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近年、注目が集まる『ふるさと納税』。何となく「ふるさと納税は良さそうだ」と感じているかもしれませんが、金額無制限で行えば良い訳ではないですし、確定申告等の手続を踏むことも必要です。また、減給、途中退職などがあると自己負担額が増えることも。そこで今回は、損しないふるさと納税についてをお話ししたいと思います。
ふるさと納税はそもそも「地方出身者で都会に出てきた人が、納税を通じて出身地に貢献したい」という発想から生まれた制度です。
実際には、出身地のみならず、自分が応援したい自治体を選べます(つまり、どの自治体にでもできる、ということです)。
そんなふるさと納税、いったい何が魅力なのでしょうか。
①ふるさと納税の寄付を支払うことで、所得税<注1>および翌年の住民税<注2>、ないしは翌年の住民税<注3>が減額される(ただし後述の通り、"節税"ではありません)
②好きな地域に貢献できる
③何といっても、お礼の品がもらえる
次はふるさと納税の手続の流れについてです。
原則として、次のようになります。
① ふるさと納税を行う自治体を決める
② 申込および寄付金の支払
③ 証明書およびお礼品の受取
④ 確定申告
また、要件に該当する場合、確定申告不要なワンストップ特例<注4>、という方法も選択可能です。
手順は次の通りです。
① ふるさと納税を行う自治体を決める
② 申込および寄付金の支払
③ 証明書およびお礼品の受取
④ 申請書を寄付のつど、寄付先の自治体に送る
なお、ワンストップ特例を選択する場合、ふるさと納税を行う都度、申請書を提出しなければならない等、手続きが煩雑になります。
また、医療費控除等が必要な場合には、どのみち確定申告が必要になります。
私見になりますが、ワンストップ特例の選択が可能であっても、確定申告による手続きをお勧めします。
いずれにしても、いくらふるさと納税で自治体に寄付しても、確定申告ないしはワンストップ特例の手続まで行わなければ、単なる払い損になりますので、くれぐれもご注意ください。
以上が、ふるさと納税の概略になりますが、いわゆる"節税"になるわけではありません。
つまり、確定申告等の手続を行うことで、所得税や翌年の住民税を減額できるのですが、そもそもその大前提として、自治体にふるさと納税分を寄付していますので、早い話、ふるさと納税で支払った相応分の一部が所得税・住民税を介して戻されるだけです。
"節税"しているわけではないのです。
そこで「なんだ!ふるさと納税しても何の得もないのか?!」と感じるかもしれませんが、そうではありません。
というのも、『ふるさと納税額から自己負担2,000円を控除した全額を、所得税・住民税から控除できる範囲内』でしたら、実質2,000円の負担で寄付をした自治体からお礼の品がもらえるからです。
ここでポイントになるのが、『ふるさと納税額から自己負担2,000円を控除した全額を、所得税・住民税から控除できる範囲内』がいくらなのか、つまり『自己負担2,000円だけで済む上限額』を把握することです。
その計算式は、下記①と②の合計額になります。
①(個人住民税所得割額×20%)÷(100%-基本分10%-所得税率×復興税率1.021)
② 自己負担2,000円
例えば、給与年収400万円(源泉徴収票「給与所得控除後の金額」記載額2,660,000円「所得控除の額の合計額」記載額980,000円、住民税所得割額<注5>173,000円)の場合で計算してみます。
この場合、下記の計算式の通り、①40,756円+②2,000円=42,756円が、自己負担2,000円だけで済む上限額となります。
①[173,000円(住民税所得割額)×20%]÷[100%-10%(基本分)-5%(所得税率)注5×1.021(復興税率))]=34,600円÷84.895%=40,756円
②自己負担2,000円
もし計算が面倒でしたら、総務省サイトに上限目安がありますので、そちらをご参照ください。
「総務省 ふるさと納税ポータルサイト 全額控除されるふるさと納税額(年間上限)の目安」
なお、上限額を超えて、ふるさと納税を行った場合はどうなるのでしょうか?
その場合は、『ふるさと納税額-上限額』の差額部分は、単に自腹を切って寄付しただけということになります。
上記の給与年収400万円の例を使って説明します。
ふるさと納税を4万円した場合は、上限額42,756円以下なので、自己負担は2,000円。
他方、上限を超えてふるさと納税を45,000円を行った場合は、45,000円-42,756円=2,244円になり、自己負担額は2,000円+2,244円=4,244円になってしまいます。
ですので、いたずらに自己負担額を増やさないためにも、ふるさと納税を行う際には、上限額を意識するように心がけてください。(もちろん、純粋に自治体に寄付したい、と考える方は、その限りではないですが…。)
以上、ふるさと納税について着目すべき点を見てきました。
重要なこととして、
『税額(所得税・住民税)の負担のある方が対象』
『(自己負担額を増やさないためには)上限額がある』
が挙げられます。
そこで、出産などで途中退職した場合に起こり得るデメリットについて、どのような注意点があるのか見ていくことにします。
まずは、途中退職した結果、その年の給与が100万円以下になった場合など、所得税や住民税がそもそも発生しない可能性。
その場合には、ふるさと納税によって減額すべき税金がありませんので、ふるさと納税を行っても、その分が丸々単なる負担になってしまいます。
また、産休などでの途中休職、ボーナスの減少など、その年の所得税や住民税は発生するけれど、当初の見込みよりも低くなることも十分に考えられます。
その場合には、ふるさと納税の上限額も、当初の見込みよりも低くなります。
例えば、当初は年収500万円で上限額を61,000円程度で見込んでいたところ、途中退職の影響で年収が300万円になる場合には、上限額は28,000円程度に下がります。
当初の見込みに基づいて、ふるさと納税を6万円行っていた場合、当初の見込み通りでは自己負担2,000円だけ済むところ、途中退職により、結局は自己負担が34,000円に増えてしまった、ということになってしまいます。
以上のようなデメリットが考えられますので、出産等による途中退職が想定できる場合、ふるさと納税を検討されるならば、下記の対応を検討しましょう。
・退職により変動する給与額の目途がつく場合には、その範囲内にとどめておく
・旦那様名義でふるさと納税を行う(旦那様の所得税・住民税額や、上限額を踏まえて検討してください)
・所得税・住民税が発生しないならば、ふるさと納税は行わない(もちろん、純粋にその自治体に寄付したいという動機がある場合は、その限りではありません)
昨今、総務省が全国の自治体に「返礼品の価格について、寄付額の3割までに抑えるよう」に要請しているために、返礼品の価格が抑えられる前に駆け込みでふるさと納税を、と考えている方もいらっしゃると思います。
また今後年末になって慌ててふるさと納税を、と考える場合もあるかと思います。
ですが、以上で見てきたように、きちんと計算をしないと思ったようにならないこともあり得ます。
せっかくのふるさと納税を有効に活用するためにも、今回の内容を踏まえて検討していただければと思います。
<注1>寄付金控除(所得控除)「(ふるさと納税額-2,000円)×所得税率*」分、所得税が減額される。なお、控除の対象となるふるさと納税額は、総所得金額等の40%が上限。※平成50年度までについては,復興特別所得税を加算した率
<注2>下記①と②の合計額分、住民税が減額される。
①住民税からの控除(基本分)=(ふるさと納税額-2,000円)×10%
なお、控除の対象となるふるさと納税額は、総所得金額等の30%が上限。
②住民税からの控除(特例分)=(ふるさと納税額-2,000円)×(100%-10%(基本分)-所得税の税率※)
この特例分が住民税所得割額の2割を超えない場合(住民税所得割額の2割を超える場合は、住民税所得割額×20%)
※平成50年度までについては,復興特別所得税を加算した率
<注3>確定申告に代えてワンストップ特例で手続する場合、下記①~③の合計額分の住民税が減額される。
①住民税からの控除(基本分)=(ふるさと納税額-2,000円)×10%
なお、控除の対象となるふるさと納税額は、総所得金額等の30%が上限。
②住民税からの控除(特例分)=(ふるさと納税額-2,000円)×(100%-10%(基本分)-所得税の税率※)
この特例分が住民税所得割額の2割を超えない場合(住民税所得割額の2割を超える場合は、住民税所得割額×20%)
※平成50年度までについては,復興特別所得税を加算した率
③住民税特例控除額(上記②)×所得区分に応じた割合
<所得区分に応じた割合>(広島県「ひろしま応援寄附金サイト」より抜粋)
195万円以下の金額 5/85
195万円を超え330万以下の金額 10/80
330万円を超え695万円以下の金額 20/70
695万円を超え900万円以下の金額 23/67
900万円を超える金額 33/57
<注4>確定申告の不要な給与所得者等で、1年間の寄附先が5自治体まででふるさと納税を行う場合に、確定申告をしなくても、ふるさと納税の寄付金控除を受けられる制度。
お住いの市区町村から送られてきた住民税通知書等に明記、また、住んでいる市区町村にて課税証明書の発行を受ければ明記されている。
<注5>給与所得者の場合、勤務先発行の源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」記載額から、「所得控除の額の合計額」記載額を差し引いた残額を、次の一覧に当てはめることで求める。
本文の例の場合、266万円-98万円=168万円で、5%になる。
<課税される所得金額と税率>
195万円以下 5%
195万円を超え 330万円以下 10%
330万円を超え 695万円以下 20%
695万円を超え 900万円以下 23%
900万円を超え 1,800万円以下 33%
1,800万円を超え 4,000万円以下 40%
4,000万円超 45%
この記事のライター
渡辺順也
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昭和49年4月20日生まれ。早稲田大学大学院法学研究科民事法学専攻修士課程修了。早稲田大学卒業。静岡県出身。東京都内の会計事務所にて経験を積み、2006年12月20日税理士登録完了、2007年1月に吉祥寺にて独立開業。現在、開業して10年を経過。これまでに数多くの法人・個人の税務顧問・確定申告業務、節税対策や資金繰り等の各種コンサルティング、相続案件、起業支援等に携わる。事業者ご家族の個人的な相談にも応じ、その他各種講演活動も行う。
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