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建物状況調査(インスペクション)の活用が盛り込まれた「宅地建物取引業法(宅建業法)の一部を改正する法律」が成立し、すでに公布されている。ただし、施行期日は決まっていなかったが、インスペクションに関する規定の施行日を2018年4月1日に定めると閣議決定がなされた。これから具体化に向けて詰めていくことになるが、どういった内容でどんな課題があるのだろうか。【今週の住活トピック】
「宅地建物取引業法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」を閣議決定中古住宅の質の向上で、売買の活性化を図る狙い
まず、宅建業法の一部を改正した背景を見ていこう。
住宅の量が充足した今、政府は新築住宅の供給から既存の住宅(中古住宅)の質の向上へと舵を切っている。そこで、消費者が安心して中古住宅の売買ができるように、住宅の質に対する情報提供を充実させようとしているが、個人が売主であることが多い中古住宅では、売主に多くの負担を求めるのは難しいことから、専門家が建物の状態を診断するインスペクションを活用しようと考えている。
国土交通省では、売買時点の住宅の状況を把握できるインスペクションについて、どの検査事業者が行ったかによらず同様の結果が得られるように、「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を2013年6月に策定している。
ガイドラインでは、中古住宅の現況を把握するための基礎的な現況検査、例えば「構造耐力上の安全性に問題のある可能性が高いもの(例:蟻害、腐朽・腐食や傾斜、躯体のひび割れ・欠損等)」や「雨漏り・水漏れが発生または発生する可能性が高いもの」、「設備配管に日常生活上支障のある劣化等が生じているもの(例:給排水管の漏れや詰まり等)」を診断するようになっているが、あくまで目視可能な範囲に限定される。
インスペクションで確認できない重大な欠陥が発覚した場合に、その補修費用を保険金でまかなえる「既存住宅瑕疵保険(かしほけん)」の加入を促せば、購入後のトラブルも防止できるし、瑕疵保険に加入するためには検査機関による診断で保険会社が求める品質を満たす必要があるため、建物の状況も調査される。
インスペクションや瑕疵保険の加入を促して、中古住宅の売買を活性化させたいという政府の考えが、宅建業法改正の背景にある。
売買契約前のインスペクションの実施を促す効果も宅建業法の改正で、インスペクションが義務付けられたと誤解している人もいるようだが、宅建業法の一部改正で盛り込まれたインスペクションに関する規定とは、宅地建物取引業者に次のことを義務付けたものだ。
・媒介契約において建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面の交付
・買主等に対して建物状況調査の結果の概要等を重要事項として説明
・売買等の契約の成立時に建物の状況について当事者の双方が確認した事項を記載した書面の交付
分かりやすくいえば、宅地建物取引業者は2018年4月から、次のようなことをしなければならなくなる。
(1)中古住宅の売買を不動産会社に依頼し、媒介契約を交わす際に、インスペクション事業者をあっせんできるかどうかなどを媒介契約書に記載すること
(2)売買契約締結前に買主に行う重要事項説明の際に、インスペクションが実施された場合はその結果について説明すること
(3)売買契約を締結する際に、インスペクション・ガイドラインで診断すべき基礎や外壁の状態、雨漏りの状態などを売主・買主双方で確認し、その内容を書面にして双方に交付すること
現実的には、売主が物件の仲介を不動産会社に依頼する際に媒介契約を交わすことが多い(買主は購入物件が決まってから契約前に媒介契約を交わすことが多い)ので、(1)は主に売主にインスペクションの実施を促す効果があると考えられる。また、(2)は買主に建物の状態を理解したうえで購入を決めたり、価格の妥当性を判断したりできるメリットがある。(3)はインスペクションなど第三者の調査機関の調査結果が対象となる。
インスペクションの条件、売買時の手続きや書類など課題は山積みインスペクションを除いた改正点については、2017年4月1日に施行されるが、インスペクションに関しては2018年4月1日に施行される。なぜ遅れて施行されるのだろう?
それは、まだ詰めなければならない課題が多いからだろう。
今検討されている案では、インスペクションとは、国の「既存住宅インスペクション・ガイドライン」に基づく検査結果報告書と同程度の内容としている。
そのインスペクションを行うのは、建築士とされているが、法改正後にインスペクションが増加した場合、インスペクションを行える建築士がそれだけの数いるか、という課題がある。研修の強化や建築士以外を対象に加えることなどが検討されている。
また、インスペクションの有効期間も課題のひとつ。5年前と現況では建物の劣化状況が違うからだ。実施後1年以内のインスペクションとされているが、その間に災害が発生した場合はどうするかなど、細かい条件をさらに検討する必要がある。
さらに宅地建物取引業者が行う「あっせん」とはどのレベルまでをいうのか、重要事項説明で説明する範囲や提示する書類はどんなものか、売主と買主双方が確認した事項はどういったものかなど、詳細を詰めたり雛形を用意したりと道筋を示す必要がある。
施行日までに定めなければならない課題はまだ多い。
中古住宅の売買では、これまでの宅地建物取引業者は物件を探して紹介する「仲介役」でしかなかった。法改正によって、インスペクションのあっせん、実施されたインスペクションの説明、現場での確認など住宅の質にかかわることになるので、相当に重要な役割を果たすことになる。
加えて、中古住宅を売買する売主・買主にも変化が求められる。売主にはできるだけ多くの情報を集約して公開することが求められ、買主にはそうした情報を適切に読み取って、購入の可否や保険加入の有無などを判断することが求められる。
従来よりも中古住宅の売買に時間がかかることが考えられるので、今後の中古住宅の取引現場がどう変わるのか、注目していきたい。
●参考この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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