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6月9日に開業したホテル『コンラッド大阪』、そのインテリアは橋本夕紀夫さんと日建スペースデザインが共働でデザインした。『ザ・ペニンシュラ東京』などホテルや商業施設、また多くの商品プロダクトを手掛ける人気デザイナーの橋本さんと筆者は住宅のお仕事でご一緒し、素材感のあるデザイン力に惹かれていた。それ以来「橋本さんのご自宅に行ってみたいなぁ」と思っていたが、今回その願いがかない自邸を取材させていただいた。連載【あの人のお宅拝見!】
『月刊 HOUSING』元編集長など住宅業界にかかわって四半世紀以上のジャーナリストVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。
まずは橋本夕紀夫さんの最新プロジェクト『コンラッド大阪』から、そのデザインの魅力を紹介したい。
コンセプトは“Your Address in the Sky -雲をつきぬけて-”。橋本さんは「地上200mの高さから、ビルの向こうに見える山や川の景色、雲や風など自然現象をアートやデザインで室内に取り込んでみました」と。
さて、そんな洗練された和をデザインする橋本さんのご自宅にいよいよ訪問。東京の都市部住宅地、道路沿いに左官仕上げの壁が特徴的で「ここだ!」と分かる家を発見。
車庫の奥が玄関。濃い茶色のむく材を壁から張って玄関扉との連続性をもたせ、美しい収まりになっている。
玄関の引き戸を開けると、印象的なアートが飾られたエントランス。女性の顔は、小林孝亘作の油絵。
中に入ると、いきなり全面大開口の明るいリビングダイニングが広がっていた。天気の良かった取材日は、天井高までのサッシをフルオープンに。塀で囲まれた中庭と一体化した空間は、半戸外で気持ち良い。
その気持ちの良いリビングダイニングで、橋本さんにご自宅の設計についてお話を伺った。
「ホテルや商業施設と住宅は、全く違う感覚でデザインしますが、共通しているのは“自然を取り込む”という点ですね」
「ここは土地も30坪と小さいですが、デッキの中庭を設けることによって、外との関係ができて広く感じますよね。空気が風と共に流れ、日が燦々(さんさん)と降りそそぐような心地良さが住まいには必要だと思います」
実は、壁一面に長く取られた収納上部のTV置き場になっている所に風を取り込む工夫が……くぼんだ両脇に小窓が取られているのだ。
自然光を取り込むデザインは、中庭の大開口に加えて2階からも光が降りそそぐようになっていて「日中、照明をつけることはあまり無いですよ」と、橋本さん。
自然を感じる空間づくりで、橋本さんが大切にしているのは『素材の質感』ということ。室内の壁は珪藻土を塗り、床はむくの栗で15cmと幅広のフローリング。中庭のデッキも同じく栗材。
職人から教わった、余裕をもって仕事をすることの大切さ自然素材と伝統工芸などをデザインに取り入れるのが得意な橋本さん。その理由を伺うと「僕が駆け出しのころに与えられた仕事が、職人さんの所へ通うことだったのです」と。橋本さんが当時入社した人気デザイン事務所、株式会社SUPER POTATO時代のお話を聞かせてくれた。
「事務所の杉本貴志代表がもつ職人のネットワークが凄くって。大変、影響を受けました」。伝統工芸を営む職人の仕事ぶりは、時間の流れが全く違うもの。それを側で見られたのが良い経験になったのだそう。陶芸家の辻清明さんや、木曽の漆塗りの職人さんとは20年たった今もお付き合いが続き、『コンラッド大阪』に入った赤いバスタブも木曽の職人さんによる漆塗りの作品。
「母の田舎が岐阜県下呂の山奥で、幼いころにおじいさんが炭焼きをしているのを傍らで見るのも好きでした」。物づくりの面白さを感じた橋本少年は、大人になると日本文化や伝統工芸への関心も高くなっていったそう。
「職人さんと付き合って気付かされたのは、あくせく東京で時間に追われている自分たちと仕事の進め方が違うということ。余裕をもって仕事をすることで、季節感のある日々の営みが生まれる。それが文化なのだと思います。日本の文化のつくり方を体感させてくれました」。
そう語ってくれた橋本さん、自宅の和室は畳に炉を切った茶室としてデザイン。
少々お点前も習っていらしたようで「茶道は“型にこだわる”日本人の典型的なもの。決まっている型で作法をしても、亭主によって違いが出る面白さがある。デザインなんかも決められたルールがあるからこそ、よりクリエイティブになったりします」
その和室に、こだわりの小技を発見! 画像9で紹介した、小窓が両脇に取られた収納棚の上、すだれの後ろにエアコンが隠されている。
「住宅、特にマンションは、もっと自由な発想をしていいと思う」良い意味でも悪い意味でも、型にはまりがちな日本人。その住まいづくりにアドバイスを伺った。
「あまり先の将来を考えて設計するより、その時の暮らし方をシンプルに考えたほうが良い。将来、技術革新が進むだろうし。つくり込み過ぎると、飽きるしね」
ご自宅には失敗とか後悔とか無いのかを聞いてみたら「僕は特に無いんだけれど、キッチンをあと50cmリビング側に出せば、キッチンが広くて使いやすかったのにと言われています」、奥さまからクレームが出ている様子がほほ笑ましかった。
よく住まいの困り事として挙げられる“収納”の不足については?
「ウォークインクローゼットもありますが、隙間という隙間を収納に活用しています」と、見せてくださったのは階段収納。この階段下は、3方向に収納を設けてある。一つめは階段の段差ごとに。二つめは中庭からの外収納、もう一つはワインセラーになっている。
最後に、オープンエアーの中庭でくつろがせていただいた。都会の住宅街とは思えない、空だけが見える視界。
趣味で音楽バンドも組まれていて、仲間がよく集まって来られるという橋本邸。その理由である居心地の良さが、住まいの価値であることを実感するお宅訪問となった。
橋本夕紀夫:インテリアデザイナー橋本夕紀夫デザインスタジオ●【連載】暮らしを楽しむあの人のお宅拝見 記事一覧
・あの人のお宅拝見[1] 編集者・石川次郎さんのセカンドハウス(前編)
・あの人のお宅拝見[2] 編集者・石川次郎さんのセカンドハウス(後編)
・あの人のお宅拝見[3] ザ・ペニンシュラ東京を手掛けたデザイナー 橋本夕紀夫さんの30坪の自宅
・あの人のお宅拝見[4] 30代ワーキングママ、憧れのライフスタイルを実現する住まい
・あの人のお宅拝見[5] 藤原和博校長「家は生活の舞台」、著書『建てどき』から築17年の自邸を振り返る 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル
この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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