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札幌から特急で25分の場所にある岩見沢は、ときどき全国ニュースでも話題になるドカ雪地域。東京生まれでスキーもほとんどやったことのないわたしにとって、この地の冬は未知の体験の連続! 移住から5年が経ち、自分なりに考えた雪との付き合い方についてご紹介します。
積雪が2m超え! 移住した最初の冬は記録的な大雪
北海道有数の豪雪地帯として知られる岩見沢に移住して、最初に迎えた冬は、かつてない大雪に見舞われた。2012年1月中旬のこと。積雪が2m近くに達し、市内の交通網はほとんどストップ。道の災害派遣要請を受け、自衛隊が除雪作業にあたるほどだった。
東京で生まれ育ったわたしは、それまで雪というものをほとんど知らなかった。東日本大震災を機に暮らしの在り方を変えようと東京を離れる決意をし、夫の実家である岩見沢に義父義母をたよって移住したのが5年前。震災から約5カ月という慌ただしい引越しのなかで、雪が暮らしにどんな影響を与えるのか、まったく想像が及ばないなか、記録的な大雪の洗礼を受けることになったのだ。
ただ、このとき大雪警報は出ていたものの、わたしはとくに恐怖を感じることはなかった。台風などの災害に比べて、降雪というのはとにかく静か。カーテンを閉めていれば外の状況はほとんどつかめない。
雪の多さに気づいたのは、朝、家を出たときだった。子どもを車で保育園に送るのにいったいどのくらい時間がかかっただろう。主要道路は深夜のうちに排雪されるが、道路に出るまでのアプローチにたまった雪は、自分たちで取り除かなければならない。埋まった車を掘り出し、道路までの雪をはねる(地元の人は「雪かき」ではなく「雪はね」と言う)。わたしはほとんど見ているだけで、がんばったのは夫だったのだが、登園までに1時間以上はかかった記憶がある。
除雪でたいへんなのは、雪の捨て場所を探すことこんなふうに2012年は記録的な豪雪となったわけだが、それ以降の年も雪の量はかなりのもの。昨年の降雪量の合計は約6.5m(2015年11月〜2016年3月)。一般的なマンションでいうと2階の天井ほどの高さにもなる。これだけの量の雪を、いかに捨てるのか。この地に移住してよく分かったことは、雪をはねることよりも、捨てることのほうが重大な問題だということだ。家の脇に置ける雪の量は微々たるもの。屋根から落ちてくる雪の量は半端ないし、日中も氷点下のため積み上げた雪はほとんど溶けない。道路脇の雪なら行政から委託を受けた業者がダンプカーで雪捨て場へと運んでくれるが、敷地内の雪はたまっていく一方なのだ。
移住当初に住んでいた家は、隣の家との距離が近い市街地だったため工夫が必要だった。幸いなことに道路を挟んだ向かいが空き地だったため、雪を捨てさせてもらうことができた。ただ、スペースにも限りがある。2月ごろになると雪が山のようになってしまうため、山に道をつくってより奥側に雪を捨てられるようにしていた。除雪用ダンプ(ソリに持ち手がついたような形状のもの)に雪をたっぷり積んで坂をのぼる作業は、かなりの重労働!
家の建っている状況によって、雪はねの方法やたいへんさには大きく差があり、岩見沢で家探しをする場合は、除雪がしやすいかどうかも選択基準の一つと言える。
2年前にわが家は同じ市内で引越しをし、隣の家との距離がグッと離れた。正面と裏の空き地に雪は捨て放題! 念願だった家庭用除雪機も購入(約30万!)し、除雪の効率アップが図られている。
たいへんだからこそ生まれる、近所付き合いこのように除雪には、どうしても“たいへん”というイメージがつきまとうが、だからこそ地域の助け合いが生まれることも知った。
大雪の翌日、近所の人がいっせいに除雪作業を始めることがある。ときどきわたしが慣れない手つきで除雪をしていると、隣のおばちゃんが力を貸してくれることもあるし、「今年は雪が多いね〜」なんて会話に花が咲くことも。また、夫は一人暮らしのおばあちゃんの家の除雪を手伝っており、お礼にビールや晩のおかずを頂くこともあった。都会では、隣にどんな人が住んでいるのか分わからないことも多いが、除雪によって近所の人たちが顔を合わせる機会がつくられているのだ。
もう一つ雪があるからこその楽しみは、スキーなどウインタースポーツを気軽にできることだろう。しかし、わたしが驚いたのは、家の前でも十分に雪遊びができることだった。除雪によってうずたかくつまれた雪は、格好のすべり台(ちょっとしたプライベートゲレンデ)。ソリで滑れば、相当なスピードが出るので、子どもたちは大はしゃぎだ。
また、3月くらいになって近くの山に遊びに行くと、雪がほどよく圧雪されており(地元の人は「カタ雪」と言う)、雪の上を歩くためのスノーシューなど専用の靴をはかなくても歩くことができる。雪のない時期、手入れをしていない山はやぶになっていて歩くのは難しいのだが、雪があるほうがかえって入りやすいのだ。
ドカ雪とともに気になる寒さ。果たして耐えられるのか?東京の友人と北海道へ移住した話をしていると、よく耳にする言葉がある。「北海道はいいところだけど、寒さが苦手だからとても住めない」
確かにわたしも寒さは苦手で、朝晩の冷え込みがマイナス10度以下と聞くと、どんなに防寒しても耐えられないように思っていたのだが、移住してすぐにまったく心配ないことが分かった。
まず、北海道の家の多くは、窓が二重で断熱対策が行き届いており、ストーブも寒冷地仕様。給排気筒が取りつけられているので、窓を開けて換気しなくても大丈夫。また、寝ている間も暖房は切らない家が多く、室内は東京の感覚からすると、はっきり言って暑いと思う(家のなかでセーターは着ない)。
では、外に出た場合はどうか。日中も氷点下のなか、ずっと外にいるのは厳しいが、たいていは車移動になるので、東京で暮らしていたときのように長い時間外を歩くということがない。しかも、秋から徐々に寒さに慣れているので、不思議とそれほど寒く感じないのだ。
近所のおばちゃんたちにいたっては、朝のゴミ捨てのときに、パジャマ姿で外に出てくる人もいるくらいで(これはさすがにわたしにはムリ)、こちらにずっと住んでいる人たちは寒さよりも暑さが苦手な人がほとんど。わたしも最近、だんだん夏に嫌悪感を抱くようになっていて、人の体は環境に適応するんだなあと、しみじみ思う。
夏はしっかり働き、冬はスローライフ。四季に応じた暮らしをここまで除雪や雪の楽しみ方について紹介してきたが、移住者がドカ雪地域で暮らすために最も重要な点は、実はメンタルな部分ではないかとわたしは思っている。
北海道に移住をしたものの、冬の鬱々(うつうつ)とした状態に耐えきれなくなって都会に戻った人の話を、これまで何度か耳にしたことがある。岩見沢の雪の時期は12月から4月と本当に長い。冬は晴れ間が少なく、朝は7時になっても暗く、午後3時を過ぎると薄暗い印象になってしまう。
わたしも移住した最初の冬に、朝、目が覚めると吐き気やめまいがして、なかなか仕事が手につかない状態に陥ってしまったことがある。いまにして思うのだが、あのとき夏と同じように、冬も夜遅くまで働いていたことが原因になったのではないかと考えている。
当時、わたしは東京の出版社に籍を置き、在宅勤務という形で本の編集を行っていた。仕事に関係する人たちは、みな夜遅くまで働いており、深夜にメールのやりとりをすることもしばしばだった。こうした人たちとペースを合わせていたことが、自律神経のバランスを乱すことにつながったのだろう。それからというもの、雪のある時期とない時期では、暮らし方を変化させていったのだ。
参考にしたのは、この地域の農家の友人たちの働き方だ。友人たちの多くは、春から雪が降るまでは、日中ずっと畑に出て、夜には野菜のパック詰めなどを行い、土日もなく働いている。反対に冬は、除雪のアルバイトに出る人もいるが、夏よりもゆったりと過ごしている(まさに冬ごもり)。
この緩急が非常に大切なのではないかと思う。わたしも冬はできるかぎり早寝をし、四季を感じる生活を強く意識するようになった。
四季の変化を体で感じられる幸せが、ここにはあるそして、移住して5年がたったいま、雪が多く冬が長いことは、そんなに悪くないと思えるようになった。その一番の理由としてあげたいのが、劇的な春の訪れを味わえることだ。まだ雪の残る3月下旬から4月にかけて、北へと渡っていく白鳥の群れを見つけたら、春がもうそこまで来ている合図。それからほどなくして、雪の間からフキノトウが顔を出し、やがて雪が地面からなくなると、庭にはいっせいにスイセンやチューリップが咲き、一週間ごとに次から次へとせわしなく別の種類の花が見ごろとなる(北海道では梅も桜も同時に開花)。
真っ白い雪に覆われていた大地に現れる花や緑の色は、東京で見ていたときよりも何倍も鮮やかに感じられるから不思議だ。そして、こんなにも春の訪れが心躍る出来事なんだということを、この地に来て初めて実感できたのだった。
都会から田舎の移住先を検討するとき、豪雪は恐らくマイナスポイントになるだろう。確かに高齢になってからも、ここにずっと住み続けられるかは分からない。ただ、いまは、雪に寄り添い四季を感じる暮らしを楽しみたいと思っている。
住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナルこの記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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