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「友達と仲良くしてほしい」「人の話をきちんと聞ける子に育ってほしい」親として誰もが望むことでしょう。では、子どもが人間関係につまずかない為に親としてどんなことができるでしょうか。
児童精神科医の第一人者である佐々木正美先生は、半世紀以上にわたり、子どもの臨床にたずさわりながら、さまざまな親子に寄り添ってきました。佐々木先生の著書『【新装版】抱きしめよう、わが子のぜんぶ』(大和出版)では、思春期を迎える前に今から知っておきたい子どもへの接し方について、さまざまな親子のエピソードとともに解説しています。
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今回は「思春期には、こんなまなざしが大切」より、一部抜粋してお届けします。
※画像はイメージです
小学生や中学生、あるいは高校生になって、友だちと仲良くなれなかったり、先生の話を聞けなかったりする子がいます。
それは、親がそれまで子どもの話を聞いてこなかったことが、原因のひとつかもしれません。
話を聞いてもらったり、聞いてあげるという感性が子どものなかに育っていないのです。
小さな子どもは、親に毎日のさまざまな話を聞いてもらいたいという欲求がとても強いのに、それがずっと満たされなかったのですね。
私のカウンセリングで、援助交際をしてきた子どもたちが延々と自分の話をするのも、小さな頃から親に聞いてもらいたいことがあるのに、それを聞いてもらえなかった不満を成長した今、発散させているのです。
こうした状況を改善するには、どうしたらよいのでしょうか。
前にも少しふれましたが、まず、親自身が人との関係を築けるようになる必要があります。たとえば、お母さんが夫に話を聞いてもらうのもいい。
あるいは、お母さんが職場でも地域社会でも、そのほかのところでもいいのですが、なんでも話すことができる友人を見つけるのもいいと思います。
もちろん、その際には、相手の話も聞かなければいけません。
要は、自分の気持ちを聞いてもらえる人や、聞いてあげる人を見つけることがいいのです。
現在の状況をつくっている、その根本的な原因は、お母さん自身が自分の気持ちを聞いてもらえずに大人になってしまったことにあるのですね。
そうした人が、親になったからといって、子どもの気持ちをゆっくり聞いてあげることはむずかしいでしょう。
ですから私は、お母さんを単純に責めることはできないと思っています。
けれど、だからこそ、話のできる人を見つけてもらいたいのです。診療で、私が相手の話をただひたすら聞き続けるのは、こうした理由があるのです。
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これは、精神医学の原点ですが、ふだんの私たちの生活も同じです。
相手の悩みに、適切に、上手に、たくさんの言葉を使ってこたえなければいけないということはありません。そんなことは二の次三の次。一生懸命聞いてあげることが大事で、これはすべての人間関係の基盤を築くものです。
そんななかで、その人が実行できそうなことを選んで、ほんのちょっとだけアドバイスできれば、もう十分です。
ふだん、子どもと話す機会があまりないという家庭。あるいは、大きくなったら急に自分のことを話さなくなってしまったと思っている方。
そんなとき、私なら食事の話からはじめるようにアドバイスします。食事や献立についての話は、しやすいものです。また、お母さんがしてあげることですから、期待にもこたえてあげやすいものです。
「お母さん、これから夕食の支度をするので、スーパーマーケットに買い物に行こうと思うけど。何が食べたい?」と聞いてあげるのです。
「おやつにはどんなものが食べたい?」というのでもいい。
できるだけ子どもの希望を聞き、つくってあげます。
ほとんど会話が途絶えていた親子も、これをきっかけに徐々に話ができるようになります。
「今日のハンバーグはどうだった?」と聞いてあげるうちに、ほんの少しずつ、話の内容が発展してきます。
「この前のほうがよかった」とか、反応が返ってくるようになるかもしれません。
そうなれば、そこからだんだんと会話ができるようになるでしょう。ただし、このときには、聞いてあげる姿勢を親がしっかりもっていなければいけません。
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食事の話のあとには、おやつの話をしてもいいでしょう。
「お茶が入ったよ、おやつだよ」とか、「ケーキがいいか、おせんべいがいいか」でもいいのです。
希望を聞いて、それを出して、みんなで食べる。そうすればおしゃべりができるようになります。最初から話が弾まなくても、ほんの二言三言でいいのです。
そして、私が援助交際をしていた少女の話を聞くように、相手の話をおもしろいという気持ちで聞いてあげたいものです。
おもしろいふりをしていては、子どもは本当に話したいとは思いません。真剣に興味をもって聞いてあげないと、気持ちは通じません。
自分が好きな音楽と必ずしも同じでなくても、子どもが好きな音楽を聴いているうちによさがわかってくるかもしれません。わかろうとしてあげなくてはダメです。
好奇心をもって、本当に楽しんで、子どものいうことを理解する努力が必要なのです。
相手が子どもであってもなくても、気持ちを理解して共感するということは、自分の気持ちを理解し共感してくれる人を、家庭の内外にもっていることが、本当は必要です。
夫や妻や友人や職場の同僚といった日常的に出会う人たちと、日々、共感しあって生きているということが、前提として重要です。
自分の気持ちを理解し共感してくれる人がいなくて、相手の気持ちに共感するなどということは、聖人でもない限り不可能なことです。
現代人の不幸は、このような相手を失った状態で、一見、日々気楽に利己的な生き方を求めすぎてきた結果によるところが大きいということに気づかなければなりません。
人は自分の幸福だけを求めていたのでは、自分の幸福に出会うことができないという事実に、そろそろ私たちは気づくべきではないでしょうか。
私たちは、だれか大切な人といっしょに喜びあうことで、はじめて幸福になれるものなのですから。
一生懸命、ただただ聞いてあげる。これが、すべての人間関係を築く原点です。
→『【新装版】抱きしめよう、わが子のぜんぶ』のほかの記事はこちら
この記事は、佐々木正美著『【新装版】抱きしめよう、わが子のぜんぶ』(大和出版)より一部抜粋・再編集したものです。
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