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地震や台風、風水害、豪雪などの自然災害が多発する日本。しかも2020年は新型コロナウイルスが流行し、災害発生時の避難場所、仮設住宅をどう備えるのかが課題となっています。今回、そんな感染症流行下の避難場所としても活躍しそうな「タイニーハウス」が、山梨県小菅村に誕生しました。その背景や思いを聞いてきました。
山梨県小菅村で、災害発生時に避難場所になるタイニーハウスが誕生
人口約700人、多摩源流の山間にある小菅村は、10~25坪の小さな小屋が次々と誕生している「タイニーハウス村」として、以前、SUUMOジャーナルでも紹介しました。
この小菅村で今年10月に誕生したのが、感染症対応をしつつ、災害発生時に避難場所として活躍するタイニーハウスの「ルースターハウス」です。
ちなみに、「ルースター」は英語で、雄鶏という意味のほか、とまり木、ねぐらという意味があるとか。災害時のひとときの住まいという意味で、「ルースターハウス」と名付けたといいます。
このルースターハウスの特徴は、災害時、感染症対策をしながらの避難場所になるだけでなく、(1)軽トラ一台で持ち運べる、(2)4m×4mのスペースに、ドライバーとレンチがあれば大人2~3人で、1時間程度で組み立てられ、(3)山梨県の木材を活用する、といった点にあります。トイレやシャワーなどの水まわりはありませんが、家族4人程度のプライバシーを保ちながら仮住まいすることが可能です。
ルースターハウスの原型は、「タイニーハウスコンテスト」の応募作品このルースターハウスの仕掛け人となったのは、前回の取材でも登場してくれた一級建築士・技術士の和田隆男さんと小菅村村長の舩木直美さんの2人です。
「小菅村では毎年、タイニーハウスコンテストを開催しているのですが、2019年に最優秀賞を獲得していた、滝川麻友さんの『森を浴びる家』のアイデアはすばらしく、なんとかかたちにしたいと思っていました」と和田さん。
しかし、今年はコロナウイルスの流行もあり、サンプルをつくるのは難しいと考えていたところ、舩木村長から「組み立て式の建物でポータブル。これは、感染症流行下の避難場所として活用できるのではないか。費用はなんとか工面するので、かたちにしてみよう」と提案があり、サンプルづくりを進めたそう。
そもそも、災害発生時に自治体が設置する避難所は、学校などの公共施設に開設されることが多く、多数の人が避難生活を送るため、プライバシーが確保できない、感染症の集団感染が起きるといった問題点が指摘されてきました。
「災害はいつ、どこで発生するかわかりません。しかも今年はコロナウイルス対策として、避難場所の受け入れ人数を半分以下とせざるを得ないため、国も地方自治体も頭を悩ませています。このルースターハウスは組み立て式で持ち運べる。ひょっとしたら避難場所になるのでは、という思いがありました」(舩木村長)
ちなみに、東日本大震災発生時には、「まわりに迷惑がかかると感じた」「設備面で滞在に支障があった」といった理由で避難所から退所していった人が多かったそう(平成25年「避難に関する総合的対策の推進に関する実態調査結果報告書」内閣府)。特に小さな子どもや高齢者・障がいがある人にとっては、避難所での大きな場所が区切られていない、集団生活は大きなストレスとなることでしょう。
また、小菅村では2019年台風19号で被災し、道路が寸断された経験があることから、災害時に空輸・持ち運びしやすさを考え、組立前の重量350kg以内、一つのパーツの長さ1.8m、重さ10kg未満など、軽トラに乗せられる「持ち運びやすさ」にもこだわったといいます。
「地方の山間の集落は道路も細く、大型トレーラーが入れないことがあります。機動力のある軽トラで持ち運べることというのはサンプルをつくるのにあたって何度も言われました」と和田さん。被災経験があり、地方の実情を知っているだけに、その説得力は十分です。
船木さんは、「このルースターハウスがあれば、周囲の目を気にせずに避難生活が送れます。感染症が流行する心配もなく、自宅とまではいかなくとも、多少なりともくつろげることでしょう」といいます。
ちなみに、このルースターハウスの原型となった『森を浴びる家』をデザインした滝川麻友さんは、応募当時、高校生でしたが(!)、現在は早稲田大学建築学科に進学したといいます。
「今回のサンプルを拝見して、自分が空想していたことが現実になったのが、いちばんの驚きでした。私の妄想が大人のみなさんの力でかたちになっていき、貴重な経験をさせていただいたと思っています」と話します。若い着想と大人の力が組み合わさって新しいタイニーハウスができる。まるでドラマのような展開ですね。
今回のルースターハウスはまだサンプルの段階ですが、実用化にあたっての課題、今後の活用法についても聞いてみました。
「骨組みは木材ですが、タイニーハウスの外側はポリエステル樹脂を使っていて、通気性や断熱性などの居住性を高めつつ、耐久性も確かめたいですね。また、デジタルファブリケーションを使って加工しているので、1基を生産するのに5日間かかりました。量産化するのであればこのペースアップ、1基の価格設定でしょうか」と和田さん。ちなみに現在だと外皮を含めて一基80万円ほどかかりますがこれからコストダウンを考えますとの事。舩木村長からも、もう少し安く、早くできるようにプッシュされているとか。
「ルースターハウスは、平時はグランピングやキャンプなどの宿泊施設としてお金を稼ぎ、非常時には仮設住宅、避難場所として活用することを考えています。小屋もしまっておくのではなく、平時も非常時も活用できるのが理想ではないでしょうか」(舩木村長)
移動可能な小さな住まいにはモンゴルの伝統家屋「パオ」、避難場所として受け継がれてきた日本の「板倉小屋」がありますが、ルースターハウスは「パオ」や「板倉小屋」のいいとこ取りをしています。もちろん、自然災害が起きないに越したことはありませんが、世界中で気候変動が進む今、日本のみならず各国で住まいの備えが必要になりつつあります。もしかしたらルースターハウスは、日本発の持ち運べる避難場所として世界に広まっていくかもしれません。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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