/
耐震性や暮らしやすさを向上させるためリフォームを計画したTさん家族。「築37年の木造住宅を耐震リフォーム[2] 工事費700万円なのにローン返済は月額3000円台!?その驚きの仕組みとは」で紹介したとおり、予想以上の低い耐震性という診断結果を受けて家中の耐震補強工事とバリアフリー工事を行いました。リフォームに当たってどんな点が大変だったのか、暮らしがどう変わったのかを伺いました。
積もり積もったモノを手放すことの大変さを実感
リフォームに当たって、まず行ったのが家中にあるモノの“断捨離”。家を新築して37年が経過し、そして人も60代となると、長年使ってきた家庭用品や思い出の品など数多くのモノが家にあふれており、なかには不要品も山積みの状態です。「必要最低限なものだけを残して思い切って処分したら、その量はリビング・ダイニングキッチンにあったものだけでも収納棚4台分ありました……」とTさん。
家にあったモノで処分したのは、食器などの生活用品、衣類、書籍、そして古いアルバムも。まだ使えそうなものや書籍はリサイクルショップや古書店へ。リサイクルショップには、食器(未使用)、楽器、おもちゃなどを5万円ほどで、古書店では大量の蔵書を3万円ほどで買い取ってもらいました。リサイクルショップ等に運んだ息子のTさんは「メルカリで売ることもちらっと考えましたが、これだけのモノの量にかかる手間を考えると、安い買値だとしても早く手放すことを優先しました」
大きなゴミは自治体の粗大ゴミ回収を利用し、ほかの不要品は自治体のクリーンセンターへ2週に1回の頻度で計4回、運び入れました。クリーンセンターで処分した量は全部で200 kgほど。また、不要となった収納棚は、大工さんに解体してもらって産業廃棄物として処分できたので、手間が掛からず良かったそうです。
モノの要・不要を見極めていったのは、主にTさんのお母様。
「いつかはやらねばと思っていましたが、いざやるとなると精神的にきつかったですね。好きな着物や陶磁器なども数多くあり、さらに夫の両親と私の両親の遺品も多くあって、今まで大事に保管していたわけですから……。でも、リフォームがいいきっかけになりました。使える物でも残したい物以外は思いきって処分しました。やってみて感じたのは『モノの処分はできる年齢に限りがあること』ですね。今後年齢を重ねるとおっくうになるでしょうし体力的にも大変です」
リフォームに当たって一番苦労したのはどんなことだったのか、お話を伺いました。
「一番大変だったのはローンや補助金の申請手続きです。住宅金融支援機構の『リフォームローンの高齢者向け返済特例』と『耐震改修工事の補助金』も利用したため、手続きする窓口が6カ所もありました」とTさん。
具体的には1. リフォーム工事を行う工務店、2. 補助金を助成する自治体、3. 耐震性能評価機関、4. ローン手続きを行う住宅金融支援機構、5. ローンの連帯保証をする高齢者住宅財団、6. 融資を実行する都市銀行の6カ所。「特にローンの手続きは、高齢者住宅財団と都市銀行とで制度や仕組みが情報共有されていなかったりして、利用するのが大変でした。やるべきことを順番どおり進めたのですが、初めてのことだから分からないこと、とまどうことも多かったですね。高齢者向け返済特例を利用する人は高齢者なのだから、手続きがもっと簡素化されたほうがいいと感じました」とTさん。
「また工事費は、頭金以外を完成時に工務店に支払うのですが、銀行から融資金が振り込まれるのは不動産の『抵当権設定登記』(※1)が完了したときなんです。その間が1~2カ月ほど空いてしまう。一時的に支払うのに『つなぎ融資』(※2)の利用を考えましたが、何とか貯蓄を集めて支払いました。融資の名義は自分ではないので親への贈与に当たらないか、確認もしました」(Tさん)
※1「抵当権設定登記」とは:住宅ローン等で借り入れをして返済できなくなったときに、土地や家を担保とするという抵当権について法務局の登記簿に記載すること。
※2「つなぎ融資」とは:家の新築やリフォームの工事費の支払い時期と、住宅ローンの融資実行時期がずれるため、その資金を一時的に金融機関から借り受ける融資のこと
お母様は「息子は出張が多く多忙なので主に私が手続きを進めたのですが、やるべきことがとても多く、どこに何を確認すればいいのか分かりづらくて、精神的にしんどかったですね。細かいことが分からなくなってしまわないように、ノートにいつ何をして窓口はどこかなどを日記のように記帳して、何とか進めました」と振り返ります。
「実際に手続きに行くと、準備したと思っていても不足している書類があって再提出しなくてはならなかったり、登記簿をとっても、使うときには有効期限切れになってしまうといったことも(注:登記簿の有効期限は発効日から3カ月が一般的)。また、書類には不動産の名義人本人が自筆で手続きをとる必要があるのですが、名義人である夫は介護が必要な状態。週に3回通院していることもあって、調整も大変でした」(お母様)
水が使えない期間は? 家財道具はどうするの? 住みながらのリフォームってどうですか?T邸は次のように家全体を工事するので、着工から竣工まで約2カ月の期間がかかりました。耐震改修工事を行う場合、工事範囲が家全体に及び、しかも壁や床を剥がすのに合わせて設備や内装工事も同時に行うケースが多いので、T邸のように長期にわたります。そのため、住みながらリフォームするとなると、苦労も増えるとか。
「住みながらリフォームすることにしましたが、本当に大変でした。工事をする部屋の荷物を別の部屋へ移動することを何度も繰り返しましたし、土ぼこりがものすごく出て、毎日拭き掃除ばかりしていました。夫の寝室を工事するときには、介護のケアマネージャーに相談して、ベッドの移動をお願いしました」とお母様。
一方、Tさんは「私は仕事のために所有しているマンションがあるのですが、工事の間は、そこに泊まって職場へ通い、週末は実家でずっとゴミ捨てなどをしていました。水まわりの給排水管を交換する工事は1週間ほどかかりましたが、その間は水が使えないので、父は病院へ、私と母は、私所有のマンションに移りました。別宅や泊まりに行ける親戚の家などがあると、こういうときには良いですが、なければホテルやウィークリーマンションに泊まったりしないといけないのかなと考えました。仮住まいサービスがあると便利ですよね」
ちなみに、設備の交換だけなら1日で完了するケースも多いですし、キッチンだけとか浴室だけというように部分リフォームを行う場合は1~2週間程度の短期間で済むので、住みながらのリフォームは比較的、苦労は少ないようです。ただし、キッチンや浴室と異なり、トイレの給排水工事に関しては、トイレが使えない期間が数日間に及ぶので、仮設トイレを借りる、数日間別のところに宿泊するなどが必要となります。
リフォームで、耐震面もバリアフリー面でも安心して暮らせる家にリフォームして生まれ変わったT邸。暮らしがどう変わったのでしょうか。
「動線が変わると長年そこで過ごした高齢の方にとっては大変な面もありますが、わが家は間取りをほぼ変えていないので、生活動線は変えずに暮らしがバージョンアップした感じです。家は暮らして行くうちに、どんどん気になる点や不具合が生じてきます。耐震面で心配だとか水まわりが使いづらいとかですね。それを一気にリセットできて、安心で暮らしやすい家になりました」(Tさん)
●断熱について
「まず、窓は内窓や複層ガラス入りの断熱サッシに変えて、壁や床も断熱工事を行ったので、冬の底冷えするような寒さがなくなりました。結露もしなくなりましたね。また、浴室暖房機を設置しましたが、とても便利で、入浴する前に浴室と洗面脱衣所を暖めておくことができます」とTさん。
●バリアフリーについて
階段下の狭いトイレを洗面脱衣所と一体化し、廊下とトイレの段差を解消したことで、車椅子のお父様が出入りしやすくなりました。車椅子に腰掛けながら自分で頭を洗える洗面台や、両側に手すりのついたトイレなど、ユニバーサルデザインの設備を導入しています。車椅子の重量を考えて、根太(床下で床板を支える横木)も増やしました。
「以前のトイレや洗面室は、夫が1人で使うにはハードルが高くて大変でした。介助する者にとっても、広くて動きやすいですね」とお母様。一方お父様は、車椅子での可動域が広がったこと、トイレを使いやすくしたこと、照明をリモコン付きにしたり扉を軽い引き戸に変えたことで、自分1人でできることが増えた点が特に気に入っているそうです。
「便器にフタがないタイプでも臭いが気にならないよう、防臭機能付きの壁紙を選びました。浴室の隣なので防湿機能があり、車椅子で動くため耐久性も高い高機能壁紙です」とTさん。
●耐震性について
「わが家は地盤が弱いエリアにあるので、震度1くらいの小さな揺れでも気づきました。ミシっと音を立てて揺れると家がつぶれるんじゃないかと、大きな揺れがくる度に不安を感じていました。震度5弱だった東日本大震災ではつぶれはしませんでしたが、重い下駄箱がずれたり、2階の書棚の本が落ちていましたね。当時、夫は家で1人、ベッドに横になっていたのですが、本当に怖かったと言っていました。耐震改修したことで、『わが家はつぶれない・大丈夫』という安心感に変わりました」とお母様。
「今回、体力的にも気力的にも元気で、将来のことも落ち着いて考えられるときにリフォームや物の処分をすることができて、タイミングが良かったと思います。これが10年後だったら、私が主体になって動くことはできませんでした」と語るお母様の言葉が印象的でした。
こうして不安や不便を取り除き、安心で快適に暮らせるようになったT邸。リフォームのタイミングを逃さず、持ち物も含めて住まいについて見直し、問題があれば何らかの改善をする。そうしたことが日々の心の豊かさにつながるのではないかと感じました。
●関連記事この記事のライター
SUUMO
172
『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
ライフスタイルの人気ランキング
新着
カテゴリ
公式アカウント