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親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回は『古事記』の中から「天岩戸」のお話を取り上げます。実は「きょうだいゲンカ」という側面があって面白いですよ。
『古事記』は神々のお話なのであまり身近に感じられないのでは?と思いがちですが、実はそんなことはありません。今回ご紹介する「天の岩戸」は親子の話でもあり、きょうだいの話でもあり、意外と親近感を持って子どもも楽しめると思います。
『古事記』の「黄泉の国」に続くお話でもある「天の岩戸」。黄泉の国から帰ってきたイザナギから生まれたのがアマテラス、ツクヨミ、スサノオの三きょうだいです。「天の岩戸」の発端はスサノオにあるのですが、どんなあらすじなのか、知っていますか?スサノオとアマテラスの気持ちを踏まえると、話の流れがわかりやすいでしょう。
アマテラスとその弟ツクヨミとは、父イザナギの神の命令に従って、それぞれ大空と夜の国とを治めていました。
ところが末っ子のスサノオだけは、「大海(おおうみ)」を治めよという父の言いつけを聞かず、りっぱな長いヒゲが胸の上までたれさがるほどの大きな大人になっても、赤んぼうのように「お母様に会いたい」と、絶えず泣いていました。そのやかましい泣き声で草木は枯れ、川や海の水も干上がってしまうほど。さらには、これに乗じて悪い神々たちが暴れ、地上にはいろいろな災いも起きていました。
イザナギはスサノオに「なぜそんなに泣いてばかりいるんだ」と咎めますが、スサノオは「お母さまのそばに行きたいからです」と答えます。するとイザナギは「そんな勝手な子はこの国に置いておけない。出ていけ!」と怒りました。しかしスサノオは平気の様子で「では、お姉さまにさよならを言いに行こう」と空の上を上っていったのです。
スサノオが乱暴に歩くので山も川もみしみしと震えます。それに驚いたアマテラスは、弟があんな勢いでやってくるのはただ事ではないと思いました。そして髪をまとめ、矢を何百と背負い、右手に弓を持って弟を待ち構えました。
\ココがポイント/✅末っ子のスサノオは母に会いたくて泣いている✅父イザナギはそれ聞くととても腹を立てスサノオに出ていけと言う✅父に追い出されたスサノオは姉、アマテラスの元へ向かう
アマテラスはスサノオの姿を見ると声を張りあげて、「何をしに来た」といきなり叱りつけました。するとスサノオはこう説明します。
「いえ、私はけっして悪いことをしにきたのではございません。おとうさまが、私の泣いているのをおとおとがめになったので、お母上のいらっしゃるところへ行きたいからですと申しあげると、たいそうお怒りになって、出て行ってしまえとおっしゃるので、あなたにお別れをしにまいったのです」
でもアマテラスはすぐには信用ならないようで「それではおまえに悪い心のない証拠を見せよ」と言いました。スサノオは「ではお互いに子を生んであかしを立てましょう。生まれた子によって、二人の心のよしあしがわかります」と言いました。
そしてその結果、アマテラスは男神を5人、スサノオは女神を3人産み出しました。
スサノオは「そうら、私が勝った。私になんの悪い心もない印に、私の子は、みんなおとなしい女神ではありませんか」と、それはそれは大威張りの態度です。それからスサノオは暴れ出し、しまいにはアマテラスの御殿を汚物(うんち)で汚したりとひどい乱暴を働きます。
しかしアマテラスは怒りません。スサノオはもっと調子に乗って暴れまわり、ある機織りの女は逃げ惑う弾みで機織りの用具がお腹に刺さり死んでしまいました。
\ココがポイント/✅スサノオは警戒するアマテラスに悪い心はないと主張する✅アマテラスとの勝負に勝ったとして暴れ出すスサノオ
アマテラスは弟のあまりの乱暴さにいたたまれなくなり、天の岩戸の中に隠れて、そのままひきこもってしまいました。アマテラスは太陽の神様なので、天上も下界もみんな真っ暗になり、闇の世界となりました。その結果、悪い神が暴れて世界中に災いが起こる事態に。何とかアマテラスを外に出そうと神々は相談します。
ある賢い神様がいいことを思いつきました。さっそくみんなは、まず、にわとりを集めてきて岩戸の前で鳴かせます。そして、天岩戸の前で女神が踊りを始めました。踊り狂う様子に、何千人という神々がどっと噴き出して笑い転げます。
その騒ぎを聞いたアマテラスは、何が起こったのかと気になってきました。
\ココがポイント/✅アマテラスは天の岩戸の中に姿を隠す✅アマテラスは太陽の神なので世界が闇につつまれる✅神々は一計を案じて、岩戸の前で踊りを始める
聞こえてくる楽しそうな声に、ついにアマテラスは岩戸の扉を少し開けて覗いてみました。そして踊っている女神に聞きました。
「真っ暗なはずなのに、お前はなにを面白がって踊っているの?ほかの神々たちもなんであんなに笑いくずれているの?」
女神は「あなたよりももっと貴い神様が出ていらっしゃいましたので、みんなが喜んで騒いでいます」と言いました。それと同時に他の神が鏡をふいに大神の前へ突き出します。すると鏡にはアマテラスの顔が映ったのですが、アマテラスは「おや、これはだれであろう」とよく見ようとして、少しばかり戸の外へ出てきました。
そのときです。さっきから岩戸のそばに隠れて待ちかまえていた力の強い神様がアマテラスを引っ張り、すっかり外へ引き出しました。そしてまた別の神様はさっと戸にしめ縄を張り、「もう中にはお入りになりませんように」と言いました。そして世界はやっと長い夜が明けて再び明るい昼が訪れたのです。
神々たちは相談し、スサノオにはあんなひどい乱暴をした罰として持っているものを差し出させ、ひげと爪を切って下界へ追放しました。
(おわり)
\ココがポイント/✅アマテラスは騒ぎが気になり戸を開ける✅アマテラスは鏡に映った自分の顔を見て誰かいると勘違いする✅スサノオは下界へ追放される
乱暴で子どもっぽいスサノオと、大人らしいアマテラスという正反対のきょうだいがケンカをして(大部分スサノオが悪いのですが)、世の中が巻き込まれてしまうというお話でした。スサノオの乱暴はいただけませんが、彼なりの事情もありそうですね。アマテラスがつい戸を開けてしまうのも、そのときの心情を想像すると面白いでしょう。
お話が終わったあとで、
・父に怒られて追放されたときのスサノオの気持ちはどんなだったと思う?・自分がアマテラスだったら、どんなことがあったら外に出たくなりそう?・アマテラスを引き出すために、他にどんな方法が思いつく?
など聞いてみてはいかがでしょうか。また、岩戸の前で行われていた大騒ぎを再現するのに、コケコッコーなど鳴いてみても良いと思います。
世界や神々を巻き込んだきょうだいゲンカという面もある天の岩戸の物語。穏やかなアマテラスと比べてスサノオの乱暴な部分が少々目立つ部分があるので、スサノオは悪い奴!きらい!と感じるお子さんもいるかもしれませんが、母がいなくて寂しい思いをしてきたと考えると、切なさも感じさせます。また、ヤマタノオロチのお話ではかっこいい場面もあり、一概にただの乱暴者とは言えないという魅力もありますね。
(文:千羽智美)
※画像はイメージです
参考鈴木三重吉『古事記物語』
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