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不動産を借りる、あるいは購入しようとする消費者に、取引できないのに「まだあります」と言ったり、魅力的に見える架空の内容で誘引する「おとり広告」。
首都圏では「おとり広告」の排除へ向けて、業界、不動産ポータルサイトを含めた取り組みがすでに始まっている。近畿圏でも、この問題解決に向けて新たな動きが始まった。そこで、この取り組みに対する不動産事業者の理解を深めるため、「不動産ポータルサイト広告に関する勉強会」が開催された。おとり広告はなぜ生まれるのか、なくならないのか。近畿圏ならではのある事情も、解説していこう。
警告+違約金で、5つの不動産ポータルサイトへの掲載がストップ
7月20日に開催された勉強会に、筆者も参加してきた。不動産ポータルサイトを利用する不動産賃貸仲介業の経営者、社員を中心に140名の参加のもと、2部に分かれたその勉強会の中身を紹介する。
最初に、(公社)近畿地区不動産公正取引協議会 小田徳行氏によって、表示規約違反業者へのこの8月からの対応について説明があった。
まず、「おとり広告」とはなにか。大きく次の3種類に分類される。
1.架空物件
物件そのものが存在しないため、実際には取引することができない物件
2.意思なし物件
物件は存在するが、実際には取引する意思のない物件
3.契約済み物件
物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件
この「おとり広告」も含めて、ポータルサイト広告適正化部会のメンバー間で2016年度に共有された「おとり広告」は、全国で2812件。そのうち近畿圏は1206件(全国集計の43%)と全国最多だという。エリアごとにみた物件掲載数は、はるかに首都圏が多いはずで、全掲載物件からの比率で言うとダントツに多い違反物件数ということになるだろう。
社会問題化する「おとり広告」に、全国最多の43%を占めている近畿圏の危機感は大きい。そこで、2017年8月から始まった「おとり広告」排除への新たな取り組みとはどのようなものなのか。
まず、不動産ポータルサイトの運営会社によって組織されたポータルサイト広告適正化部会が、おとり広告や悪質な不当表示を把握し、その不動産事業者の情報を共有する。そして、近畿地区不動産公正取引協議会にて表示規約違反として厳重警告・違約金の措置を受けた不動産事業者には、同部会構成会社5社が運営するサイト(at home、CHINTAI、HOME’S、マイナビ賃貸、SUUMO)への広告出稿が、最低1カ月以上、停止されるというもの。
ポータルサイトは今や不動産広告の主力メディアになっている。今までは、各社がそれぞれのサイトで掲載停止等の措置を取っていたものが、各社がおとり広告等の情報を共有することで、一斉にどこにも出稿できなくなれば、営業面での大きなハンディとなることが考えられる。
加えて、違反行為の程度によっては、不動産事業者名や違反の概要、措置の内容が公表される場合もあるということだ。ポータルサイトでの広告掲載ができなくなる上に、事業者名が公表され消費者がそれを知ることになると、物件の問合せをする消費者はいなくなり、企業イメージにとっても大きな痛手となるだろう。
情報の質が問われている今、「おとり広告」はもはや通用しない続いて、リクルート住まいカンパニーの石橋和也氏の講義があった。長く賃貸物件広告の現場で、仲介会社と消費者の意識を見てきた石橋氏は言う。今、不動産広告に消費者は何を一番求めているかというと、それは物件数や、デザインではなく、「情報の正確さ」であると。しかも、その意識は年々高くなってきているそうだ。
リクルート住まいカンパニーが行った調査によると、消費者が物件について問合せたときや来店時に「情報が間違っていた」場合、以後、その会社には問合せをすることがないと答えた比率は、「すでに埋まっていたと言われた」場合や「ウィークポイントを告げられた」場合以上に大きく、間違った情報を掲載する会社には厳しい評価をする傾向が見られるという。
新聞、雑誌、インターネットなどで「賃貸物件のおとり広告」に対する関心も大きい。今や消費者はピンポイントで物件を検索し、それを目的に来店する。「おとり広告」で誘引し、他の物件を紹介することで成約を得てきたスタイルは、効率が悪く経営的にも成り立たなくなるという。
「おとり広告」は、お客さまに対する後ろめたさからくる従業員の精神的な負担も大きく、離職率を高めるリスクもある。加えて規約違反に対する大きなペナルティーを考えると、今や「おとり広告」は消費者にとってはもちろん、不動産事業者にとってもデメリットしかない、と石橋氏は言う。
垣根を越えた取組みで、「おとり広告」のない世界を賃貸仲介事業者が、消費者のニーズに応えるためには、正確な情報発信を維持していかなくてはならない。そのために最も重要なのが不動産事業者による「物件情報のメンテナンス」だ。
賃貸物件の仲介の場合、家主や管理会社からの依頼を受けて、複数の会社が物件の募集広告を出す場合が一般的だ。その中の一社が成約を得ても、その情報がすぐに他社にまで伝わらない。そのタイムラグが、「契約済」物件が掲載される原因の1つだという。
物件情報のメンテナンス不備による「おとり広告」や「不当広告」は、広告主である不動産事業者の意図や故意、過失の有無を問わない。つまり、単に「削除忘れ」も「知らなかった」も同様に責任が問われるという訳だ。
会場に来ていた賃貸仲介会社の方は、
「不動産業界の信頼を高めていくためにも、このような取り組みはやっていくべきですね」と話された。
なによりもまず、間違った情報を発信することのデメリットをもっと不動産事業者が意識する必要があるだろう。
平成29年1月から首都圏で始まったこの取り組みは、現在、掲載停止となるポータルサイトが5サイトから7サイトに増えるなど、取り組みはひろがりつつある。不動産事業者だけでなく、物件情報が掲載される不動産ポータルサイトも、不当表示等を防止するフィルタリング技術の開発などを通して、システム的な改善も行うべきであろう。
消費者にとっても、不動産事業者にとってもデメリットしかない「おとり広告」は業界全体で垣根を越えて取り組むべき重要な課題だ。事業者は、消費者が最も求めているのは情報の質であることを強く意識し、おとり広告がない当たり前の世界を実現して欲しい。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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