではありません。この家族もとにかく美しい。主人公で次男のルイを演じるのはギャスパー・ウリエル。彼の兄でコンプレックスを抱いている長男アントワーヌにヴァンサン・カッセル。粗野な長男や田舎に辟易としている妹シュザンヌにレア・セドゥー。長男の妻で誰よりも気遣いのある女性カトリーヌにマリオン・コティヤール。そして彼らの母マルティーヌをナタリー・バイが配役されています。それぞれ美しく個性的な彼らが、ドランの指揮のもと、次男の帰還をきっかけに噴出する家族の愛憎をぶつけ合うのです。

ドランの進化という意味では、これまで彼が描いてきた主観的な視点や主人公の強い自己主張が影を潜めています。むしろ、この個性的な家族4人それぞれのエゴが強く押し出され、それを受け取りながらも感情を表に出さない主人公という受けの姿勢、客観的な視点が作品全体を覆っています。このアプローチは、ドランが監督として次のステージにあがっていく過渡期を感じさせます。しかし、愛する者たち、本作では家族によるディスコミュニケーションと愛の渇望という主題は、ドラン作品に通底するもので、たとえ視点が変わったとしても、これはドランの新作だと強く実感します。そして、ドランらしさに満ちた芸術的なラストカットに、哀しみを湛えながらも愛を遺した、彼の映画的美学を感じさせます。激しくも美しい傑作です。

監督・脚本:グザヴィエ・ドラン 原作:ジャン=リュック・ラガルス「まさに世界の終わり」 
出演:ギャスパー・ウリエル、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセル、ナタリー・バイ
配給:ギャガ 提供:ピクチャーズデプト、ギャガ、ポニーキャニオン、WOWOW、鈍牛倶楽部
後援:カナダ大使館、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
原題:Juste la fin du monde /カナダ・フランス合作映画/99分/カラー/シネスコ/5.1ch
デジタル/字幕翻訳:原田りえ
©Shayne Laverdière, Sons of Manual



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