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東京都三鷹市から八王子方面へ至る幹線道路沿いに、赤や黄色、オレンジをド派手に配色したアーティスティックな建物がある。一見テーマパークと見紛うようないでたちだが、じつはれっきとした住宅。芸術家・建築家の荒川修作とマドリン・ギンズが手掛けた「三鷹天命反転住宅」だ。家というにはあまりにアバンギャルドな外観のこの住宅。2005年のオープン当初から憧れと好奇の目を集め、今ではすっかり三鷹のランドマークである。
この程、この不思議な家で一夜を過ごせるお泊まりイベントが開催されると聞き、参加してみることにした。
住宅のセオリーを覆す3LDK参加したのは、三鷹天命反転住宅に1泊してその魅力を味わう「天命反転住宅のよる~お泊りワークショップ」。主催しているのは美術家の榎本寿紀さん。自身もここの住人で、居室内をナビゲートする見学会やワークショップを度々開催しているという。
集合は20時。闇夜に浮かぶ異形な建物に若干たじろぐ
ワークショップは20時スタート。筆者は仕事の都合により1時間遅れで会場の303号室に入った。
この日の参加者は4名。筆者が到着したときにはすでに酒盛りが始まっていた
外観に負けず劣らずカラフルな装いの室内、ド真ん中に置かれたキッチンの周りにリビングスペースが広がり、さらにその周囲に球体やキューブ型の部屋が4つ。そのうちのひとつにはバスルームと洗面台、トイレがコンパクトにまとめられている。間取り的には3LDKということになるらしいが、一般的なリビングやダイニングとは見た目からしてかなり異なる。球体の部屋は部屋というより宇宙船みたいだし(※ドラゴンボール世代の方は、悟空がナメック星に飛び立った宇宙船を思い浮かべてください。あんな感じです)。
外観だけでなく内部も球体になった部屋
リビングスペースの床はコンクリートむき出しで、でこぼこしている。その上、ところどころ傾斜がついていてフラットな場所はひとつもなく、転ばないように歩くのも一苦労だ。段差をなくすとか、床をフラットにするとか、現代の住宅にとっては至極当たり前のセオリーがこの家ではまったく通用しない。正直、あまり住みやすいとは思えないが、どうしてこのような設計になったのか?
「確かに現代の一般的な住宅は、住人が何も考えずとも安全で快適に暮らせるよう設計されていますよね。しかしそうした親切な家に住んでいると、脳も体も退化してしまいます。三鷹天命反転住宅の場合、例えば『凹凸のある床にどうやって家具を置くか』『球体の部屋を使っていかに遊ぶか』など、暮らしているうちに自然と感性を研ぎ澄ませることになり、人間のもつ可能性に気づくことができるんです」(榎本さん)
確かに、転ばないように歩くだけでも集中力が養われるし、このぶっとんだ内装に合うインテリアを考えるだけでも発想力が喚起されそうだ。
天井には無数の輪があり、そこにフックをひっかけてインテリアを飾ったり、
洋服をひっかけて収納として使うことができる
こちらは榎本さんの部屋。天井から吊るしたハンモックがお気に入りだとか
榎本さんの案内でひとしきり建物や室内を巡回したのち、シャワーを浴びて就寝。場所はとくに決まっておらず、好きな場所に各々が寝具を敷いて眠りにつく。床の形状に体をあてがい、最もリラックスできるベストポイントを自分で発見するのだ。本当にあらゆる場面が思考力の鍛錬になる。
せっかくなので球体ルームで寝てみました
一見かなり寝苦しそうな球体ルーム。長期戦を覚悟したが、ゆるやかなカーブが筆者の猫背にマッチしたのか、意外な寝心地の良さ。外の雨音が静かに反響し、子守唄のように降り注ぐリラックス効果も相まってすぐに眠りに落ちてしまった。
というわけで翌朝もすっきりと目覚め、榎本さん手製のおいしい朝食をいただいたのち、
お泊まり会はお開きとなった。
アートの素養もなくセンスもからっきしという凡庸なぼくでも、ここまで四方八方から感覚を刺激されるとクリエイティビティが磨かれていくような気がした。ここに住んだらエッジの立った企画がドバドバ浮かんだりして。
ちなみにコチラの三鷹天命反転住宅では、こうした宿泊型ワークショップのほか、1週間単位のショートステイも受け付けている。クリエイターに限らず、会社員やファミリーなど幅広い入居者を募集しているので、興味のある人はぜひ。
三鷹天命反転住宅この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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