/
敷地400坪って言われてもなかなかピンと来ないのだけど、畳の枚数にして800枚分ということらしい。ちなみに0.6坪は一畳強。ITエンジニアとして東京から島根にやってきて、いきなり約670倍のマイハウスを手に入れてしまった男がいると聞いて、面白半分、見にいってきました。(島根に移住[上]はこちら)
こんなの見たことない。日本庭園を擁する築150年のITラボ。
島根県松江市の玄関口、JR松江駅から車で約10分。あっという間に都会の風景は消え去り、一面、水田が広がる景色へ。車一台がようやく通れるような旧道を分け入ると、なにやら豪農屋敷風の建物に到着。重厚な門の横には「風神坊」と書かれた看板が……。そう、ここがくだんの男が暮らすという、ガリレオスコープ(株)の島根ラボである。
門をくぐって、朝露に濡れた飛び石をたどっていくと大きな母屋へ。出迎えてくれたのは、同社のマネージャ兼Webエンジニア、そして風神坊館長の小嵜英治さんだ。訪問したのは初冬の朝、朝日に照らされたこけむした庭岩から、モワモワと水蒸気が立ち昇っている。そう、このラボにはバカでかい庭があるのだ。400坪の敷地を持つ、築150年の古民家。それが同社島根ラボの実態だ。
さっそく小嵜さんに、この古民家について案内してもらう。6畳の畳の間がドーンと連なり、台所スペースも、浴室洗面所もハンパなくデカい。おそらく、玄関が小嵜さんが東京で暮らしていた部屋と同じくらいの広さじゃないだろうか。
小嵜さんは、どうして島根に住むことに?「オーナーさんが、手入れが大変だということで埋めてしまった庭の池も、それなりの費用をかけて元に戻したんですよ。でも、お金をかけて手を入れたのはそれくらいですね」と小嵜さん。もともと、同社の社長が島根へのサテライト展開を計画しているなかで出合ったというこの物件。ほとんど修繕不要なほどきれいに管理されており、古民家好きの社長は即決したと言う。
そのころ、まだ東京本社に勤めていた小嵜さんに、社長が声をかけたのは2014年の春だった。「田舎に住みたいって言ってたよね。島根に行ってくれる?」。念願かなうとはいえ、島根なんてそれまで行ったことも興味を持ったこともなかった小嵜さん。ネットであれこれ下調べをして、あっという間の赴任だったそうだ。
もともとバックパッカーで、放浪気質のある小嵜さん。ロンドンで1年間、語学留学したり、東京で外国人とルームシェアをしたりと、住む場所にはそれほど執着はなかった。島根に来る前も、会社が近いという理由で0.6坪の部屋で十分だった彼にとって、仕事場兼住居といっても、400坪は途方もない広さだ。仕事は主に、別棟の部屋で取り組むことが多く、この母屋は、地元の大学生や高専生たちを招いて、ハッカソン(※IT技術者が集中的に作業をするイベント )などの技術交流イベントや、地域交流の場として活用するのだそうだ。
「庭の手入れとかは確かに大変ですね」落ち葉を掃除したり、庭木を剪定(せんてい)したり、池を掃除したり。それもまた小嵜さんの館長としての役目。風流な庭は、眺めるぶんには申し分ないが、これを維持管理しながら暮らすのは結構なパワーを必要とするのは間違いない。
実際のところ、ここでの仕事&暮らしはどうなのか? 小嵜さんに率直な感想を聞いてみた。
あなたがもし、田舎に合うエンジニアなら移住する価値はある初めて島根に赴任してからの1週間で「松江って、なんて人のいない街なんだ」と驚いたという小嵜さん。しかし、風神坊での暮らしを始めてみると、都会にはなかったコミュニティの存在に気付くことになったという。
「地域の青年会にも参加してますよ。結構活動が盛んなんですけど、全部にかかわるのは無理なので、自分のできる範囲で、気楽にゆるくかかわらせてもらってます」と話す小嵜さん。例えば、公民館での夏祭りには率先して参加。地元大学生たちと一緒にLEDチップを使った肝試しや射的の企画を持ち込み、地域の子どもたちに楽しんでもらっているのだそうだ。
「暮らし始めて気付いたんですけど、地方都市の規模感って魅力ですね。その地域のキーパーソンにも大都市とは比べ物にならないくらいつながりやすいし、物事が進むのがとても速い。ビジネスでもプライベートでも、ストレスがないんですよ」。仕事においても、地域とのかかわりにおいても、小嵜さんに限っていえば、ストレスフリーな暮らしが楽しめているようだ。
彼に地方でのエンジニアライフのコツを聞いてみた。「もちろん、僕みたいに”田舎に合うエンジニア”もいれば、そうでないエンジニアもいると思うので、全ての人にお勧めできるわけではないですけど、地域と上手にかかわって楽しむことができる人には、地方に移住して働くというのもアリだと思いますね。とにかく一度、一週間くらい滞在してみるといいですよ。そうすれば住人目線で街のことがある程度見えてきますから」。小嵜さんの言葉は、エンジニアに限らず、移住を希望している人全てに当てはまるのかもしれない。
取材の終わりに、小嵜さんが最近始めたという自家栽培の畑に案内してもらった。古民家オーナーの畑の一角を借りて野菜を育てている。次はニンニクを育てる予定だとか。「仕事の合間の気分転換に、こういうこと都会じゃできないですしね」と小嵜さん。松江に来て初めてマイカーも手に入れ、田舎での生活を満喫している彼。「楽しいの?」なんていうのは、余計な心配だった。
●取材協力この記事のライター
SUUMO
172
『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
グルメ・おでかけの人気ランキング
新着
カテゴリ
公式アカウント