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東京・千駄木の街角に、一風変わった商いスペース&コミュニティスペースがある。ビルの1階部分に複数のお店が集まり“小商い”を行う、「バザール千駄木」だ。いち事業者にテナント貸しするのではなく、何かを売ってみたい個人を集めて空間をシェアしている。空きスペースのユニークな活用方法としても注目を集めそうなこの試み。その仕掛け人たちに話を聞いてみた。
月1.5万円から始められる「小商い」スペース
東京下町「谷根千(やねせん)エリア」の一角として人気の千駄木エリア。不忍通り沿いのビルの1階に「バザール千駄木」はある。26坪ほどの空間にいくつもの「屋台」が並び、お菓子を売ったり玩具を売ったり。中には、プロが10分1000円でメイクしてくれる「お化粧屋」なんていうのもある。各々が思い思いの「モノ」や「体験」を販売しているのだ。
「2017年の1月から5月14日までの期間限定の試みとしてスタートしました。目的は、近い将来に店舗を持って小商いをしてみたい方が、トライアル的に店舗運営をシミュレーションできる場所を提供することです」
と話すのは、バザール千駄木をプロデュースする一級建築事務所「HAGI STUDIO」の菊池さんと、運営をサポートする大見謝さん。実際の店舗を借りるとなると初期費用がかさみ、気軽に始めることは難しいが、ここは敷金・礼金・保証金など全て不要。初期費用は4万7000円のブース料(屋台購入費)と1万円の事務手数料のみで、月の賃料は1万5000円と破格だ。(共益費込み)。割り当てられるのは0.5坪という狭小スペースだが、“小商い”には十分だろう。
「出店者は全員女性で40代前後の方が中心です。お店をやるのは初めてという方が多いのですが、なかには地域のマルシェなどでスポット的に出店経験のある方や、すでに店舗をお持ちで、いずれ谷根千エリアにお店を構えたいからと、地縁をつくる目的で出店されている方もいらっしゃいます。海外から輸入したおもちゃを扱う店、りんご畑を営む農家さんの菓子工房など、バラエティ豊かなお店が軒を連ねていますよ。また販売だけでなく、ハンコづくりやクレヨンで描いた絵をアイロンで布バッグにプリントするワークショップなども行っています」(菊池さん)
金儲けに走る大家にはなりたくない。大家には「街づくりの担い手」という責任がある「バザール千駄木」の企画が立ち上がったのは昨年10月。そもそものきっかけは、ビルのオーナーによる「この場所で面白いことがやりたい」という思いだったという。
「もともとこの場所はドラッグストアや美容室にテナント貸ししていましたが、ここ1年くらいは空室になっていました。入居相談はちょこちょこ来ていたけど、誰でもいいから貸すっていうのは嫌でね。そんな時に、たまたま福岡で知り合いの不動産会社が主催していた『清川リトル商店街』というのを見学する機会があって、これは面白いなと。そこはマンション1階の広いスペースに小さなお店がたくさん出店している商店街だったんですが、うちも1階が空いているし、同じようなことができるんじゃないかと思ったんです」(物件オーナーの菅 完治さん)
とはいえ、駅にも近く、大通り沿いの1階という好立地。普通にテナント貸しすれば月30万~35万円の賃料収入が見込める物件を1区画1万5000円、合計12万円程度で貸し出すのは、かなり思い切った決断だ。
「かっこよく言えば、地域貢献みたいなことの一環でもあります。物件のオーナーって、ただ大家業をやってお金を儲ければいいわけじゃなく、街づくりの担い手としての責任があると思っているんです。こういうバザールのような場所って、地域の人同士の交流が生まれるでしょ。近所の人がフラっときて買い物したり、時にはお茶飲んで世間話したり。そんな拠点になったらうれしいですよね」(菅さん)
もともと谷根千で生まれ育った菅さん。地元の大家として、街を盛り上げていきたいという強い思いがあるようだ。
「だからこそ、出店者の方は誰でもいいというわけじゃない。単に『低コストで商売したい』『商売の場所だけ提供してくれればいい』という人は、申し訳ないですがお断りすることもありますね。基本的な方針として『みんなでつくり上げていく場所』というのを掲げていますので、同じ目線でバザール千駄木を良くしていきたいと思ってくれる人、自発的に動いてくれる人に参加してほしい。それから、この地域とこの先どうかかわっていきたいのか、という点も重視しています」(菅さん)
出店者みんなでつくり上げる「文化祭」のような雰囲気取材の時点(2月中旬)でスタートから約1カ月が経過。「みんなでつくり上げる」というコンセプトどおり、さまざまな試行錯誤が繰り返されているようだ。
「出店者同士の距離が近いので、互いにコミュニケーションをとりながら、より良い空間にしていこうという動きが見られます。出店者はお店の屋台もDIYで手づくりするんですが、バザールの休業日にはより使いやすくなるよう棚を増設したり、思い思いにデコレーションしたり、また、それを見たほかの出店者さんが影響を受けたりと、良い関係性ができていると思いますね」(大見謝さん)
さらに、今後はイベントなどを企画し、より地域の人々との接点を増やしていきたいと語る。
「例えば、直近だと『バザールでたべーる』、『バザールでしゃべーる』というイベントを企画しています。『たべーる』は近所の人を中心にした食にまつわるイベント、『しゃべーる』はトークイベントなどを通じて地域外の人を巻き込むイベントです。あとは、谷根千に古くから住んでいる人たちをお呼びして、新しく住み始めた20代~30代の若い人たちとつなぎ合わせる新旧の交流イベントみたいなこともできたらと思っています」(大見謝さん)
最後に出店者にも話を聞いてみたところ、「出店者みんなで意見を出し合いながら、手づくりで場をブラッシュアップしていく作業は楽しく、刺激的です。どこか『文化祭の準備』みたいな雰囲気もあって、日を追うごとに出店者同士の結束が固まっていると感じます。本当に毎日ここに来るのが楽しみで、5月以降もなんとか続けてほしいと思っていますけど……どうなんでしょうね?」とのこと。
ちなみに、5月以降は「今のところ決めていない」と菅さん。「今はこの場所を使って、地域のために何ができるか実験をしているところだから」と言うように、これからどのような発展を遂げるかによって、その後の展開が変わってくるのだろう。とりあえず残り約2カ月、さらなる試行錯誤を経た「バザール千駄木」がどんな場になっているのか? その動向に注目したい。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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