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夏休み真っ盛り!自由研究のテーマに「からだの錯覚」はいかがでしょうか?「からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議」(講談社)の著者で、世界的にも珍しいからだの錯覚を研究する小鷹研理先生に「からだの錯覚とは?」から親子で試したい錯覚体験、自由研究のヒントをうかがいました。前後編にわけてお届けします。
小鷹研理先生は名古屋市立大学大学院芸術工学研究科准教授で、 認知科学研究者。小鷹研究室は日本で唯一の「からだの錯覚」を中心テーマとする研究室です。世界のすぐれた錯覚を集めた国際コンテスト 「ベスト・イリュージョン・オブ・ザ・イヤー」 に4年連続で入賞。4月には著書「からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議な世界」 (講談社)を出版されました。
そんな小鷹先生に、さっそく「からだの錯覚」とは何か教えてもらいましょう。
――「錯覚」というと、同じ大きさのものがちがって見えたり、静止画のうずまきが回っているように見えたりする目の錯覚をイメージします。
小鷹先生確かに、錯覚といえば目の錯覚を思い浮かべる方が多いと思います。これは視覚に起こる錯覚で「錯視」といいます。僕が研究しているのは「からだの錯覚」。自分のからだはどこからどこまでか、皮膚はどんな感触か、といったからだの感覚に起こる錯覚です。
――「視覚」ではなく、「触覚」に起きる錯覚ということでしょうか。
小鷹先生からだの感覚は触覚だけではありません。オーケストラで楽器が正しく響き合って心地よい音楽が生まれるように、触覚と視覚、運動感覚、固有感覚というさまざまな感覚が合わさって、からだの感覚が成り立っています。日頃はバランスがとれている感覚が、ひとつでも崩れたらどうなるでしょうか?次で紹介する錯覚体験で確かめてみてください。
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――それでは、親子で試したいからだの錯覚体験を教えていただきたいと思います。その前に、あらかじめ知っておきたいことなどはありますか?
小鷹先生はい。目の錯覚、錯視は感じる人が多いのですが、からだの錯覚は個人差があり「わからない」という人もいます。それぞれコツも紹介していくので、あきらめずに試してみてください。
――子どもと大人でからだの錯覚の感じ方にちがいはあるのでしょうか。
小鷹先生一般に子どもの方が錯覚を感じやすいと言われています。実際、2017年に名古屋市科学館で参加した企画展示で数百人の来場者に対してセルフタッチ錯覚の感度を調べたところ、20歳未満のグループは、20歳以上のグループよりも、統計的に有意な水準で「錯覚を強く感じる」と答える人が多いことがわかりました。実は、海外の論文の報告では、子どもは実際とは異なるイメージの身体を「ただ見るだけで」錯覚してしまう傾向が指摘されています。いずれにしても、子どもが、実際とは異なる体の図像をより柔軟に自分のものとして引き受けられることは間違いありません。この傾向は、12歳ぐらいまで続くようです。
――お子さんだけ錯覚がわかる、ということもあるかもしれませんが、大人の方もあきらめずにチャレンジしてみてください。
※写真はイメージです
指が長く伸びていく感覚を体験できます。
—————————✅【やり方】2人が対面的に向かい合い、互いに一方の手を差し出し合うレイアウトをとります(図2‒3)。まず、一方の手(図では左手)の親指以外の4本の指を90度内側に回転させ、両者の指の先端がお互いに向かい合うようにして、手の平を下にして机に添えます。この状態で目を閉じ、机に添えていない方の手の指の腹の部分で、相手の(人差し指から小指までの)4本の指を縦断するようなかたちで、比較的高速に前後に擦ることによって錯覚が誘導されます。—————————(『からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議な世界』より抜粋)
『からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議な世界』より
――おすすめの理由を教えていただけますか?
小鷹先生何か準備をすることなく手ぶらですぐにできることと、参加する二人が同時に錯覚を感じられるのが面白いと思います。目を閉じて行う錯覚ですが、左手の指が4本ともにゅ〜っと伸びるビビッドな錯覚イメージを得ることができます。
――親子で同時に錯覚を体験できるのですね。
小鷹先生うまく錯覚できない人は、心の中で「左手の指が4本ともにゅ〜っと伸びる」イメージを強く念じてみてください。これはからだの錯覚一般に言えることですが、錯覚のイメージを頭の中で先取りすることには、明らかに錯覚の感度を高める効用があります。比較的すぐに錯覚できた人は、左右の手の間の距離をどんどん広げていって、どの距離まで指の変形イメージを維持できるか試してみてください。これによって「空想の変形限界」を知ることができます。
※写真はイメージです
耳がありえないほど伸びる錯覚が体験できます。
—————————✅【やり方】
① 体験者は、相手の動きがぼんやり視界に入るようなイメージで、リラックスした状態で前方を向く。実験者は、上の手で体験者の耳たぶを軽くつまんで下に引っ張る。
②(上の手で)つまんだ耳たぶを下に軽く引っ張るのと同時に、ちょうど耳たぶから出ている「見えないヨーヨーの糸」を引くようなイメージで、つまんだふりをした下の手を、めいいっぱい地面に向けて直線的にスライドさせる。
③ 引っ張ったり戻したりを何度も繰り返していると、体験者は、耳たぶが、実験者の手の動きと連動して下側に長く伸び縮みしているような錯覚を覚える。
④ つまんだ耳たぶを引っ張ったままで、空中でスライドさせた下の手をぱっと離すと、耳たぶが伸びたままフリーズするような感覚が得られる。—————————(『からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議な世界』より抜粋)
✅ 詳しいやり方は↓この記事をチェック!▶︎耳がありえないくらいびよーんと伸びちゃう!「ブッダの耳錯覚」『からだの錯覚』#1
――こちらのおすすめの理由は何でしょうか?
小鷹先生こちらも手ぶらですぐにできる体験です。下方向だけでなく、前後上、斜め方向など、いろんな方向に耳を伸ばすことができます。人によって伸びやすい方向が違うので、どの方向がお気に入りかを探る楽しみもあります。
――まさに親子で楽しめる錯覚体験ですね。成功させるコツも教えてください。
小鷹先生耳を引っ張る側の人は、膝の屈伸をうまく使って、耳を引っ張る(上の)手の力と、エアで動かす(下の手)の運動の方向が、正確に連動するように心がけてください。書籍では下側に引っ張る例しか示していませんが、実は耳はどの方向にも変形します。特に、耳を後ろ側に引っ張ると強い錯覚を覚える人が多いようです。ぜひ試してみてください。
――気になる1位は、後編で紹介します。
(解説:小鷹研理先生、取材・文:佐藤華奈子)
「からだの錯覚」を通して人の身体や脳の実態に迫る、認知科学研究者である著者が、からだに起こる不思議な現象を徹底解説。
自分が感覚としてとらえている自分の体と、実際の体が乖離していることを感じたりすることは、誰にでもあること。また、ケガで体の一部を失ったときにないはずの部分に痛みを感じたり、拒食症の人が実際にはやせているのに自分は太っていると感じていたり――そんな例も聞いたことがあると思います。それ以外でも身近にあまり意識しないところで、ちょっとした錯覚を感じることは、実は多いのです。乗り物酔いも、金縛りも、自分の感覚と意識の不一致のようなことから起こる錯覚の視点から説明できます。こういったことがどうして起こるのか、その謎に迫ってみると、生きるために必要な脳の働きなどが見えてくるのです。心と体が離れる「幽体離脱」も科学的に説明できる現象です。オカルトではなく誰しもリラックスしたりするときに起こることがあり、ここでも脳と体に備わったくみが関係しています。
そのような事例を紹介しながらからだに起こる不思議を解説していく1冊。親子で簡単にできる、簡単な錯覚体験も掲載されています。
科学に興味を持つきっかけとしてもおすすめです。
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