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朝日新聞やAERAで連載10周年を迎えた「オチビサン」は、「ハッピーマニア」「働きマン」などで著名な漫画家、安野モヨコさんの作品。安野さんの作品はそれまで、時代を切り取ったエネルギッシュな作風のものが多かった。しかしオチビサンは四季折々の自然や生活をゆったりと描く、読み手がほっと安心できるような物語だ。
その原画展が、安野さんの自宅、鎌倉の「アンノ邸」で2017年5月23日から29日まで開催されている。早速駆け付け、安野さんの描く原画の鮮やかさ、住まいの隅々まで行き届いた美意識と世界観に浸ってきた。
原画の鮮やかさ、細やかさに感動。10周年ならではの作品展示も
さっそく期間限定のイベント初日に現地へ。今回は「オチビサン」10周年記念ということもあり、見どころもりだくさん。色鮮やかで優しいタッチでおなじみの「オチビサン」原画のなかには、初公開となる第8巻掲載の原画もあった。
独特の鮮やかな発色を生み出すポショワール技法については制作過程や道具類を紹介。ポショワール技法とはフランスで確立された、金属板を型抜きしてステンシルのように絵に着色をしていくもの。その技法を用いて、安野さんは、型紙の上からインクパッドで色を重ねて厚みの色味を表現していくのだとか。
今回は、そのポショワール技法で描かれた美人画や植物画も展示されている。さらに原画だけでなく、参考資料にした蔵書など、作品づくりに関わるさまざまなものが展示されているのが興味深い。
初めて見た安野さんの原画は、新聞や雑誌などの印刷物のイメージよりはるかに細かく、色合いも繊細でグラデーションが美しい。思わず見とれてしまう。「オチビサン」のトレードマークの赤も、いつも同じ色ではなく、季節やテーマカラーによって微妙に色合いが違い誌面がきれいに仕上がるようにしているとのこと、確かに比べてみると違いが分かる。
庵野&安野夫妻の「アンノ邸」はこだわりあふれる和洋折衷な古民家「オチビサン」10周年記念原画展のもう一つの見どころはアンノ邸。安野モヨコさんと映画監督である夫の庵野秀明さんが住む家が原画展の会場だ。しかも、この期間だけ、一般に初公開している。この古民家に一目惚れして鎌倉暮らしが始まったのが2006年春、「オチビサン」連載開始が2007年。まさにこの場所でオチビサンは生まれたのだ。
夫である庵野さんが昭和レトロな風情と松の樹に一目惚れしたこの古民家は、安野さんのセンスがふんだんに注ぎ込まれて大改造された。1階は壁を取り払い柱だけ残し、キッチンの位置も変え、天井も高くして気持ちのいい大空間に。インテリアは和洋が程よいバランスで細工も美しく、どこか懐かしい雰囲気でありながら安野さんの世界観が反映された空間だ。オチビサンの舞台でもあるこの昭和レトロな古民家ほど、原画展開催にふさわしい場所はない。
鎌倉駅からアンノ邸への道中も「オチビサン」の原風景と自然に癒やされる鎌倉駅からアンノ邸まで約15分の道中も、「オチビサン」の場面が浮かぶ場所がそこここに。改めて鎌倉の暮らしを丁寧に描いているのだな、と実感した。実際、アンノ邸周辺も緑豊かでフォトジェニックなスポットが多すぎて、カメラマンも迷うくらい。現地に着く前から、ワクワク、ホッコリしちゃう環境なのだ。そしてその緑豊かな中、樹々に隠れるようにして、木造の古民家アンノ邸はたたずんでいる。
「オチビサン」は、安野さんの「くたびれ果てている読者が、1ミリでも回復してもらえるものを描きたい」との思いから始まったという。病気でほかの連載を休んだ安野さん自身、唯一描き続けたのもこの「オチビサン」。「描いていると私自身が安らいで、描くことによって救われている」と話す作品。実際、現地に身を置いてみて、納得。安野さんの世界観に浸る癒やし満載の鎌倉散歩、オススメです。
●オチビサン展 at 鎌倉「アンノ邸」この記事のライター
SUUMO
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