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人工的なせせらぎの音で、トイレでの用足しの音を消してくれる擬音装置。駅や店舗など多くの公共トイレで目にするようになり、排泄(はいせつ)音が気になる筆者などは、ないと探してしまうほどだ。あの装置は今、どのくらいの人が使っていて、どのくらいの水が節約できるのだろうか? 代表的な擬音装置「音姫(※)」を開発したTOTOに聞いてみた。
※「音姫」はTOTOの登録商標です
4人に3人は外出先での“トイレの音”が気になっている
用足しのときの「チョロチョロ」もしくは「ドボドボ」音、筆者はなるべく人に聞かれたくないと思うが、そもそも、「チョロチョロ」に代表されるトイレの音を気にする人はどのくらいいるのだろうか? TOTOが2014年に行った調査「外出先のトイレに関するアンケート」の結果を見てみよう。
調査結果によると、全体の25%、つまり4人に1人は「気にならない」と回答している。裏を返せば、4人に3人は、何らかの音を気にしているということになる。
また、男女別に「気にならない」と回答した人の割合を見ると、男性が38%なのに対して、女性は12%。女性の大多数が音を気にしていることが分かる。
なお、気になる音の内訳を見ると、一番多いのが「自分の排泄音」で65%。皆さん、私と同様に自分が出している音が一番気になっているようだ。次いで「他人の排泄音」が35%、「トイレットペーパーを引き出す音」17%、「汚物入れを開け閉めする音」10%と続く。気になる音は排泄音だけではないのだ。
女性の9割が外出先でトイレ用擬音装置を使ったことが「ある」大多数の人が気にしている「外出先でのトイレの音」。せせらぎ音でそれらの音をかき消してくれる擬音装置は、気にならない人なら不要かもしれないが、なるべくチョロチョロを人に聞かれたくない私には、とてもありがたい。あれば必ず使っているが、みなさんはどのくらいの割合で使用しているのだろうか?
全体の55%が外出先でトイレ用擬音装置を使ったことがあると回答。約半数は、装置を使った経験があることが分かった。面白いのはその内訳で、女性は実に91%が「使ったことがある」のに対して、男性は19%にとどまるという結果に。外出先でのトイレの音を気にする割合ときれいにリンクする数字となった。
では、男性は、装置をさほど必要としていないのかというと、そうでもないようだ。
同調査では、男性の22%、つまり約5人に1人は装置の設置を望んでいることが判明。実際、パブリックのトイレのうち、男性用のトイレには、女性用ほどには装置が設置されていないこともあり、その分、余計に設置を望む声が上がっているのかもしれない。
1988年の登場から、進化している「音姫」TOTOが擬音装置「音姫」を開発、製品化したのは1988年5月。公共のトイレで、「音消し」のために用足しの間に水を流すことを習慣としている女性が多く、そのせいで大量の水がムダになっていたことから、流水音を出す装置を開発することになったのだと言う。
「1978年には福岡市で大渇水が発生し、その後も各地を悩ませた渇水をきっかけに、高まる節水意識に応えて商品化されました」(TOTO広報部東京広報グループ桑原由典さん)
こうして今日に至るまで、「音姫」をはじめとする擬音装置は私たち日本人、特に女性の外出先でのトイレの音をかき消し続けてきてくれた。そして、「音姫」は開発から23年を経た2011年にはフルモデルチェンジを遂げている。まず、人感センサーを取り付けることで、ボタンを押さなくても自動的に「音姫」が作動するようにしたこと。そして、流水音を変えたことが大きな変更点だ。
排泄音以外の音についても実験と検証を繰り返して皆さんは、このモデルチェンジによって「音姫」の流水音がどのように変わったのかお気付きだろうか。もともとのモデルが、便器の洗浄音そのものをベースにしていたのに対し、モデルチェンジ後は、自然の川の流れの音をベースにした、よりナチュラルな音に近付けているのだ。
もちろん、「聞かれたくない音」を消すことが最大の目的であることに変わりはない。排泄音はもちろんのこと、社内の女性たちとのディスカッションから出てきたなかでも特に要望の多かった「おなら」「生理用品の包みを破るときのベリベリという音」「衣擦れの音」などについては、いろいろなタイプのおならや、特に激しい音が出る銘柄の生理用品で音を立てて実験。トイレブースのドアのすぐ外と、少し離れた洗面スペースとの両方で録音しながら、流水音によるマスキング効果を検証して今の音に行き着いたのだと言う。
確かに私自身の経験を振り返っても、デパートや駅のトイレにいたときに、擬音装置の音をかき消すほどの排泄音や“ベリベリ音”がトイレブースから聞こえてきた記憶はない。ここ最近の擬音装置のマスキング効果は相当なものなのだろう。
女性400人のオフィスなら年間400万円弱の水道代が節約できるそもそもの開発の目的が水の節約だった擬音装置。どのくらいの節水効果が望めるのだろうか。
TOTOが行った試算では、1000人(うち女性400人)が働くオフィスに手かざしタイプの擬音装置(センサーに手をかざすことで作動させるタイプ)を設置した場合、年間で約551万Lの節水となり、金額にして約386万円が節約できることになるのだとか。街なかの飲食店や美容室でも年間約8万円の節約になるという。
お金だけの話ではない。上記の試算でいえば、1つのオフィスだけでも約551万Lもの水を、無駄に使わずに済んでいるわけで、仮に同じようなオフィスが300あるとすると、300倍の約16.5億Lもの水が節約できている計算になる。これは東京ドーム約1.3個分に匹敵する。
トイレの擬音装置が誕生してからこれまでに、どれくらいの量の節水につながったのか、その実績は定かではないが、この装置が環境、貴重な水資源の保全に貢献していることに疑いの余地はないだろう。
TOTOでは「音姫」のモデルチェンジに際して、社内の女性社員への“聞き込み調査”から、人体感知センサータイプの開発を始めたそうだ。「仕事の一環とは言え、トイレでの所作について男性社員から根掘り葉掘り聞かれるのって、正直どうですか?」と広報部東京広報グループの木村奈美さんに尋ねたところ、「トイレが主力商品の会社ですから、あまり抵抗ありません」とさわやかな笑顔で答えてくれた。これからは、便座に座って『音姫』の音を聞くたびに、製品の開発に携わり、その後も改良を続けている人たちに思いをはせ、敬意を払うことにしよう。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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