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3万人の来場者が、全国から集う「RENEW(リニュー)」。2015年から福井県で毎年秋に開催されてきた、年に一度の工房一斉開放イベントです。
イベントの舞台である「丹南エリア」とは、鯖江市・越前市・越前町のこと。全国屈指のものづくりが盛んなエリアとして知られています。RENEWでは、それぞれの工房・企業を一斉に開放。来場者は職人と直接話したりワークショップに参加したりしながら、ものづくりを体感できます。
2020年、新型コロナウイルスによって多くのイベントが中止に追い込まれるなか、RENEWは7月に現地開催を決定。
「くたばってたまるか」
このステートメントを掲げ、現地では感染対策に留意し、オンラインで楽しめるコンテンツも用意。出展者76社(現地64社・オンライン12社)が参加し、2020年10月9日(金)から11日(日)の3日間、予定どおり開催を実現したのでした。
直前には台風の影響が心配されながらも、来場者は前年を上回る延べ約3万2000人にのぼり、オンラインからも延べ約1万4000人が参加。1出展者あたりの売上も前年より大幅に上昇し、ものづくりのまちは、いつにも増してエネルギーに溢れていました。
今年のRENEWが掲げたコンセプトは、「共につくろう、変わり続けるものづくりのまちを」。2020年のRENEWが見せてくれた、変わり続けるまちの新たな「景色」をお届けします。
※ 開催までの道のりはこちら
受け継がれてきたものづくりを「体感」するRENEWの会場である福井県の丹南エリアには、多くの産業が集中しています。伝統的につくられてきた漆器、和紙、刃物、箪笥(たんす)、焼物、そして地場産業である眼鏡、繊維など。この土地にものづくりの技術が蓄積され、継承されてきました。
総合案内所がある「越前漆器&眼鏡エリア」は、徒歩圏内に最も出展者が集中。工房に併設された直営ショップが続々と増加している熱いエリアです。5年間RENEWを続けてきたことで、エリア外からの移住者が増加。ものづくりを継承しようと移住してきた若き職人たちが、率先して説明してくれるため、「工房」や「職人」の存在がグッと身近になります。
駒本蒔絵工房では、漆塗りのパーツに蒔絵(まきえ)を描いて、オリジナルアクセサリーをつくるワークショップへ。
職人さんによる熟練の技を間近で見られるのは、RENEWならではの醍醐味です。蒔絵職人さんと和やかにお話しできたおかげで、「また、ここに来たいな」と思うひとときを過ごしました。
「ほら、光の当たり具合によって紙の見え方が違うでしょう」
普段見ない角度から眺めてみたり、おそるおそる触らせてもらったり。越前和紙を製造する長田製紙所で、紙すきの工場に差し込む淡い光と職人さんの言葉を頼りに、ふすまサイズの紙と向き合います。
ふすまが一番美しく映えるように光がおさえられた工房で、身近な存在だったはずの「紙」が、はっと驚くほどに美しい姿を見せてくれます。紙すきの営みが、1500年以上続いてきたことを実感する瞬間です。
越前打刃物エリアでは、国内外から高い評価を受けている刃物を集めたファクトリーショップ「柄と繪(etoe)」へ。1カ月前にオープンしたばかりの建物に、作り手によって特色の異なる刃物がずらりと並びます。
「この刃物はご高齢の職人さんがつくっていて、製造できる数に限界があります。だからもう値段がつけられないんです。でも、その方しか持っていない素晴らしい技術でつくられているので、ここに置かせていただいています」
ものづくりの新たな発信基地に置かれたその刃物に、受け継がれていく歴史を感じずにはいられませんでした。
「これまでどおり」を支えた、適切な対策の積み重ね現地開催を実現するために、運営方法の変容が必要になった今年のRENEW。しかし昨年までに何度も訪れたことがある来場者は「いい意味で、例年と変わっていなくてよかった」と思ったんだとか。これまでと変わらずに職人さんと話して工房を見学でき、RENEWの空気を満喫できたといいます。
「現地開催することがゴールではなく、一人の感染者も出さないことが最低条件」
実行委員会はこの軸をぶらすことなく、コロナ禍で「これまでどおり」を実現する仕組みづくりに奔走しました。
昨年までは受付がなく、来場者は気ままに好きな箇所をめぐっていましたが、今年は受付を必須に。毎日検温した後、工房見学やワークショップで必須になるリストバンドが配布されます。それぞれの工房・企業でリストバンドの番号を記録するので、万が一の場合でも感染者の追跡が可能です。
新型コロナウイルスが現れて以来、対策をしていてもどこか後ろめたさがあった「移動」。その後ろめたさには、「移動した先で受け入れてもらえるのだろうか」という不安もありました。
しかしRENEWでは、適切な対策を用意した上で「ぜひ来てください」と受け入れる姿勢を発信してくれたことで、去年までと同じように安心して楽しめたように思います。県外からの来場者も多く、久しぶりの再会を喜ぶ場面もありました。
来場者を歓迎してくれたのは、工房を案内してくれた職人さんも同じ。「RENEWのおかげで、遠くから工房に来てくれる人がいるんだ、と知ることができました。だから今年も変わらず、たくさんの人が来てくれてうれしいです」と話してくれました。
「開催できるか、できないか。いつもどおりに開催できない環境なら、何ならできて、何ならできないのか。工夫できることはないのか」
現地開催の決断に向けて、RENEW実行委員長の谷口康彦さんはこう考えたと言います。
この言葉のとおり、適切な対策を重ねて地元や行政の理解を得れば、多くの人が安心して楽しめるイベントを実現できるかもしれない。2020年のRENEWは、コロナ禍でのイベント開催への希望も見せてくれました。
ものづくりのまちを「共につくる」ための、新たな挑戦2020年、RENEWは3年間掲げてきたコンセプト「来たれ若人、ものづくりのまちへ」を初めて変更。
「共につくろう、変わり続けるものづくりのまちを」
掲げたコンセプトを体現するために、新たな企画を複数立ち上げていました。
現地開催と並行して、今年はオンラインでもRENEWを開催。ゲストによるトークから現場レポート、動画による工房見学まで、さまざまなコンテンツを配信しました。
今年初の取り組みのなかでもRENEWらしさが際立ったのが、産地の新たな可能性を探究する「RENEW LABORATORY」。各地で活躍する新進気鋭のデザイナーと、ものづくりを受け継ぐ5社がタッグを組み、120日間かけてオンラインで商品開発に取り組むプロジェクトです。普段使いできる漆のお弁当箱から、眼鏡づくりを解説する絵本まで、このプロジェクトによって完成した5つの商品が、初めてお披露目されました。
タッグを組んだデザイナーと出展者は、全員RENEWに関わったことがある作り手たち。RENEWが積み重ねてきた信頼関係があったからこそ、コロナ禍でもリモートで商品を完成させられたのでしょう。
足を止めてデザイナーとじっくり話し込む来場者が多く、「デザイナーの仕事ぶりや発想に触れられて、おもしろかった」と話す来場者も。時代に合わせて手段を変えながら、産地として真摯にものづくりと向き合い、柔軟に挑戦していく姿勢を感じました。
RENEWの会場にて同日開催されたのは、マーケットイベント「ててて往来市 TeTeTe All Right Market」です。福井県内だけでなく、近隣県含めて19組の作り手が出店。RENEWと開催時間をずらすことで作り手どうしの交流が実現し、ものづくりの可能性を拡げる新たなつながりが生まれていました。
誰もが自分に言い聞かせた「くたばってたまるか」「コロナ禍でイベントを開催するには、誰かがリスクを引き受ける必要があります。1番目が出てこなければ、2番目、3番目が続かない。民間有志で運営しているRENEWが、1番目を引き受けることが望ましい、と考えました」
開催に至った経緯をこのように話してくれた、RENEW実行委員長の谷口さん。当日は予想以上に来場者が集い、満車になった駐車場の対応に追われながらも、「今年RENEWが担うべき役割は果たせたんじゃないでしょうか」と穏やかな表情で語ります。
2015年からの5年間で、RENEWに関わるお金も人も一気に増えました。名前が知られるようになったRENEWで万が一のことがあれば、他のイベントの開催判断にも大きくマイナスの影響が出てしまうでしょう。それでも現地開催を決断した背景には、「役割」を担う覚悟があったのです。
「RENEWに求められる役割は、かなり大きくなっています。5年前はいわば村おこしのサイズでしたが、今やすでに『自分たちの』という大きさではありません。時代のなかで必要とされている役割を常に考えながら動いています」
初開催から5年の歳月を経て、RENEWは各地の工芸祭がベンチマークする最先端の事例となりました。役割が大きくなっている──その強い実感の先に実現されたのが、今年のRENEWだったのです。
「うーん、正直……『わー、しんどいなぁ』と思うときもありますよ、1ミリくらいね。でも、少し無理をしてでも、そのしんどさを『糧』と言わなきゃいかんでしょう。そういう何もかもを凝縮したのが、今年掲げた『くたばってたまるか』でした。
この言葉もね、実行委員会の誰が言い始めたのか、もう覚えていないんですよ。でも、誰が言っても同じ気持ちでした。外側に発信するだけでなく、自分たちに言い聞かせていたんですよ。くたばってたまるか、と」
その決断を行政が支え、賛同した工房・企業が今年もRENEWへの出展を決め、思いに共鳴した参加者がRENEWに参加する。
「前を向く」「自分がやる」と決めた一人ひとりの思いが共鳴しあい、覚悟を後押しする土壌が、今年のRENEWを支える柱になっていました。
時代に応え、時代を切り拓く「ものづくりのまち」谷口さんは最後に、「最近よく聞かれること」について話してくれました。
「これからRENEWはどうするんですか、と何度も聞かれます。現段階で言えるのは、答えは今出すものではないということ。一年後の社会が抱える課題、RENEWに求められる役割は当然読めませんから、その答えを今の時点で出すものではない。変化に対応しましょう、それが答えですね。
そもそも私たちは、RENEWが時代の先頭で戦っている、なんて意識を持っていないんですよ。時代に応えようとしている、というのかな。うん、みなさんと一緒に時代を『つくっていく』ような感じかもしれない。それぞれの役割を担うみなさんと一緒にね」
コロナ禍であろうと3万2000人の来場者を受け入れられる産地のあり方、伝統産業が試みたことのない新しいものづくりの方法があること、そして開催を決断したRENEWにこれだけ多くの人が集まって、一緒にこの街の変化を見届けられたこと。今年のRENEWは、新しい景色をたくさん見せてくれました。
新型コロナウイルスの影響でさまざまな変更を余儀なくされた今年だけでなく、これまでも、そして来年も。
常にその瞬間の社会を捉え、変化に対応し自分たちで時代をつくっていく。未来への志を共有し、自らを更新し続ける産地の意志を感じました。
共につくろう、変わり続けるものづくりのまちを。共につくろう、変わり続ける「未来」を。
●撮影この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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