/
購読者9万人超えのウェブマガジン「未来住まい方会議」。場所・時間・お金にとらわれず、豊かに暮らすためのヒントになる情報を発信し、支持を集めている。
昨年11月末、その運営元である「YADOKARI」が、街の魅力向上と活性化の場としてイベント・キッチンスペース「BETTARA STAND(べったらすたんど)日本橋」をオープンした。“街と一緒に創る・コミュニティビルド” をコンセプトに据え、まちづくりに関連したワークショップやイベントまで、多彩な企画を展開している。今回、「YADOKARI」がネットを飛び出し、初めてリアルな場づくりを目指した理由とは? 代表のさわだいっせいさんと、ウエスギセイタさんにお話を聞いた。
お江戸のにぎわいをもう一度! 神社の横に出現したタイニーハウスが目指すこと
江戸カルチャーの面影を残す日本橋。かつては、五街道の起点として人と物でにぎわう街として名をはせた。近年は商業施設の開業も相次ぎ、伝統と現代が交差するエリアとして再び注目されている。「BETTARA STAND 日本橋」があるのは、にぎわいをみせる日本橋の“表通り”から少し離れた場所だ。
デッキ広場も含めると面積約150m2、立席で約100名収容できるこのスペースの目的は、食やイベントを通じて街の活気を創出すること。通常は、日本全国のクラフトビールや日本酒をはじめ、冬季は鍋料理などを提供する、開放型バルスタイルのお店として営業。住まい方や働き方、地域活性といった、「暮らし」にまつわるテーマのトークイベントやワークショップ、マルシェなど年間150本ほどの催しが開催されている。
足を運んでみると、周辺は日本橋のイメージとは少し異なる、やや閑静なオフィスエリア。人通りもあまり多くはないが、周辺には江戸時代から続く刷毛(はけ)の専門店や、うなぎ専門店などがあり、ところどころに「らしさ」がうかがえる。なぜこの場所に、コミュニティの拠点を置こうと思ったのか。さわださんは次のように話す。
「私たちはこれまで『未来住まい方会議』で、多様な暮らしを支える住まいを紹介してきました。そのなかで、いわゆるタイニーハウス(小さな家)に分類される『INSPIRATION』という家の開発・販売にもこぎつけたんです。このタイニーハウスって、住むだけではなくコミュニティの場としても活用できるんじゃないかと思っていて、ゆくゆくはタイニーハウスをいくつか置いて、“商業施設やホテル、住まいを集めた村”みたいなものをつくりたいよねって話していました。
そんなことをWEBマガジンや書籍を通して伝えてきたこともあり、今回とある大手ディベロッパーがこの辺りの開発を手掛けるということで、駐車場だったこの場所で何かできないかと話がありました。大規模開発をするんじゃなくて、もう少し温度感があるというか、人と人とのつながりとかコミュニケーションを大事にした場を若手に任せたいっていうことで、この『BETTARA STAND 日本橋』を提案したんです」
とくに評価されたと振り返るのは、“動産活用”の提案。建物に見えるものは、すべて移動可能な車輪付きのトレーラーとタイニーハウスで“不動産”ではなく“動産”なのだ。建物をつくり込むのではなく、動産を使ってフレキシブルなスペースが活用できることで空き地やデッドスペースの使い方に、新たな可能性を示した。この空間を通して、YADOKARIが5年にわたり発信してきた“新しい住まいと暮らしのカタチ”を肌で感じることができる。
店舗を飛び出し、街に進出するYADOKARIのコミュニティビルダーまた、ハードだけではなく、ソフトの面でも新しい試みに挑戦している。それは、人と人とをつなぐ“コミュニティビルダー”の存在だ。
「スタッフには、訪れる人とのコミュニケーションを一番大事にしてほしいと伝えています。配膳係やキッチン担当といったポジションにかかわらず、『とにかく話しかけてみて』って。だから皆、接客中なのにお客さんの隣に座って、しゃべっていますよ。
テーブルに一人でいるお客さんがいたら、『今日どちらからいらっしゃったんですか?』とか、好きに話していいよと。そこで話して、楽しい時間だったねって言ってもらえれば全然OKだよって」(ウエスギさん)
コミュニティビルダーのキャラクターもさまざま。店長の熊谷さんは自転車での日本一周や海外周遊経験があったり、メンバーの柴田さんはゲストハウスやシェアハウスの運営経験があったりと、さまざまな国や文化、人種に触れた経験をもつ好奇心旺盛なメンバーを集め、訪れる人と積極的につながることで、リアルなコミュニティの場としての発展を目指すというわけだ。
「宝田恵比寿神社に参拝しにきた近所のおばあちゃんが、ふらっと立ち寄ってコーヒーでも飲みながら、メンバーと話をしている。一番見たいのはそんな光景ですね」(さわださん)
とはいえYADOKARIは、地域ではいわゆる“新参者”。日本橋に暮らす人たちは、すんなりと受け入れてくれたのだろうか?
「確かに伝統的な“粋(いき)”が大事にされていて、何百年も続く老舗や名店が立ち並び、長い文化や歴史があるなかで、自分たちの立ち位置をしっかり認めてもらいたいと思っています。ただ、一度でも『こいつら粋だね』って思っていただけると、すごくいろいろなサポートをしてくださるんです。例えば、タイニーハウスやトレーラーハウスについて、先に町会長さんが役所の皆さんにフォローを入れてくださるなど、とても力になっていただいているのはうれしい限りです」(さわださん)
「不動産ではないんですが、じつはトレーラーを入れる前に街の方々をお呼びして地鎮祭やあいさつ回りを実施しました。その後に、町会長さんや街の方々が飲みに来てくれて『頑張ってるか?』と声をかけてくれたり、そこでお酒を酌み交わしたり。今思えば、ちょっとした街ぐるみのお付き合いがコミュニティビルドのスタートだったんだなと感じています」(ウエスギさん)
そんな「歓迎」の背景には、ある種の“危機感”もあったからでは、とさわださんは見る
「やはりこの街をどうにかしたいという危機感もあって、僕たちに期待してくれていたんだと思います。少し先では大規模開発をして人を呼び込んでいますが、こちらは完全にオフィス街になっていて、昔の活気が薄れてきている状況。それを街の人たちも分かっていて、若手がくることは基本的にはウェルカムなんです。近くのドジョウ屋さんの旦那さんも、『夜に灯が付いているのがすごくうれしい』って、言ってくれています。この40年近くずっと暗かったみたいで、提灯が灯っていると街としての見栄えとか、イメージが変わってくるんだなと思いました。『ここを拠点にいろんな人が集まって来て、またここから周りに広がっていけばありがたいね』って、皆さん街を愛していることが伝わってきますね」(さわださん)
“DIY”ד動産”ד街とのつながり”――『BETTARA STAND 日本橋』モデルを全国に広げたいちなみに、この施設はYADOKARIサポーターズで組織する「小屋部」とも協力し、ワークショップなども数回にわたり開催し、街の皆さんとYADOKARIサポーターズの有志が300人ほど集まって完成させたそうだ。
【動画1】「BETTARA STAND 日本橋」の雰囲気が伝わる動画「僕らが『BETTARA STAND 日本橋』をはじめるにあたって、3000人くらいが登録している『YADOKARIサポーターズ』というソーシャルで生まれたコミュニティがあるのですが、そのコミュニティのメンバーの皆さんにもリアルな場でのイベントなどにも参加してもらうようにしています。行政のやり方って、例えばコンサルを入れて施設を大規模につくって、そこにテナントや人を誘致しましょうっていう、箱ありきでスタートしてると思うんですよね。でも、僕たちは“コミュニティファースト”って言ってるんですけど、今ってインターネットの時代なので、緩くつながれるコミュニティの人たちってたくさんいるじゃないですか?それをリアルな場に持っていくっていう手法が有効なんじゃないかなと」(さわださん)
「コミュニティありきで、街に入っていくって感じですよね。ただ、僕たちYADOKARIのコミュニティも活かしながら、その地域で情熱をもって何か変えたいと思っている人とうまくミックスさせていきたいと思っていています。東京の街の活性化ももちろん大事ですが、地方の活性化こそが本丸だと思っています。『BETTARA STAND 日本橋』は、そのためのベースキャンプにしたいと思っていて、ここでノウハウを貯めつつ、どんどん地方に持っていくっていうことができれば、よりいいなと思いますよね」(ウエスギさん)
施工中には、近隣の住民や通りすがりの人が飛び入りで、手伝う場面もあったという。また、リアルなつながりをオンライン上で展開しようとローカルメディアも発足。コミュニティビルダーが街の人を取材し、記事として配信している。さらに、タイニーハウス内では、“店員不在”の書店も展開。新たな暮らしを知ることができる本を集めているのだが、“賽銭箱”を置くだけ、というチャレンジングな試みも面白い。
「人と人とのつながりを生むことを最優先に考えると、デザイン自体もさることながら、つくる過程もすごく大事なんじゃないかと。そこで、ここにかかわる人や地域の人たちと一緒につくり上げることで、街にもっと寄り添っていける場所になるんじゃないかと考えました。ここは神社の隣ということもあって、元々みんなが大事にしてる場所です。決して僕らの作品じゃなくて、みんなのものなんです。だったらみんなでつくったほうが、その場所のことを愛せるし、思い入れも強くなるだろうし、もう一度来たいと思えるだろうと」(さわださん)
ゆくゆくは『BETTARA STAND 日本橋』のモデルを横展開していきたいと語るお二人。“人のつながりが生まれる場所を創りたい”、しかし場所があるだけでもダメ、想いがある人だけいても足りない、ではどうするかーー。『BETTARA STAND 日本橋』の試みは、そうした試行錯誤を経て出された、有効な選択肢ではないだろうか。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
172
『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
グルメ・おでかけの人気ランキング
新着
カテゴリ
公式アカウント