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新型コロナウイルスの影響で移動が制限されるようになり、早1年が経過しようとしています。一方、マンションの入居者向けに次世代モビリティサービス「MaaS(マース)」事業や、マンションの敷地や多種多様なスペースにさまざまな移動商業店舗がやってくるサービスなど、「移動」をカギにした暮らしをより豊かにする取り組みもスタートしようとしています。今回は、2021度中にこれらのサービスの本導入を予定している三井不動産に話を聞きました。
お出掛けを楽しく便利にする「MaaS(マース)」、近所にお店が来る「移動商業店舗」
「駅徒歩●分」などと言われるように、不動産と移動は密接な関係にあります。ところが、テクノロジーが発達したことで「働く」「学ぶ」「買い物」も自宅でできるようになりつつあり、「移動」そのものの考え方が大きく変わりそうです。 そんななか、“不動産デベロッパー”である三井不動産が、今、モビリティ構想を掲げています。不動産事業はいわば、出発地となる「住まい」や目的地となる「オフィスビル」「商業施設」などの開発が主な領域のはず。なぜ、モビリティ構想を掲げるのでしょうか。
「弊社は不動産会社ですが、時代が大きく変化、変貌している昨今、不動産という『箱』を提供しているだけでは、競争力を維持できないのではという危機感があります。マンションと商業施設、あるいは勤務先を結ぶ『移動』の新サービスを提供することによって、住む人や働く人に新たな価値を提供できればと思っています」と話すのは三井不動産 ビジネスイノベーション推進部の門川正徳さん。
「弊社のモビリティ構想は街と人、サービスをつなぐものです。お出かけ、つまり“行く”の『MaaS』サービス、お店が自宅近くに“来る”の『移動商業店舗』は、いわば“行く”と“来る“のセット、分かりやすく2本柱といってもよい存在です」とビジネスイノベーション推進部の後藤遼一さんも続けます。
なるほど、不動産まわりの“行く”と“来る“を楽しくするということですね。
20年9月から、柏の葉をはじめ日本橋、豊洲でMaaSの実証実験を実施。手応えは?まず、“行く”の「MaaS」について解説してもらいましょう。
「MaaSは移動のために必要な検索、予約、決済をひとつのアプリケーションで完結する仕組みです。移動の利便性が格段にあがり、ライフスタイルに大きな変革をもたらすと言われています。今回、私どもの実証実験では、月額定額制(サブスクリプション)サービスで、カーシェアリングやシェアサイクル、バスなどを自由に組み合わせて簡単に利用できるようにしました。マンションから身近な目的地へのお出かけが手軽に、かつ楽しくなることを狙っています」門川さん。
MaaSによって、移動手段の検索、予約、決済ができ、なおかつサブスクだとしたら相当、便利&おトクですね。今回の実証実験では、カーシェアリングだけでなく、シェアサイクルやバス、タクシーと移動手段が多岐に渡っているため、時間や目的、気分にあわせて、サクサク選べるようになっているといいます。個人的には、子どもや高齢者などを連れての移動って、検索と下調べ、決済の一つひとつが大変なんですよね……。こうしたアプリが普及すれば、移動のストレスが軽減され、お出かけを楽しむ余裕もできそうです。
このMaaS、アプリの開発は数年前から行い、2020年9月から千葉県の柏の葉キャンパス、東京の日本橋、豊洲で実証実験を実施しています。新型コロナウイルスの影響下ではありますが、現在のところ、ポジティブな声が集まっているとか。
「日本橋は都心、豊洲は準都心、柏の葉キャンパスは都市近郊と、それぞれ利用者層が異なるのですが、概ね好評をいただいています。一番うれしいのは『下車したことのないバス停で降りて発見があった』『気軽に移動できるようになった』という声でしょうか」と門川さん。
エリアによって利用状況は異なるそうですが、日本橋や豊洲エリアではタクシーを利用する人が多かった一方で、柏の葉キャンパスではカーシェアリングの利用頻度が高く、「自分の車のように使える」と好評だったとか。確かに、移動で公共交通機関を利用するのは感染症対策を考えると少しナーバスになるもの。タクシーにしてもカーシェアリングにしても、気楽に利用できるのであれば「使ってみたい」という需要にマッチしているのでしょう。課題はあるのでしょうか。
「MaaSという言葉や仕組みがまだまだ知られていないので、知ってもらい、利用してもらって次につなげることが課題だと思っています。また今回の実証実験で得られた知見を活かして、他のエリアでどう展開するかは、今後の取り組みになりますね」と率直に教えてくれました。
リアルなお店があなたの近くに「来る」!移動商業店舗の実験とはMaaSが住まいから移動するための“行く”試みであれば、住まいの近くに“来る”試みといえるのが、もうひとつのモビリティ構想の取り組みである「移動商業店舗」です。
12月に、掲載した記事、マンション×キッチンカーでは飲食を中心としたフードトラックがマンションに行くという試みをご紹介しましたが、この「移動商業店舗」は飲食に限らず、物販やサービスなどの全ての店舗を車両に乗せて、人々の身近な生活圏内に“来る”というものなのです。ちなみに展開するエリアは三井不動産が手がける施設や敷地内に留まらず、社外も含めた多種多様なスペースも活用し出店場所を広げていく予定。なぜまた、“来る”だったのでしょうか。
「社会の変化するスピードが早くなったことで周辺のニーズと提供コンテンツにギャップが生まれたり、人々の価値観も多様化しています。、さらに、利用者って時間帯や曜日によって、異なる買い物やサービスのニーズを抱いているはずなんです。だからこそお客さんのところに、週替りや日替わり、時間帯ごとに必要なリアル店舗が“来る”ようにすれば不動産では提供しきれなかった幅広く変化するコンテンツを提供できるのではないかと思ったのがはじまりです。これまで不動産会社は動かない床を貸してきましたが、今回は動く床を貸します。つまり『移動産』と言っています」(ビジネスイノベーション推進部の後藤遼一さん)
「不動産」ならぬ「移動産」! 確かに利用者から見れば、利用したい店は時間によって異なりますし、お店が「近くに来てくれるのであれば行きたいな」という店舗は多いもの。また、店舗事業者から見れば「出店コスト」がぐっと抑えられて、集客が見込めるのであれば、これはうれしいマッチングですよね。ちなみに、20年9月~12月に東京都の豊洲、日本橋、晴海、板橋、そして千葉市という5エリアで10業種11店舗の事業者とともにトライアルイベントを実施したそう。
「今回は包丁研ぎ、健康器具や雑貨、コスメ、お香、オーダースーツなどさまざまな店舗にご出店いただきましたが、特に包丁とぎやマッサージなどは予想通り好評で、色んな店舗で手ごたえを感じましたね」と話します。一方“移動”“屋外”ならではの大変さもあったとか。
「お天気がいい日は良いのですが、秋の台風シーズンだったものですから(笑)、屋外は大変で、これは今後の課題でもあります。自分もほぼ、イベント会場にいたので、テナントさんのスタッフとも仲良くなって、乗り切った達成感がありました」と振り返ります。
ちなみに、子育て世代は夕飯づくりが落ち着いてから自分の時間があるようで、物販のアクセサリーが夜7~8時に売れるなどの予想外の出来ごともあったとか。思わぬ時間帯に思わぬモノが売れたりするんですね……。今後は、こうした時間帯や曜日によって異なる店舗やサービスのマッチング精度を高めていきたいと思っているそう。
利用者からは、「共働きや子育てで忙しい日常の楽しみができた」「コロナ禍のなか、店舗が来てくれるのが便利」という声が寄せられているとか。それは、そうですよね。お店ってやっぱり単なる商売じゃなくて、コミュニケーションの場でもあるので、気持ちが落ち込みがちな時期だからこその「楽しみ」になったのではないかと推察します。
今回の「行く」と「来る」によって促されるのは、人やモノ、風景との「出会い」だと思っています。モビリティ構想というとなかなかイメージしにくいですが、人の「行く」とモノ・サービスの「来る」を楽しくする試みだというと、とても分かりやすいですよね。思うように出会えない・移動できないコロナ禍だからこそ、より価値ある実験となるのではないでしょうか。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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