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「事故物件」の告知、今後どうなる? 国交省がガイドライン発表

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当記事はSUUMOジャーナルの提供記事です

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「事故物件」告知どうなる? 国交省がガイドライン発表

2021年10月8日に国土交通省から「宅建業者による人の死の告知に関するガイドライン」が発表された。5月に発表された「ガイドライン(案)」に対するパブリックコメント(一般からの意見)を受け、修正したものだ。「事故物件」の告知はどういう結論になったのか。検討した委員会ではどのような議論があったのか。私たちの住まい選びにどうかかわるのかについて考えてみたい。

なぜガイドラインが必要なのか

以前にもSUUMOジャーナルでご紹介したが、人の死が発生した物件の告知について、明確なルールがないことがさまざまな問題を招いていた。
買主や借主は、深刻な事故があっても告知しない業者がいるのではないかという不信感をもつ。死因や経過年数にかかわらず告知が必要という誤解もあるため、宅建業者の調査・対応の負担が過大になる。単身の高齢者・障がい者に対する入居拒否などの問題も事故物件につながる確率が高いのではと敬遠されがちなことによるものだ(参照「事故物件の告知ルールに新指針。賃貸物件は3年をすぎると告知義務がなくなる?」)。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

人の死は、個別性が強く一律に線を引くのは難しい問題である。しかし、一定の判断基準を示すことでこれらの問題を解決し、安心できる取引、円滑な流通を実現しようというのがガイドラインの目的だ。

告知する範囲(国土交通省HPより)

(国土交通省HPより)

ガイドラインでは告知範囲と宅建業者の調査方法について基準を示している。まず、告知する範囲については「取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼす可能性がある場合は告げる」ことを原則としつつ、以下に該当する場合には宅建業者が告知しなくてもよい、としている。

【宅建業者が告知しなくてもよい場合】
1. 自然死・日常生活の中での不慮の死
(老衰、持病による病死、転倒事故、誤嚥(ごえん)など)
2.(賃貸借取引において)「1以外の死」「特殊清掃等が行われた1の死」が発生し、おおむね3年が経過
3. 隣接住戸、日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した死

ただし、上記1~3に該当する場合であっても、「社会に与えた影響が特に高い」ものは告げる必要がある。残酷な事件や社会に広く知れ渡ったような事件の場合には告知しなければならないのだ。
文章では、ややわかりにくいので図にしてみよう。

■ガイドラインによる告知範囲

(図:国交省ガイドラインをもとに筆者作成)

(図:国交省ガイドラインをもとに筆者作成)

そもそも今回のガイドラインで告知の要否を検討しているのは、不動産取引における取引の「対象不動産」と「通常使用する共用部分」だ(上記図のタイトル部分)。通常使用する共用部分とは、マンションのエントランス、共用階段、共用廊下などのこと。ここで発生した死は、対象不動産同様、一定の場合には告知が必要となる。一方、隣接住戸や通常使用しない共用部分で発生した死は対象としていない。
 その上で死因や取引態様(賃貸か売買か)によって告知の要否を分けている。まず、自然死・不慮の事故であれば告知は不要だ(1)。死因が自然死等以外(自殺や他殺など)の場合や、自然死等であっても特殊清掃が行われた場合には、賃貸であれば3年間は告知が必要となる(2)。売買については告知期間を定めていない(3)。より長い期間告知が必要ということになる。

以上はあくまで原則だ。「社会に与えた影響が特に高い」事案であれば、話が変わってくる。賃貸で3年経過していようとも告知しなければならない(4)。もちろん、売買でも告知が必要だ。

宅建業者はどのような調査を行うのか(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

次に調査について。宅建業者は売主・貸主に対し、過去に生じた事案(人の死)について告知書への記載を求めることで調査義務を果たしたことになる。近隣住民への聞き込みやネットで調査するなど自発的な調査までは求められていない。
それでは売主や貸主が事実を隠蔽するのではないか、と心配になるかもしれない。この点については、告知書が適切に記載されるよう助言することが宅建業者に求められている。「故意に告知しなかった場合には、損害賠償を求められる可能性があります。きちんと告知してください」といった注意がされるわけだ。
また仮に売主・貸主からの告知がなくても、「人の死に関する事案の存在を疑う事情があるとき」は、宅建業者が売主・貸主に確認する必要がある。後々のトラブルを回避したいと考える宅建業者による適切な助言や情報収集が期待されている。

人の死は、それだけで瑕疵なのか

また、告知にあたっては「亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、これらを不当に侵害することのないようにする必要がある」としている。具体的には「氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はない」とされる。亡くなった方の名誉を傷つけることのないよう配慮が求められているのだ。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

これは今回の修正で強調されたことだ。パブリックコメントにも「人の死は当然あることで嫌悪感をもたないような一文を添えてほしい」「自死のあった物件をすべからく心理瑕疵物件とすることは、差別・偏見を助長する」という意見が寄せられた。

「事故物件」を扱った番組や記事などでは、「事故物件は嫌だ」という街の人の声とともに、足の踏み場のないくらい山積みになったゴミ袋の映像や写真が取り上げられることが多い。しかし、人が亡くなった物件の全てがそのような状態になるわけではない。自殺や孤独死があった物件を、一律ゴミ屋敷扱い、お化け屋敷扱いし、忌み嫌うべきものとしていることは、まさに「偏見を助長する」ものだろう。

物件選択の基準はそれぞれだ

一方、たとえ偏見であっても、ある事情があれば借りたくない、買いたくない、と考える人もいる。他人から見れば不合理に見えても、本人が嫌だというのであれば、借りない、買わない、というのは自由である。これは人の死に限らない。繁華街を利便性が良いとプラス評価する人もいれば、うるさいのは嫌だと思う人もいるだろう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

物件選択にあたり何を重視するかは人それぞれなのだ。他人からその観点は非合理だ、と否定されるべきものではない。ガイドラインでも「不動産取引における人の死に関する事案の評価については、買主・借主の個々人の内心に関わる事項であり、それが取引の判断にどの程度の影響を及ぼすかについては、当事者ごとに異なるもの」としている。そのため「買主・借主から事案の有無について問われた場合」や「買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合」には告げる必要がある。

検討会ではどのような議論がされたのか

今回のガイドラインは国交省の「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」での議論を基に作成された。この検討会の座長を務めた明海大学不動産学部学部長の中城康彦(なかじょう・やすひこ)教授に、検討会ではどのような議論があったのか、お話を伺った。

「人の死を巡る課題の解決は、「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて~」(国土交通省 2019年4月)が重点的に検討すべき政策課題とした、ストック型社会の実現、安全・安心な不動産取引の実現、全ての人が安心して暮らせる住まいの確保など、ビジョンの目標と重層的にかかわってきます」(中城先生)

明海大学不動産学部学部長の中城康彦教授(写真提供/中城康彦)

明海大学不動産学部学部長の中城康彦教授(写真提供/中城康彦)

ストック型社会の実現、つまりは住宅を適切に管理し、長期にわたって使用していく、ということだ。その過程では、人が亡くなるということも当然に起こりうる。人が亡くなった物件を一律、瑕疵のある物件として扱うのでは、ストック型社会の実現は難しい。
また、検討会では「死の尊厳」についても意見が交換されたという。

「検討会では不動産関連団体、消費者団体、学識経験者から多面的な視点と情報が提供されました。その上でパブリックコメント後の修正では「死の尊厳」に配慮しました。宅建業法の枠内とはいえ、ガイドラインが慣習的な「心理的瑕疵」という言葉を用いない点を評価したいと思います。今後は住宅管理業と協働し、人の死を予防し早期発見する社会を実現することが期待されます」(中城先生)

レッテルを貼り続けることは、社会的損失を生む

ある住居で人が亡くなったとしても、死後、一定年数が経過しているのならば気にしない、という人も少なくないはずだ。しかし「事故物件」「心理的瑕疵物件」というレッテルが貼られているものに住むことは躊躇するかもしれない。周りから、事故物件に住んでいる人、という目で見られるのは嫌だからである。となると、そういう物件は選ばない。これは需要者側の物件選択の幅を狭めることになる。
一方、供給者側は、物件を敬遠する需要者が出ることで、価格・賃料を下げなければ売れなくなる、貸せなくなる。中には、どうせまともな賃料では借り手がつかない、ということでリフォームされず放置されるものも出てくる。高齢者、障がい者の一人暮らしが拒まれることも続くだろう。遺族への損害賠償請求という深刻な事態にもつながる。
本来ならば長期利用が可能な物件が「事故物件」のレッテルを貼られることで、スポイルされ、さまざまな問題を生んでしまうのだ。

本人が嫌だと思うからその物件を選ばない。これであればなんの問題もない。しかし皆が嫌がる物件だから……というある種の同調圧力により優良な住宅ストックが利用されないのは社会的な損失でしかない。
「建物を長期利用する過程では、いろいろなことがある。事故が3年以上前の話なら、(極端な例を除いては)気にする必要はない」という考えが広まることは、不動産の流通、優良な建築ストックの活用につながるだろう。今回のガイドラインをきっかけに、無意味なレッテル貼りがなくなることを期待したい。

●関連サイト
宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン
事故物件の告知ルールに新指針。賃貸物件は3年をすぎると告知義務がなくなる?

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この記事のライター

SUUMO

『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。

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