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病気や障害がある兄弟姉妹がいる子どもたちを「きょうだい児」と言います。彼らはきょうだいとの関係性や大人からの対応により、ジレンマを抱えていることも少なくありません。そんなきょうだい児のサポートのために必要なのが、きょうだい児が通う園との連携です。今回は保育者の視点で「きょうだい児支援」を考えます。
本記事は、世界⽂化社・発達支援の保育専門誌「PriPriパレット」2023年10・11月号『見落としていませんか?きょうだい児の気持ち』より一部抜粋してお届けします。
前編>>「きょうだい児」の気持ち…障害がある兄弟姉妹が抱えるジレンマや悩みとは?
保育者のかかわりが、良好なきょうだい関係を築く助けになることも。園ができる支援を考えましょう。
保護者が、家庭で当該児(注)のサポートに注力し過ぎると、きょうだい児と過ごす時間やスキンシップなどが少なくなる場合があります。そのため保育者は、意識してきょうだい児との愛着関係を築き、園が安心できる場となるようにしましょう。
また4〜5歳頃になると、次第に「お兄ちゃんは〇〇が苦手」「なにかが、みんなと違う」ときょうだい児も特性に気づき始めます。当該児の特性を恥ずかしいと思うなど、複雑な感情を抱き始める子も少なくありません。園では、そうした思いをくみ取って「お兄ちゃん、電車の名前をたくさん知っていてすごいね!」などと、当該児のいいところを伝えましょう。当該児にプラスの感情を抱き、自慢のきょうだいと思えるようなはたらきかけを意識するといいでしょう。
注:発達障害や発達に特性がある子を本文中には当該児としています
愛着関係を築くほかに園で大切にしてほしいのは、きょうだい児を個として尊重することです。たとえば、きょうだい児が保育者に「お兄ちゃんがおうちで大きな声で泣き続けるときは、どうしているの?」と対応方法を聞かれて嫌だったというケースがありました。家庭でも、保護者から“おりこうさん”でいるように期待され、園でも頼られることがつらかったようです。
そのような事例もあるため園ではきょうだいを切り離し、個として子どもとかかわり、「先生は、ぼく自身のことをわかってくれる!」と思われるような信頼関係を築きましょう。
保護者が当該児のサポートに注力し過ぎると、きょうだい児と十分な愛着関係が築けないケースも。園では話を聞いたり、触れ合いあそびなどできょうだい児とスキンシップをとったりして安心感を与えて。
保育者からは必要以上に当該児の話をしないように配慮しましょう。また、自分の気持ちを抑えて友だちを優先する様子が見られたら「〇〇ちゃんは▲▲したいの?」と尋ねるなど、個を尊重してかかわるようにします。
当該児の支援で困ったときに「こんなときどうすればいいの?」などと、きょうだい児に聞くのはNG。「②子どもの個を尊重する」とも関係しますが、きょうだい児はサポート役ではありません。支援の仕方で困ったときは、保護者に相談しましょう。
当該児、きょうだい児が同じ園に通っている場合は、担任同士で情報共有を。きょうだい児に気になる様子があるときは、当該児や保護者との関係のほか、その日の家庭での出来事などが影響している場合も。当該児の様子や保護者からの報告など情報を共有して原因を探り、きょうだい児の支援に生かしましょう。
良好なきょうだい関係を築くのは、家庭がベースとなります。そのためには保護者が心身ともに安定していることが大切です。園では、保護者の様子を観察しながら、次の3つのことを意識してサポートをしましょう。
きょうだい児の保護者との個人面談では、きょうだい関係の悩みなども聞いて、園でできる支援を考えましょう。きょうだいが同じ園に通っている場合は、保護者からの希望があれば、きょうだい児・当該児の担任と保護者で面談をしても。保護者にとって、園が相談しやすい場所になるような態勢をつくりましょう。
お迎えに来た保護者に余裕がありそうなときは「〇〇くん(きょうだい児)が描いた絵を廊下に飾っています。〇〇くん、お母さんに絵を見せてあげたら?」などと声をかけて、きょうだい児と保護者だけの時間をつくるようにしましょう。家庭では、きょうだい児とふたりきりで過ごす時間はなかなかとれないものです。つかの間でも、親子ふたりきりで過ごす時間を設けることで、保護者もきょうだい児も元気になれたり、心が癒やされたりします。
きょうだい児の中には、家庭でお手伝いや当該児のサポートなど年齢以上に難しい役割を求められるケースも。過度な役割を担わせるのは、子どもの心の成長に影響を及ぼす場合もあります。そのような様子があるときは保護者会の機会を利用し「子どもたちは、家庭ではどのようなお手伝いをしていますか?」などと質問して、保護者同士で意見交換をする場を設けて、きょうだい児の保護者が気づくきっかけをつくりましょう。
—————————・Aさん(20歳)・当該児:弟(9歳)自閉スペクトラム症(ASD)—————————弟は幼い頃から空気が読めず、お店の中などで突然、大きな声を出したりします。周囲の人からジロジロと見られて、恥ずかしいと思ってしまったこともありました。母に診断名を聞いたのは中学3年生のときです。インターネットでいろいろ調べて「なぜ?」と落ち込んだ時期もありました。しかし、弟を学校に迎えに行って支援学級の先生と話したりしているうちにサポートが必要だとわかりました。幼い頃、弟は体の使い方を体得するために水泳や体操、バドミントン教室に通っていました。私は、そんなにたくさん習わせてもらえずに嫉妬したこともありますが、今は弟のサポートに注力していた母の気持ちが理解できます。弟が友だちとあそぶ姿を見るだけで、ほっと安心します。
—————————・Bさん(19歳)・当該児:姉(23歳)注意欠陥障害(ADD)※※「ADD」は診断を受けた当時の診断名で、現在は「ADHD」に変わっています。—————————姉は、よく物をなくします。私が保育園や小学生の頃は、物がなくなると「ここにあった〇〇知らない?」と私のせいにするので、よくけんかになりました。また、母が姉を連れて療育に通っていたのですが、私は療育とは知らなかったので「ふたりだけで出かけている!」と思って、うらやましく感じたこともあります。姉の特性に気づいたのは、私が4~5歳の頃。母が姉に「あなたは物をなくすから、ここにいつも置くようにしなさい」と話していたり、登校前に母が口頭で持ち物の確認をしているのを一緒に聞いていたためです。母に直接、特性のことを説明されるよりも受け入れやすかったです。最近、私は多様性について学んでいますが、きっかけとなったのは姉の存在です。
—————————・Cくん(14歳)・当該児:弟(9歳)自閉スペクトラム症(ASD)—————————弟は多動傾向もあり、外出するとすぐに走ってどこかに行くので、幼い頃から母が付きっきりでした。ぼくの誕生日ケーキのロウソクを「消したい!」と言って譲らないので、消させてあげたことも。当時は、そうした弟の特性が理解できなかったです。しかし弟が就学する前に、母に特別支援学級に在籍すると聞いて、弟と一緒に小学校に通うようになってからサポートが必要なんだ……とわかりました。弟は、ランドセルを背負うことを嫌がって歩かなくなってしまうので、ぼくが弟のランドセルを持って一緒に登校したことも。でもぼくは、弟の面倒を見ることが苦ではありません。うちは男3人きょうだいだけど、弟がいるから楽しくあそべます。やっぱり、きょうだいがいてよかったと思います。
—————————解説:川上あずさ(奈良県立医科大学医学部看護学科 小児看護学教授)博士(看護学)。小児看護学をはじめ、自閉スペクトラム症児と家族・きょうだいの関係について研究する。取材・文:麻生珠恵
(世界⽂化社・発達支援の保育専門誌「PriPriパレット」2023年10・11月号より転載)※画像はイメージです
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