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かなうものならば、自然環境が豊かな場所で仕事をしたい。シェアハウスに住んで、プライベートも充実した毎日を送りたい。アウトドアにも興味があって、休みの日には仲間とキャンプができたら最高! というぜいたくな望みを一挙にかなえてくれるスポットが福岡宗像に登場した。
きっかけは相続問題。空き家や売却よりも利活用することで祖先の思いをつなぐ
思うに、ここはシェアの究極系じゃないだろうか。まずはそのスケール感を写真で実感してほしい。
●ツリーハウス
●シェアラボ(シェアオフィス)
●シェアハウス
まるで映画のロケ地のように広大で、辺りを見回すとみかん畑や大きな杉の木が目に飛び込んでくる。耳を澄ませば川のせせらぎや鳥の声が。聞けば、シェアラボの窓からは夏、ホタルが見えるらしい。そんなぜいたくな自然環境のなかにどっぷりと漬かれる環境をつくったのが谷口竜平さんだ。
早くに両親を亡くした谷口さんは幼少時代から祖父母に面倒を見てもらっていた。しかしその祖父母も一昨年、昨年と立て続けに亡くなり、谷口さんには実家の平屋と倉庫、そこから歩いて15分ほどの距離にある7200坪(サッカーコート3つ分以上)の山林と田畑が遺(のこ)された。
すでに独立をして福岡の中心部で一人暮らしをしていた谷口さん。託された土地はあまりにも広大で、最初に頭によぎったのはメンテナンスの大変さだったという。売却も一時は考えたが、若いころ画家をしていた父親の絵を部屋で見ていると自然とその迷いは消え始める。
――親戚も集まるこの場所を皆が喜ぶ形で遺していくほうが両親や祖父母も喜んでくれるのではないだろうか。
7200坪のキャンバスを、壊すよりはどう描くか。この状況を活かして新しい場所をつくることに焦点を当てたことは、谷口さんにとっては当然の流れだった。
メンテナンスの負担を一人で抱えない。土地保有者ならではの精神負担が軽減されれば、田舎と都会の二拠点生活が実現できる。そう思い立ち、平屋を畑つきシェアハウスとして改装。最大5名の居住施設として居間やキッチン、個室をリノベーション。現在は農作業に興味のある東京や海外からの移住者を中心とした4名のメンバーが利用、谷口さんは管理人として定期訪問している。
またシェアラボは倉庫をリノベーション。1階はフリースペースとして利用でき、農工具の使用(無償レンタル)やメンテナンス、また月1回の立ち飲みバーやイベントスペースとして活用されている。2階はコワーキングスペースとして最大5名が使用可能。一時利用者も目的や条件によって受け入れしているので、移住や定住以外の目的の人でも使いやすいスペースを設けた。
「楽しい」を創ることで雇用を生み出していく自然豊かで外国人からも評価の高い宗像エリアも、谷口さんにとっては当たり前の風景で10代20代の時は実家から都会へ出たいと強く思っていた。しかし、外から来た訪問客に自分の育ってきた里山を案内すると、予想以上に感動している姿を度々目の当たりにする。谷口さんは、それで初めて「この場所は多くの人の原風景に近いんだ」ということに気がついた。
ポテンシャルがあるなら最大限に活かそう。そう考えてつくり出したのがツリーハウスだ。
ツリーハウスは通常3カ月位あれば完成するが、設計士や大工、アウトドアフリークをはじめとする約30人の有志を募り、1年という歳月をかけて完成させた。メインツリーの選定や木への負担が少ないと言われているボルト工法でのデッキ設置、ハウスの組み立てなど対話を重ねながら最も納得する方法で建設に取り組んだ。
そのかいもあってツリーハウスの完成だけでなく、この場所でしかできない、さまざまな活用アイデアが生まれたという。
「子どもの遊具施設の設置や星空音楽祭など、幅広い世代が楽しめる場所として里山、シェアラボを組み合わせてたのしい場をつくっていきたい。そもそも自分が田舎から出ようと思ったのは、若者にとって魅力的な働く場が少なかったからだと思うんです。この場に若いクリエイターが集い、地元の人と協働し、地域ならではのクリエイティブを生産していく。そうすれば新たな経済が生まれ、雇用も創出できると思うんです」と谷口さん。
事実、農家は生産のプロだけれど、PRとなれば素人という人も多い。そんな人たちにクリエイターたちが一緒になり、ものづくりができるようになるのが理想だと話す。
実家や土地の「相続」の活用を改めて考える事業としてシェアハウスは月3万2000円〜(共益費5000円)、シェアオフィスは平日利用者と週末利用者で分けて月2万円台〜(共益費5000円)で利用可能とし、どちらも3年単位での投資回収を考えている。
また今後は、宗像に観光などで訪れる人たち向けの場をつくることで、シェアラボや里山などで生まれたつながりを活かす交流スペースもつくりたいと考えている。
年々、いたるところで空き家が増えている現状だが、谷口さんのように活用の方法が見えれば、思い切ってその場所を公共の空間として開放することも選択の一手なのかもしれない。一人に託された場所が多くの人のよろこぶ場所となる。まさに「大河の一滴」のような取り組みを谷口さんは実行している。
――目に見えない、思いをつなげる。
「親から子ども」への縦のつながりの相続だけに目を向けるのではなく「家と地域」の横のつながりで相続に取り組む方法を考えてみることも、これから増えてきてほしいと願うばかりだ。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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