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「住まいのホンネQ&A」は、誰もが知りたい住宅に関する様々なQ&Aについて、さくら事務所創業者・会長の長嶋修氏にホンネで回答いただく新連載です。
第1回の質問は「東京五輪前に家を買いたい。選び方のコツはありますか?」。
東京五輪前で住宅価格が高騰しているとも言われていますが、人生設計の上でどうしても”いま”家を買いたいのだ、という人もいるでしょう。
そんな時はどうやって選べばよいのか? 五輪にまつわる住宅の「ウソ・ホント」と共に、長嶋氏に解説いただきます。
本当に「高い」のか? 五輪前、不動産市場の真実
オリンピック前に家を買いたいという理由は何でしょうか?
ちまたではオリンピックまでは不動産価格高騰が続くといった意見や風潮がありますが、そのような事実はほとんど見られません。過去のオリンピック開催と経済・不動産市場の関係を調べると、たしかにオリンピック前後で経済や不動産市場が上下動しています。しかしこうした動きは主に新興国や経済規模の小さい国の場合に限られ、先進国・経済規模の大きい国ではオリンピック前後でそれほどの変化は見られません
例えば2012年のロンドンオリンピックにおいて英国政府は「オリンピックが英国不動産市場に与える影響は、なかった」とするレポートを出しています。以上のことから、2020年東京オリンピックが不動産市場に与える影響は、選手村や競技場ができる都心湾岸地区など一部を除いて、ほとんどないと考えてよいでしょう。それよりは、経済動向や人口動態が不動産市場に与える影響のほうが遥かに大きいと思われます。
まずは不動産市場がすでに3極化していること。そしてその傾向は今後ますます強くなるといった見通しを持っておく必要があります。私のイメージでは現在、不動産市場は以下のような割合で構成されていると考えています。
[1]「価値維持ないしは上昇する:10-15%」
[2]「徐々に価値を下げ続ける:70%」
[3]「無価値あるいはマイナス価値に向かう:15-20%」
「価値維持ないしは上昇」というと都心の超一等立地などをイメージするかもしれませんが、必ずしもそればかりではなく、都市郊外でも地方都市でもこうした立地は存在します。最もボリュームが大きいのは「徐々に価値を下げ続ける(70%)」。国内の多くがこれに当てはまります。問題は下落率で、年率2%ずつなのか4%ずつなのかといったところ。最後は「無価値あるいはマイナス価値」ですが、こうしたところに家を買うといったケースは非常にまれでしょう。
本格的な人口減少、少子化・高齢化社会を迎えるにあたり、この3極化傾向はますます強くなると考えてください。
新築マンションが高騰、中古は「新築との価格差」で人気2012年12月の、民主党から自民党への政権交代以降、アベノミクスや黒田バズーカといった経済政策、また人手不足による人件費上昇や建築コスト高騰で日本の不動産価格はほぼ右肩上がりの上昇を続けてきました。しかしその内訳にはかなりの温度差があります。
2017年12月の首都圏新築マンション市場の平均価格は6019万円(出所:不動産経済研究所「首都圏のマンション市場動向2017年12月度」)と、随分と高くなりましたが、とりわけ都区部は7531万円(同)と、サラリーマンには手の届かないところまで高騰しています。ただしその中身を見ると「都心・駅近・一等立地・大規模・タワー」といったワードに象徴されるような物件の比率が高まり、一方で「郊外・駅遠」といった物件の比率が下がっていることが平均価格を押し上げていることにも注意が必要です。新築マンションの発売戸数はなだらかな減少傾向で、価格高止まりのこの傾向は今後も続き、東京五輪以降もこの傾向は続くでしょう。新築マンションはある意味「ぜいたく品」といった位置づけになりそうです。首都圏以外の他都市でもこうした傾向は同様ですが、首都圏ほど上昇しているわけではありません。
一方で中古マンション市場は好調です。その理由は「新築との価格差」。東京都区部などではその価格差は約2000万円、神奈川県・埼玉県などでは約3000万円以上も。こうなると、良質な中古マンションを買ってリフォーム・リノベーションしたほうが家計にも優しい上、自分の思い通りの間取りや内装にできるといったメリットが浮かび上がってきます。新築マンション価格が高止まりする中で中古マンション価格はそれを追うように、なだらかな上昇を継続するでしょう。
ただしその上昇率にもかなりの温度差があり、東京都心3区では政権交代以降60%以上も価格上昇しているのに対し、神奈川県・埼玉県・千葉県の上昇率は20%程度です。
また、駅から求められる距離は年々厳しくなっていることにも注意が必要です。例えば東京都心7区の中古マンションでは、5年前は、駅から1分離れると平米あたり8000円程度下落していましたが、昨年は、駅から1分離れると平米あたり約1万6000円も下落しています。
これは都心に限らずどの地域にも言える全般的な傾向です。
一方で一戸建市場に顕著な兆しは見られませんでしたが、2017年あたりから上昇傾向にあるのが見てとれます。これは、マンション価格が上がりすぎたことによる相対的な割安感や、日銀によるゼロ金利政策から住宅全般が買いやすくなったことなどが主な理由であると思われます。
低金利というのは言うまでもなく家計に優しく、家を買うにはもってこいの状況であるといえます。固定金利にしておけば、後の金利上昇も怖くありません。そうした意味では、低金利の今は買い時と言っていいでしょう。
では金利はいつ上昇するか。正確に時期を読み取ることはできませんが、今後景気が良くなっても悪くなっても金利は上昇します。景気が良くなりインフレ率が高まれば、それに応じて日銀のゼロ金利政策が解除される可能性が高まりますし、景気が悪化し日本国債の信任が失われるようなことがあれば、現行の金利水準を維持することができなくなる可能性が出てきます。いずれにせよ現在のような低金利がいつまでも続くとは思わないほうがいいでしょう。
ところで金利の上昇は、不動産市場には大きな下落圧力です。これは、住宅購入者の購買力が減退するため。3000万円を期間35年、金利1%なら毎月の支払いは約8.5万円で済みますが、3%に上昇すると約11.5万円と、毎月3万円、総額では約1300万円も増えてしまいます。低金利の恩恵を受けていま家を買う人も、こうした事態に陥っても価格が落ちない、落ちにくい立地を選んでおく必要はあります。
オリンピック前の2019年10月には8%から10%への消費増税が控えています。これまでは増税前に駆け込み需要があり、その後反動で市場が落ち込み価格が下がるのがセオリーでした。次もおそらくこうした動きは起こりそうですが、前回より消費税率の上げ幅が少ないこともあり、それ程大きな影響はないものと思われます。価値が落ちない家を買うことに注力しておけば2%程度の消費増税も誤差の範囲といえ、あまり気にする必要はないでしょう。
では具体的にどんな立地を選べばいいのか。またどんな建物なら価値が落ちにくいのかなどについて、次回コラムでお伝えします。
長嶋 修 さくら事務所創業者・会長この記事のライター
SUUMO
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『SUUMOジャーナル』は、魅力的な街、進化する住宅、多様化する暮らし方、生活の創意工夫、ほしい暮らしを手に入れた人々の話、それらを実現するためのノウハウ・お金の最新事情など。住まいと暮らしの“いま”と“これから= 未来にある普通のもの”の情報をぎっしり詰め込んで、皆さんにひとつでも多くの、選択肢をお伝えしたいと思っています。
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